梅宮辰夫が最後に残した「テレビ界に思うこと」
梅宮辰夫さんが生前最後に残したテレビ界への直言とは?(写真:©能美潤一郎・双葉社/『不良役者 梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚』)
12月12日、「昭和のスター」がまた1人、この世を去りました。梅宮辰夫さん(享年81歳)。『不良番長』『仁義なき戦い』など数々の名作映画に出演してきた梅宮さんは、生前の最後に著作『不良役者 梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚』(20日発売、ネット書店など一部書店では18日から発売)を書き上げていました。伝説の役者たちの破天荒話と昭和映画界の荒々しい裏側をつづった豪快な秘話が詰まった本書から「今のテレビ界に思うこと」「キムタク救出伝説の真相」の章を抜粋、一部再構成してお届けします。
【編集部より】梅宮さんのご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。
「梅宮伝説」は現実とはまるで違うケースがほとんど
芸能界には「梅宮伝説」が、いくつもある。梅宮辰夫が、こんなことをやった、あんなことをしでかしたと面白おかしく語られ、それが映画ファンの間で、いつの間にか広まっているようなんだ(笑)。
こういう話を俺自身は、まるっきり気にしていない。どうぞ、ご自由に、どんな話でも伝説でも作ってくださいというのが正直な気持ちだよ。
だって、役者というのは人気商売だから。ファンの間であれこれ語られ、話題になるなんて、むしろ歓迎すべきだろう。
まあ、「伝説」の真相は現実とはまるで違うケースがほとんどなんだけどな。
山城新伍の創作した「梅宮伝説」にこんなのがある。
「おい、兄弟、杉村春子って、誰なんだ?『不良番長』に出てたっけ?」
そう俺が言ったというんだ。あいつにしたら、梅宮辰夫は東映以外の役者は知らない、自分が主演した映画に出ている女優以外は関心がないって、面白おかしく言いたかったんだろうけど、さすがに俺も天下の大女優・杉村春子さんを知らないはずがない。
真相は、こういうこと。
たまたま、映画の撮影の合間に新伍が杉村春子さんの話をしてたのかな。このとき俺は、なぜか杉村さんじゃなくて水谷八重子の顔が思い浮かんだ。年齢は俺より少し下。甘ったれたセクシーな声がいいんだよ。つまり、俺の頭の中にはもともと水谷八重子っていう女優を素敵だという思いがあり、それで、なんとなく勘違いしていたというわけさ。
そんなだから、新伍と話が噛み合うはずがない。
「辰ちゃん、誰の話をしてるんだよ。あっ、杉村春子さんを知らないんだ」
「えっ、水谷八重子の話じゃなかったのか。もちろん、杉村春子さんのことは俺だって知ってるよ」
こういうやりとりを新伍が巧みに膨らませて、ネタに仕立てたわけさ。「『不良番長』に出てたっけ?」なんてセリフは、あいつでないと思いつけない(笑)。
さらに、こんな「梅宮伝説」もある。ちょうど、俺がテレビにも出演するようになった頃だったかな。
「新伍、視聴率って何だ? あれが上がると、みんなで喜んでるし、下がると落胆してるだろ。いったい何なんだよ?」
もちろん、俺だって視聴率くらい知ってるぜ。いくら映画畑で育った人間だからって、そこまで世間ずれはしてないよ(笑)。ただ俺が言いたかったのは、視聴率の1%や2%で一喜一憂したり右往左往しなさんなってこと。それは今でも思う。視聴率が1%上がると、その番組でCMを流している企業の商品がどれだけ多く売れるのか。1%下がると、どれだけ売り上げが落ちて、企業の宣伝部が不機嫌になるのか。そんなことは知らない。でも、大事なのは視聴率じゃないだろ。ドラマにしろ、バラエティにしろ、面白い番組をつくるってことじゃないのか。違うか?
