韓国ユニクロで営業は継続するがGUに向かい風

5月21日、ファーストリテイリング傘下のGU(ジーユー)は、今年8月をめどに韓国で運営する3店舗すべてを閉店すると発表した。GUのオンラインストア事業は、韓国ユニクロのもとで営業が継続される予定だ。今回の店舗閉鎖の背景には、日韓関係の悪化などで根強い反日感情が続いていることがある。

写真=Penta Press/時事通信フォト

4月にファーストリテイリングが発表した2020年8月期の上期決算資料でも、日韓関係の悪化が韓国の消費者心理を悪化させ収益が減少したと明記されている。また、コロナショックによる世界的な景気後退や、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の経済運営の失敗などの影響もある。GUは、そうしたマイナス面の影響が今後も続くと予想し、店舗営業の停止を決めたとみられる。

韓国の若年層や経済界には、韓国が反日姿勢を貫いたまま国力を高めることはできないとの見方もあるものの、文大統領が自身の支持率維持のために、「反日」と「南北統一」を二枚看板とする政策を修正することはないだろう。日本企業、特に直接的に韓国の消費者と接するビジネスは受難の時期が続くことが予想される。

■ファストリ「韓国事業を強化しても収益が悪化」

ファーストリテイリングは、韓国で2005年にユニクロ事業を開始し、2018年にはGU事業も開始した。同社は中国に並ぶ重要市場として韓国事業の強化に取り組んできた。しかし、昨年後半以降、韓国における同社の収益環境は悪化している。

その背景となった要因の1つが、日韓関係の悪化だ。

2017年の大統領選挙で当選した文在寅氏は「反日」と「南北統一」を二枚看板に掲げている。文大統領は、過去、日韓両国の政府が“最終的かつ不可逆的”に合意した請求権問題などに関する協定を反故にした。軍事転用が可能なフッ化水素などの輸出を適切に審査しているか、文政権の輸出管理体制にも疑義が出始めた。

昨年7月、わが国は韓国の輸出管理体制に不安があると判断し、韓国に対するフッ化水素など特定品目の輸出管理の運用を見直した。さらに、政府は輸出管理を簡略化する“優遇対象国”から韓国を除外し、個別審査制に戻した。それらは、国際社会の安定を維持するために必要な措置であり、各国からも相応の理解を得た。

■文在寅の支持率維持に不可欠な反日政策

わが国の対応は韓国向け輸出に対して新しい規制を設けるという意味での規制強化ではない。なお、EUは韓国を輸出優遇国として扱っていない。

文政権は日本が対韓輸出規制を強化し、元徴用工の賠償問題などへの報復を行っていると一方的に批判を展開した。その主張が韓国世論の反日感情を燃え立たせた。韓国ではわが国企業の製品への不買運動などが激化した。

その結果、ファーストリテイリングが注力してきた韓国事業は不買運動に直撃され、収益が大きく減少した。わが国のスポーツウェア、ビール、自動車など多くの企業においても韓国事業の収益が悪化した。

本年4月の総選挙において文大統領は勝利し、同政権は反日・南北統一の姿勢を引き続き重視している。現在、元慰安婦支援団体に関する疑惑が浮上してはいるものの、文政権の対日姿勢に大きな変化は見られない。

■一時的な痛みを伴う改革に着手できない代償

ファーストリテイリングは、韓国のファンダメンタルズ(経済の基礎的な条件)の悪化にも直面している。それに加え、同社は反日感情が追加的に悪化するリスクにも備えなければならない。

当たり前だが、経済環境が悪化すれば、失業が増え、社会の不満が高まる。2018年3月以降の米中通商摩擦やコロナショックの発生によって、韓国の輸出は大きく減少した。輸出依存度の高い韓国経済は縮小し、2020年はマイナス成長が不可避の状況にある。

また、文氏は最低賃金の引き上げによって、世論の不満を解消しようとした。その結果、企業経営は悪化し雇用が失われ需要が落ち込み、ファーストリテイリングの韓国事業は悪化した。

経済の停滞懸念が高まる状況下、本来であれば為政者は規制緩和や構造改革を進めて経済の実力を高めなければならない。しかし、労働組合や市民団体を支持基盤とする文大統領は、一時的な痛みを国民に与える改革に着手できない。

その代わりに、世論の不満のはけ口として、同氏は反日姿勢を強めてきたように見える。昨年夏場など、韓国経済の先行き懸念が高まる中で、文大統領が反日姿勢を鮮明に示すと、大統領支持率が上向くことが確認された。

その事実を踏まえると、ある意味、文大統領は、経済運営の失敗に不満をためこむ世論からの批判が自らに向かわないように、国内の反日感情を煽ったと解釈できる。そうすることで、歴史問題などに憤りを抱え続けてきた人々の心理に寄り添う姿勢を示し、経済運営の失敗を糊塗しようとしたといっても過言ではない。

コロナショックによって世界的な貿易取引の減少により、韓国の雇用・所得環境は悪化し、社会の閉塞感は一段と高まりつつある。不満解消のために、文氏は反日姿勢を重視せざるを得ない状況が続くだろう。経済と消費者心理の悪化リスクを避けるためにファーストリテイリングはGUの韓国店舗の閉鎖を決めた。

■日本を重要視する韓国の若者

今後の展開を考えると、短中期的に日韓関係が修復に向かうとは想定しづらい。5月以降、韓国では集団感染が発生し、ソウルを含む首都圏では外出自粛が再要請された。先行きの経済への懸念が高まり、6月上旬まで2週続けて文大統領の支持率は低下した。

その状況に対応するために、文大統領が反日姿勢強化のカードは手放せないはずだ。目下、本邦企業が韓国事業の立て直しを目指すのは難しいだろう。

その一方で、韓国の若者や経済界では、反日姿勢を取り続けたまま韓国が経済の安定を目指すことはできないとの見方が広まりつつある。若い人の中には、政権とは対照的に日本を重要視する声がある。

就業機会が乏しい韓国よりも、日本の方が相対的にチャンスに恵まれていると考える学生は少なくない。わが国に留学する韓国人留学生の中には、本邦企業への就職を希望する人が多い。

また、経済界では、日本との関係を抜きにして韓国が経済の安定を目指すことは難しいとの見方が多い。事実、韓国の半導体産業は、わが国の素材、人材、資金に依存している。3月中旬のように世界の金融市場が大混乱に陥ると、カントリーリスクの高い韓国からは一気に資金が流出してしまう。

■日本企業が韓国事業を強化する日

未来永劫、韓国が反日姿勢を続けることはできない。

米中対立の先鋭化も韓国経済にとって大きなリスクだ。米国はファーウェイへの制裁を強化した。中国は半導体生産のためにサムスン電子など韓国企業との取引を一段と重視している。米国は韓国に圧力をかけ中国との取引を見直すよう求める可能性がある。

そうなると韓国経済はさらに厳しい状況を迎える。

長い目線で考えると、韓国は対日政策を見直し、日米との連携を通して自国の経済、安全保障の安定を目指さなければならなくなるだろう。ということは、文大統領もどこかで反日姿勢を弱めざるを得なくなる。

わが国の企業が韓国での事業を強化するには、そうした変化を待たざるを得ないだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)