過去の研究により「瞑想(めいそう)は実際に脳を変えている」ことが科学的に証明されていますが、新たに、長年にわたり瞑想を行ってきたチベット仏教の僧侶の脳をスキャンした結果から、「瞑想をする人の脳の成熟は早く老化は遅い」可能性があることが判明しました。

BrainAGE and regional volumetric analysis of a Buddhist monk: alongitudinal MRI case study

(PDFファイル)https://centerhealthyminds.org/assets/files-publications/adluru-brainage.pdf

Meditation may have shaved 8 years of aging off Buddhist monk's brain | Live Science

https://www.livescience.com/buddhist-monk-meditation-brain.html

チベット仏教の僧侶であるヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェ氏は、9歳のころに父トゥルク・ウゲン・リンポチェに師事して瞑想を始めて以来、長年瞑想を実践してきた人物です。ウィスコンシン大学マディソン校の心理学者リチャード・デビッドソン氏らの研究グループは、そんなミンゲール・リンポチェ氏の脳を14年間にわたってスキャンして、同年代の成人105人のスキャン結果と比較しました。

研究グループが特に注目したのは、脳の灰白質という部分です。老化に伴って脳が萎縮すると灰白質が減少するため、機械学習を利用したBrain Age Gap Estimate(BrainAGE)という手法で灰白質の構造の推移を分析することで、脳の老化を測定することが可能だとのこと。

14年間に4回実施されたミンゲール・リンポチェ氏のMRIスキャンの結果を分析した結果、最後のスキャンが実施された当時41歳だったミンゲール・リンポチェ氏の脳は、実年齢より8歳も若い33歳相当だということが判明しました。この結果についてデビッドソン氏は「これまで6万時間以上も瞑想してきた僧の脳が、対照群の人の脳より老化が遅いというのは、大きな発見でした」とコメントしました。

以下は、実際にMRIでスキャンされたデビッドソン氏らがミンゲール・リンポチェ氏の脳の画像です。



研究グループはさらに、ミンゲール・リンポチェ氏の脳の老化が遅かった一方で、脳の成熟は早かったことも突き止めています。デビッドソン氏によると、脳には自己制御に重要な役割を果たす領域が存在しており、その部分は20代半ばから後半ごろにかけて発達するとのこと。デビッドソン氏は「自己制御に関する脳の領域の発達がどんな効果をもたらすかは、はっきりとは分かっていません。しかし、瞑想は自己制御を助長すると考えられているため、瞑想する人の脳の成熟が早い可能性が示唆されたのは、自然な結果だといえます」と述べました。



デビッドソン氏らの研究グループは今後、ミンゲール・リンポチェ氏と似た環境で過ごしてきた人への調査などを通じて、ミンゲール・リンポチェ氏の脳が若かったのが瞑想によるものなのか、健康的な食事や汚染物質が少ない環境での生活によるものなのかを確かめていく方針だとのことです。

また、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの神経学者であるキラン・ラジニーシ氏は、科学情報サイトLive Scienceの取材に対し「ストレスは単に心理的な影響をもたらすだけでなく、細胞レベルでの老化の原因でもあるので、瞑想は生物学的にも理にかなったものです」と述べて、瞑想が脳の健康に良いというデビッドソン氏の推察を支持しました。

ラジニーシ氏はさらに、「今回の研究結果は家庭でも実践できます。おそらく、数分間程度の瞑想でも、老化を遅くする助けになることでしょう」と述べて、僧侶のように厳しい瞑想を行わなくても効果が期待できるとの見方を示しました。