「ポッ、ポッ、ポッ、ピーー...」

画面いっぱいに映し出される、人間の「目」のような時計。定時5秒前に現れ、3秒前から音でのカウントダウンを始める「NHK時計」を、あなたは覚えているだろうか。NHKがかつて放送していたテレビ時報で使われていた時計のことだ。

いつの間にかテレビから消えてしまい、てっきり過去のものとなった印象のNHK時計だが、意外なところにまだ残っていた。

これは、放送作家・鮫肌文殊さんの2019年11月26日のツイート。NHK局内には、時報放送で使われた「NHK時計」と同じデザインの掛け時計があるというのだ。この投稿をきっかけに、ツイッターでは、

「NHKの時報の時計だー!!懐かしーい」
「3次元に実在したとは...」
「あの時計やん!実際にあるんや!」

といった声が寄せられ、注目を集めている。

そこでJタウンネットは12月6日、話題になったNHK時計について、NHKの広報担当者に詳しい話を聞いた。

「NHK時計」グッズ化していた

実は局内に設置されている掛け時計は、かつて関連会社であるNHKエンタープライズが販売していたもの。

NHKの広報担当者によると、掛け時計が販売されていたのは2007〜16年。価格は9800円(税抜)で、水色の縦縞が入った青版と木目版の2種類を取り扱っていた。このほか腕時計の販売や、NHKオンラインLabブログ(すでに終了)で、時計画面をブログに貼りつける「ブログパーツ」の無料配布を行っていたが、いずれも終了している。

現在、NHK時計を楽しむ方法は、スマホ用アプリ「NHKとけい」があるとのこと。iOS版、アンドロイド版をそれぞれ公開している。


NHK時計(木目調)の掛け時計バージョン(画像はツイッターユーザーのかも@kamoxevicさん提供、NHKスタジオパーク内で撮影)

ここでNHK時計の歴史を振り返ってみよう。

担当者によれば、時報をテレビ画面で表示するNHK時計の放送は1953年のテレビ本放送開始からほどなくして始まった。当初はスタジオ内の柱に掛けられた振り子式の時計を撮影し、正午のニュースを前などに放送していたという。

55年には文字盤の周りがレンガ模様の時計を採用、「時計の円盤が各家庭のテレビ画面で歪んでも目立ちにくい」という理由があったようだ。

65年10月にはより明るく近代的な印象を持ってもらえるよう、背景が木目調の時計に変更。その後は4〜9月が青版、10月〜3月が木目版と使い分けられようになった。

掛け時計にもなったこの2つのデザインは90年代初めごろまで放送され、NHK時計として1番長く放送された。

テレビ時報が終了したのはなぜ?

さらに驚くべきことに、1965〜90年代まで放送された2つのデザインは実物の時計を使っている。

実物の大きさはタバコ2箱くらい。これをカメラで撮影し、別に撮影したそれぞれの色の紙を背景に合成して放送した。90年代以降の背景は撮影した紙ではなく、作成した画像データを合成した。

実物の時計は、時刻の基準を決める親時計装置から1秒毎に送られる信号で動く仕組み。正確な時刻が表示されていたという。現在、この時計は「NHK放送博物館」(東京都港区)に展示されている。

NHKにおける時報はアナログ放送の終了をきっかけに、11年7月23日をもって終了。地デジ化に伴いNHKから時報が無くなった理由を、担当者はこのように話す。

「デジタル放送では、多くの情報を送るためにデータをコンパクトにするために『圧縮』という処理を行います。一方、各家庭のテレビでは、圧縮されて送られてきた信号をもとの情報に戻す『解凍』という処理を行い、視聴できるようにしています。
この『圧縮』『解凍』に多少時間がかかるため、アナログ放送に比べて映像や音声が遅れて届きます。また、信号が各放送局を経由することで地域によって遅延時間が異なり、正確な時報が出せなくなりました」

NHKの時報をテレビで見ることはなくなったが、1番長く放送されたデザインは掛け時計や腕時計として各地で時を刻んでいる。久しぶりにその姿を見に、博物館を訪れてみるのもいいかもしれない。