刑務所ではじめて受けた愛情。非行少年を無償で支援する男がチカーノ・ギャングに学んだ家族観
先日、ヤバいドキュメンタリー映画を見つけてしまいました。
映画「HOMIE KEI 〜チカーノになった日本人〜」オフィシャルサイト
https://homie-kei.com/
主人公は実在する人物・KEIさん。元ヤクザでFBIのおとり捜査にはまり、10年以上アメリカの刑務所に服役。帰国後は稼業から足を洗い、家庭環境や心の問題を抱える子供たちを支援するNPO法人「グッド・ファミリー」を主催しているとのこと。
…いやいや、一体何が起こったら、そんな展開になるの…!?
〈聞き手=森伽織〉
刑務所・最恐のギャング「チカーノ」との出会い
森:
さっそくですが、KEIさんはなぜ問題を抱える子供たちを支援するNPO法人を主催しているんですか?
KEIさん:
そもそものきっかけは、カリフォルニアの刑務所でチカーノと出会ったことですね。
森:
チカーノ…?
KEIさん:
チカーノは、仲間のことを「HOMIE(ホーミー)」と呼びあうメキシコ系アメリカ人のギャングのことです。
彼らは10歳でクスリの売買を始めるような貧しい環境で生きていて。
異常に結束力が強いうえに、カリフォルニアの刑務所では受刑者の60%を占めているので、刑務所の中でも特に恐れられている存在でした。
森:
なんでまた、そんな恐ろしいギャングと出会うことに?
KEIさん:
29歳のときに、覚せい剤の密売でハワイのホノルルで逮捕されたんです。
その6カ月ほど前からホノルルで一緒に暮らしていた人がいたんですが、実はその人、FBIの捜査員だったようで…いわゆるFBIのおとり捜査にはめられたんですよ。
話のインパクトが強すぎるよ…
森:
そんな映画みたいな人生を歩まれてきたんですね…
KEIさん:
それで、自分が入ったのは重犯罪者が収監される、レベル4〜5の刑務所。ギャング同士の抗争や暴動、殺人がよく起こって月に何人も死人が出る環境なんですけど…
森:
(さっきからずっと話がヤバイ)
KEIさん:
刑務所に入ってすぐのころ、僕が食堂で座った席がビッグ・ホーミー(チカーノ・ギャングのボス)の席だったようで(刑務所の食堂は暗黙の了解で席が決まっている)。
「お前、誰の席座ってんだよ?」って何十人に囲まれて、刑務所内の野球場に連行され…
森:
怖い怖い…!
様子を見ていた刑務官に「お前、殺されちゃうから、走って逃げろ! 保護してもらえ!」って声をかけられたとのこと。やばい…
KEIさん:
んで、ビッグ・ホーミーと2人で話すことになって「なんでお前いつも1人なんだよ。どっかのグループに入らないのか?」って聞かれたんですが、「ここには日本人が1人もいないから」と答えたんです。
そしたら、そういう媚を売らない態度が気に入られたのか、ビッグ・ホーミーに「今日から俺の部屋に来い」って受け入れられました。
当時のKEIさん。「Federal Bureau of Prisons」=「連邦刑務所局」の意…
森:
すごい度胸…
でも、仲間意識の強いグループに突然KEIさんが入ることを、他のチカ―ノも快く受け入れてくれたんですか?
KEIさん:
最初は「なんでオリエンタルの奴がいるんだよ」と反発もありました。
でもすぐに認めてもらえるようになって、そこからは本物の家族同然に接してもらいましたね。
特に仲の良かったゴンザレスというチカーノのお母さんなんて、日本から誰も面会に訪れない自分をかわいそうだと言って、何度も面会しに来てくれました。
森:
え、KEIさんの面会に!?