こんなことを言うのも、今、テレビで見たい番組なんて一つもないからだよ。たまに家族が見ている番組が視界に入ってくることがあるけど、ちっとも面白くない。視聴率だって、昔は30%、40%を超える番組もあったのに、今は10%を超えれば御の字だっていうじゃないか。
そもそも民放はCM収入で成り立っているから、見る分にはタダ。だから、視聴者も、なんとなくテレビ画面を見ているだけだと思うよ。あれが有料なら、視聴率もガクンと落ちるぜ。
映画は面白くなかったら、客が来ない
そこへいくと、映画は面白くなかったら、客が来ないからね。お金を払ってくれないわけだよ。だから、客を呼べる役者の映画がどんどんつくられ、世間の人たちの憧れの対象にもなった。それがスターだよ。
高倉健さんしかり、石原裕次郎さんしかり、三船敏郎さんしかり、勝新太郎さんしかり。それぞれ何百万人もの日本人を映画館に足を運ばせるだけのオーラや華があった。残念だけど、今、テレビの世界に、そんなヤツは1人もいないな。
でも最近は、テレビも地上波はダメだけど、衛星放送は元気だっていうじゃないか。有料で映画だけを放送しているチャンネルが、いくつもある。俺の古巣、東映だったら、東映チャンネル。健さんや鶴田浩二さん、菅原文ちゃんや松方弘樹、もちろん俺の主演作も、ここで見られる。
昔の俺の主演映画を観たファンに「こんな面白い映画があったんですね」って言われることも度々ある。衛星放送でもって、こうした昔の映画に親しむ若い映画ファンが増えてるっていうのは、俺としてはうれしい限りだよ。俺自身、今のテレビドラマなんかより、よほど面白いと断言する。
俺がテレビで視聴率と並んで嫌いなものの一つが、好感度調査ってやつ。
好感度の実態が何かといえば、要するに「親しみやすい」ってことだろ。そんなもんで役者やタレントを判断してつくった番組が面白いはずがないよ。
いつからこんな調査を始めたか知らないけど、少なくとも昔の東映の役者なんて、みんな好感度は低かったと思うぜ。不良っぽくて、危ない感じがする役者ばかりだから(笑)。健さんだってヤクザ映画に出てる頃なら、それだけでいい印象を持たない、お堅い方もいたはずだよ。でも、健さんの映画は熱狂的に支持された。
梅宮さんは最後の著作で「もし、本当にあの世が存在し、そこに山城新伍や松方弘樹、高倉健さんや鶴田浩二さんがいるんだったら、茶飲み話でもしながらのんびり過ごしたい」という言葉を残していました(写真:©能美潤一郎・双葉社/『不良役者 梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚』)
主演を張るような男優で危険な匂いがしないヤツなんて、なんの価値もないよ。人畜無害な印象しかない役者を前にして、ファンは心ときめくのかねぇ。
結局、今の役者が好感度を気にするのはCMの存在が大きいからだろう。映画やテレビドラマに出るより、CMに出たほうが金になるからね。そのCMに出続けるにはお茶の間の好感度が大事だし、スキャンダルは御法度ということになる。
俺は今だったら、役所広司という役者を高く評価する。演技もうまい。存在感もある。男の色気もある。2018年主演した東映の映画『孤狼の血』もよかった。
でも、あいつがテレビでラーメンや宝くじのCMに出て、おちゃらけてる姿を目にすると、日本の役者が置かれた現状を見るようで寂しくなってくるぜ。
「キムタク救出伝説」の真相
俺が渋谷で、チンピラに絡まれていた木村拓哉を助けたなんていう話も、まさに梅宮伝説として語られている。ホントはこんな話なんだ。
俺が女房と車でレストランに行く途中だった。ちょうど信号待ちをしていると、あるスポーツジムの前で小さな人だかりができて、なんとなく揉めている様子なんだよ。最初に気づいたのは助手席にいた女房だった。
「あれ、キムタクじゃないの? どうしたのかしら。パパ、助けてあげてよ」
もちろん、俺としてもそういう場に出くわした以上、放って置くわけにはいかないよな。すぐに車を降りて、彼のところに行ったわけさ。あいつとは、まんざら知らない間柄でもないからね。
かつて、アンナと2人で、SMAPのメンバー全員が出演していた番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)に出たこともあった。例の、連中が料理を作って食べさせてくれる「ビストロスマップ」ってコーナー。番組の中の看板企画だったんだってな。そんなことは、人に聞いて初めて知ったくらいさ。
