大船渡・佐々木、星稜・奥川以外にも逸材がずらり! 今秋のドラフト注目の高校生たち
2年春から創志学園のエースとして活躍した西。今年は2年連続の夏の甲子園出場を逃したものの、球速を154キロまで伸ばすなど進化を遂げた
両雄が小休止するなか、まるで「高校生の逸材は佐々木と奥川(おくがわ)だけじゃない!」という魂の叫びが聞こえてくるようだった。
今年の高校野球は「高校BIG4」と呼ばれた佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)、西 純矢(創志学園)、及川雅貴(横浜)の4投手がプロ垂涎(ずいぜん)の目玉とされてきた。だが、ここにきて佐々木と奥川のふたりが突出した感がある。
さしずめ「ロマンの佐々木、安心の奥川」といったところだろうか。最速163キロの佐々木は、一球投げただけで格の違いを見せる圧倒的なポテンシャルがある。一方の奥川は力と技を併せ持ち、調子が悪くてもゲームをつくることができる安定感が魅力。現段階でふたりとも、今秋のドラフト会議で複数球団が1位指名することは確実な情勢だ。
しかし、ふたりは侍ジャパンU−18代表に招集されたものの、U−18W杯本大会(韓国・機張)では大きく出遅れた。佐々木は右手中指に血マメができ、奥川は準優勝した夏の甲子園の疲労が抜けなかった。そんななか、自身の存在を大いにアピールした有望選手もいた。
かつてBIG4に数えられた西は、順調に階段を上っている。今年は春夏とも甲子園出場を逃したものの、そもそも全国の舞台で名前を売ったのは佐々木よりも奥川よりも早かった。昨夏の甲子園では強豪・創成館から16三振を奪って4安打完封勝利。鮮烈な全国デビューを飾った。
当時、奥川に西について聞くと「西くんのスライダーの使い方を勉強しています。僕とは比較にならないくらいすごいです」と語ったほどだ。
いかにも気の強そうなマウンド姿が印象的で、甲子園では腕を強く振るたびに帽子が飛ぶシーンが繰り返された。ただし、本人は「帽子が飛ぶということは、体に変な力が入ってバランスが崩れていること」と語っており、状態はよくなかったのかもしれない。審判から過剰なガッツポーズを注意され、ムキになってしまう幼さも見られた。
しかし、今年に入ってゆったりとしたフォームになり、低めに強いストレートを投げ込めるようになった。得意球であるスライダーに頼ることもなく、明らかにたくましさを増している。U−18W杯では強敵・アメリカを相手に3回を投げて2失点も、5奪三振と力を発揮した。
ドラフト戦線で佐々木と奥川への人気が集中することが予想されるが、もしかしたら西を「一本釣り」する球団が現れるかもしれない。
ほかにも投手では、宮城大弥(興南)、浅田将汰(有明)、前 佑囲斗(津田学園)といった好素材もいる。特に宮城は、貴重な左腕で制球力に優れるだけに、プロ側の需要は高そうだ。3年前にはU−15代表として国際大会を戦ったエリートでもあり、社会人野球のエースがマウンドに立っているかのような大人びたムードがある。
U−18代表の4番を務める東邦の石川。185cm・87kgと体格に恵まれ、高校通算54本のホームランを放つパンチ力と、巧みなバットコントロールも魅力だ
一方で、今年は「不作傾向」と言われる野手陣だが、面白い能力を秘めた選手は確実にいる。その筆頭格が石川昂弥(東邦)である。U−18代表では不動の4番打者を務め、大学日本代表との壮行試合ではフェンス直撃の2点二塁打を含め3安打と気を吐いた。
春のセンバツでは、投げては優勝投手、打っては3本塁打と大車輪の活躍。だが、本人は「ピッチャーにこだわりはありません」と打者への道を突き進みたい意向を持っている。広角に柔らかく、運ぶようなスイングが特徴で、木製バットへの順応性も高い。
石川が特殊なのは、基本的に打席で変化球を狙っていること。普通の高校生ならストレートを待ち、変化球は体の反応に任せることが多い。なぜ変化球を待つのか本人に聞いてみたところ、「ストレートが来ないので......」という至極シンプルな答えだった。小学生時代から超エリートとして名前が知られていた石川に、速球で真っ向勝負を挑んでくる投手はほとんどいなかった。石川の変化球への対応力の高さは、逸材ゆえに磨かれたものなのだ。
また、プロのスカウトが高校生野手を見る際、真っ先に注目するのはショートである。ショートを守れる選手は身体能力が高く、好素材が多いのだ。たとえプロでショートとして大成できなくても、ほかのポジションをこなせる可能性が高く、つぶしが利く。
ショートの守備が高く評価される八戸学院光星の武岡だが、50mを5秒台で走る快足も武器。打撃では苦手なインコースの克服を目指す
U−18代表メンバーでは、武岡龍世(八戸学院光星)と森 敬斗(桐蔭学園)が好素材ショートの双璧だ。
武岡は高校の大先輩である坂本勇人(巨人)の高校時代を上回るといわれる守備力が光る。グラブを常に地面の近くに置き、イレギュラーバウンドにも巧みに反応する技術は「高校1年のときにコーチに教わった」という。打撃は課題を残すものの、あるスカウトは「足も速いし鍛えがいがある」と高く評価している。
森は攻撃的なプレースタイルが魅力だ。大学日本代表との壮行試合では、格上を相手に果敢にバットを強振し、凡打でも自分の快足を見せつけるように全力疾走。前のめりなプレー姿に好感を抱いたファンも多かったに違いない。ただし前のめりすぎて、慣れないセンターの守備では打球に突っ込みすぎて頭を越されるシーンもあった。
石川、武岡、森の各選手はプロ志望届を提出すれば、ドラフト指名は確実だろう。
その年の目玉と呼ばれた選手よりも、注目度が低かった選手がプロで大成功を収めることは珍しくはない。あのイチロー(元マリナーズほか)もドラフト4位だった。今年も意外な角度から大スターが誕生することを祈りたい。
取材・文/菊地高弘 撮影/大友良之