三池淵ジャガイモ粉生産工場を現地指導した金正恩氏(2017年12月6日付労働新聞より)

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北朝鮮北部、両江道(リャンガンド)の大紅湍(テホンダン)。故金日成氏が率いる東北抗日聯軍がこの地で日本軍と交戦したと伝えられ、地域一帯は革命の聖地として知られている。もう一つ有名なものがある。ジャガイモだ。

故金正日総書記は、北朝鮮が大飢饉「苦難の行軍」の真っ只中にあった1990年代後半、スイスとドイツの栽培技術を導入し、この地の協同農場で実施させた。この「ジャガイモ革命」は成功を収め、大紅湍はジャガイモの名産地として知られるようになった。

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現在、この地域で大々的な検閲(監査)が行われている。農場からあるものが忽然と消えたからだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

問題が起きたのは郡内の農事洞(ノンサドン)の協同農場だ。今年2月初め、春の農作業に向けて、倉庫長(倉庫管理者)が農機具、ビニール幕、種イモなどの営農資材の在庫状況について調べていた。ご多分に漏れず、ここも営農資材の不足が深刻だ。

ところが、あるはずのものがいくら探してもないのだ。片栗粉だ。使いみちは不明だが、北朝鮮では片栗粉が農作業に何らかの形で使われるようだ。調べを進めた倉庫長は、農場の作業班長と農場管理委員会のイルクン(幹部)数名がグルになって2月初めに片栗粉を3トンも横流しした証拠を掴んだ。

倉庫長は今月初め、問題を提起した。しかし、幹部らは自らの不正行為の漏洩を防ぐために、倉庫長を解任した。倉庫長は上部に信訴を提起し、それを受けて両江道は、農場の検閲を始めた。検閲委員会と保安局からなる合同検閲組は、郡内すべての協同農場に対象を拡大した。

まだその結果は出ていないが、全域で同様の不正行為が暴かれる可能性がある。種イモなど営農資材の横流し、横領は頻繁に起きていて、犯人に実刑判決が下されたこともある。

今回も、国際社会の制裁と新型コロナウイルス対策としての国境封鎖で食糧難に拍車がかかっている状況から、単なる警告では済まされず、見せしめとして解任、更迭、革命化(下放)などといった重罰が下される可能性があるというのが、情報筋の見方だ。

さらに、歴代の最高指導者が特別な関心を寄せ続けてきた地域だけあって、より問題が大きくなる可能性があるという。

しかし、送り込まれた除隊軍人が音を上げて逃げ出してしまうほどの生活環境の悪さ、貧困など根本的な問題が解決する見込みがない現状で、同様の問題はいくらでも再発するだろう。