KEIさん:
そう。しかも彼女たちも貧しい暮らしをしているのに、毎回食べ物を差し入れてくれるんです。
彼女はスペイン語しか話せないので、言葉も完全には通じないのですが、面会時間が終わりに近づくと毎回わんわん泣きながら帰っていく姿が印象的でした。
ゴンザレスは途中で別の刑務所に移ったんですけど、その後も彼のお母さんは自分に会いに、辺境の地まで毎週来てくれました。
KEIさんの活動拠点「グッド・ファミリー・パーク」にはチカーノとの写真がいっぱい
チカーノの異常なまでの家族愛「親の悪口を言われたらぶっ飛ばす!」
森:
KEIさんのご両親が面会に訪れてくることはなかったのですか?
KEIさん:
ありませんでしたね。
そもそも父は自分が生まれてすぐに蒸発したので顔も知りませんし、母には育児放棄されたので、一緒に暮らしたのは半年くらいだけ。
幼少期からずっと親戚の家をたらい回しにされて育ったので…
森:
波乱万丈な人生は幼少期から始まっていたのか…
KEIさん:
だから「家族観」や「親の愛情」は、刑務所の中でチカーノと出会って、はじめて教えてもらったような気がします。
チカーノは異常なまでに家族を大切にするんですよ。一般的な日本人からすると、どうしてそこまでするのか理解できないくらい。
森:
そんなにですか…!?
KEIさん:
たとえば、友だちに「君のお母さん、なんであんなに太ってるの?」と冗談まじりに言われたとしたら、なんて返します?
森:
「うちのお母さんよく食べるからね〜」とかですかね。
KEIさん:
ですよね。
でも、チカーノだったら「お前、なに人のお袋の悪口言ってんだ?」って迷わずそいつをぶっ飛ばして、大ケガさせかねないんですよ。
森:
そんなに!? やんちゃな人って親にも反抗するイメージがあるので意外です…
KEIさん:
日本だとそうかもしれませんね。
でも、チカ―ノの場合、貧しい暮らしや敵対するグループに殺されかねない環境を仲間と支え合い、乗り越えるために、ギャングとして生きているだけ。
「やんちゃ」になりたくて非行に走るのとは、また背景が違うんです。
チカーノたちとKEIさん。迫力あるお写真です…
森:
なるほど…
KEIさん:
家族や仲間と密に協力し、隣の家族が食料に困っていれば分け合うのが当たり前。
貧しさゆえにお金に狂わされない環境が、家族愛の強さを作っているのかもしれませんね。
日本でもバブルになるまでは、そういった義理人情があったように思うんですけどね。
KEIさん:
そういうチカ―ノの姿勢を見て、帰国後は自分自身の親子関係の修復にも努めました。
森:
ずっと疎遠だったのに、なぜ?
KEIさん:
たとえこのまま母親に愛情が芽生えなかったとしても、産んでくれたという事実は変えられないから「愛情」を持って接したいと心から思えたんです。
結局、途中から別々に暮らすことにはなりましたけど、母親が死ぬまで家賃や携帯代を払ったりするなどの経済的援助は続けるようにしましたね。
昇給したくて服役中に大学進学。元ヤクザ、勉強の楽しさに目覚める
森:
KEIさんは現在の活動のなかで、カウンセリングもされていますよね。どこで勉強したのでしょうか?
KEIさん:
アメリカで服役しているときに勉強しました。
森:
え、刑務所の中で!?
KEIさん:
アメリカの刑務所では、中卒だとどんなに働いても5ドル3セントしかもらえなかったのですが、カリキュラムを受けると昇給ができるので、大学に入学したんです。
最初は、刑期が減ってフェンスのない刑務所にいけるということで、「ドラッグプログラム」を受講しました。
そこからだんだん学ぶことが楽しくなってきて、家族愛について学ぶプログラムや心理学を学びました。出所までとにかく勉強しまくりましたね。
中学の授業ですらまともに受けていなかったのに、勉強にハマっていったとのこと
森:
すごく熱心…! でも、なぜカウンセリングだったんでしょう?
KEIさん:
仲間を助けてやりたかったんです。
アメリカの刑務所では、ある時期に自殺する人がたくさんいるのですが、いつだと思いますか?