俺たち親子が出たときは、北京ダックを使ったメニューを出してくれた。ここで俺はいつもの調子で、思ったこと、感じたことをズバズバ言っちゃったわけだよ。たとえば、キムタクが作った料理を食べる前に、余計なひと言。
「木村君は、この間、安い店で食ってたようだから心配だな」
さらに、いざ料理を口にしたとたん、
「これ、うまくねえな」
と、正直な感想が口を突いて出ちゃった(笑)。
でも、しょうがないよな。俺の舌がそう感じちゃったんだから。逆に、おべんちゃらを言うほうが相手に失礼だろう。もとより、俺は食べるものについては一家言どころか、二家言も三家言もあるほうだからね。
そんなキムタクと偶然、渋谷で遭遇してしまうんだから、やっぱり縁はあるんだろうな。騒ぎの中に割って入り、話を聞くと、キムタクがスポーツジムを出てきたところを、待ち構えていた週刊誌のパパラッチあたりがパシャパシャ写真に撮ったらしい。それで、キムタクは「フィルムをよこせ」と相手に迫り、撮った当人は「渡さない」とやってるわけだ。
「キムタクが怒るのも無理ない」
まあ、最近の芸能マスコミにはよくあることなんだけど、許可なくプライベートな写真を撮るっていうのはよくないし、キムタクが怒るのも無理ない。
さて、どうしようかと思っていると、ちょうどそこに警察官が通りがかった。しかも顔なじみ。というのも、渋谷は俺の縄張りだからさ(笑)。いや、縄張りっていうのは冗談だけど、かれこれ50年近く住んでいるから、警察官の顔くらいはだいたい知っている。
「ちょっとモメちゃってるから、こいつのこと、よろしく頼むよ」
俺は警察官にそう言って、その場を立ち去った。
以後、このときのトラブルがテレビや週刊誌で話題になったという話は聞かない。無事、うまく解決したってことだろう。
おそらく「梅宮伝説」はその場に居合わせた一般の人が適当に脚色して誰かに話し、それが大勢の人に伝わる過程で、どんどん膨らんでいったものだと思うな。
そして、ついには「梅宮辰夫がキムタクをチンピラから救った」という話が完成した。俺にもまだ、コワモテのイメージがあるってことかもしれないね(笑)。
そういえば、SMAPもとうに解散してるんだよな。テレビはほとんど見ないから最近の芸能事情には疎いんだけど、そのくらいは知っている。
キムタクをはじめ、元メンバーの5人とも才能はあると思う。歌って、踊って、芝居もできる。おまけに司会業までこなしてしまうんだから、大したもんだ。ただし、料理の腕に関しては俺から見たら、まだまだ半人前だけどな(笑)。
元SMAPのメンバーに限らず、今どきのタレントや役者っていわれる連中はみんな、すごく器用だと思うよ。顔立ちも、そこそこ整っているしね。
梅宮辰夫にも近づけなかった輝きや雰囲気
だけど、俺から見ると、何かが足りない。その何かが大事なんだよ。「何か」とは月並みな表現をすれば、オーラだな。オーラっていうのは「近寄りがたい雰囲気」のことであり、そんなオーラを持っていてこそ本物のスターだと、俺は断言する。今、そんなオーラが感じられるのはキムタクくらいかな。
でも、往年の石原裕次郎さん、鶴田浩二さん、高倉健さん……みんなもっと凄まじいオーラがあったぜ。同じ役者でなかったら、俺だって、おいそれと近づけない眩い輝きや独特の雰囲気があった。
今は、そんなオーラはテレビの視聴者にとって邪魔なんだろうな。オーラなんかより親しみやすさが求められる時代になった。近所にいるお兄ちゃんやお姉ちゃんより少しカッコいいくらいのイメージが、ちょうどいいんじゃないの。
だから、役者の人気と映画の興行成績が直結しない。昔は「裕次郎さんが出てるから」「健さんが出てるから」って理由で、みんな映画館に足を運んだもんだよ。そんな時代がどんどん遠い過去になっていくようで寂しいね。同時に、古き良き昭和を謳歌できた俺は幸せだったと思うぜ。
梅宮さんは61年にも及ぶ芸能生活を過ごし、数々の伝説を残しました(写真:©能美潤一郎・双葉社/『不良役者 梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚』)