森:
え、全然予想ができないです…
KEIさん:
クリスマスなんです。クリスマスを家族と過ごせないというのは、アメリカ人にとって耐えがたいことなんですよ。
実際、仲間のなかにも悩みを抱えて気分が落ち込み、鬱になる人がいました。
そんな仲間を助けてやりたいと思って、約3年かけてカウンセラーの資格を取得したんです。
自分の経験を活かせる社会奉仕活動をスタート
森:
そうやってチカーノの家族愛に触れたり、服役中にカウンセラーの資格を取ったりしたことで、ボランティア活動を行うことになったと。
KEIさん:
そうですね。
あとは、帰国後、自分がガキの頃からお世話になっていて「オヤジ」と慕っていた刑事に呼び出されて、「オマエは今まで散々社会に迷惑かけてきたんだから、社会奉仕しろ!」と言われたこともきっかけとなりました。
森:
それで、問題を抱える子供たちを支援する「グッド・ファミリー」の活動を始めたんですね。
活動内容について詳しく教えてください。
KEIさん:
子どもの非行に悩む親御さんたちからの問い合わせや、児童虐待やイジメ、登校拒否、家庭内暴力などのさまざまな相談を受け付けています。
メールや電話だけでなく、家まで出向いてカウンセリングをすることもありますし、以前は自宅で子どもを預かったりもしていました。
あとはマリンスポーツが楽しめる施設「ホーミー・マリン・クラブ」や、屋内施設「グッド・ファミリー・パーク」を建てたので、そこに子どもたちや子育ての悩みを持つ親たちを招いたり、子どもたちを無料で招待したりして、マリンスポーツを体験してもらうこともありますね。
森:
いざ、そのような活動を始めてみたときの、周囲の反応はどうだったんでしょう?
KEIさん:
開設当初からものすごい数の連絡がきました。基本的に無料で相談を受けていることにくわえ、当時はそういうサイトが少なかったので。
でも「元ヤクザが子どもを利用してんじゃないの?」なんて心ないことを言われたりもしましたね。
森:
それはひどい…
KEIさん:
ただ、活動を続けていくなかで賛同してくれる人が増えて、運営を手伝いにきてくれたり、寄付をしてくれたりする人も増えています。
2016年にはボランティア活動の実績が認められてNPO法人になったので、きちんと理解してくれている方はいると信じて、コツコツ活動を続けています。
森:
でも、ボランティアとはいえ、全部「無料」でやるのって大変じゃないですか?
KEIさん:
いや、そんなことは言ってられないと思ってます。うちに相談に来る人は、生活に困窮している方が多いので。
たしかに有料で子供を預かれたら自分は楽になるけど、行き場に困ってしまう人も出てきてしまう。
森:
たしかにそうですね…
KEIさん:
だから無料での対応は一貫していきたいです。
ボランティアでお金を作ることができなくても、自分の本を出版したり、テレビやラジオに出演したり、講演活動をしたりすれば、相談しにきてくれる人はもちろん、支援してくれる人も増えますしね!
あくまでも刑事さんと約束した「社会奉仕」として、これからも続けていきます。
お会いするまでは、「どんな怖い人なんだろう」と緊張していましたが、KEIさんはとても穏やかな眼差しで、熱いお話をしてくださる方でした。
その人情味あふれる人柄が、多くの相談者、支援者を惹きつけているのでしょう。
KEIさんの姿勢は、家族の悩みを抱えている人だけじゃなく、「変わりたい」と願っている人たちの背中も押してくれるのではないかと思いました。
〈取材・文=森伽織(@orca_tweet1)/編集=於ありさ(@okiarichan27)/撮影=森カズシゲ〉
児童虐待-子供の悩みをお持ちの方、ご相談ください | good-family
http://good-family.org/
KEIさんの活動に興味のある方はこちらをチェック!
チカーノKEI〜米国極悪刑務所を生き抜いた日本人〜 | 秋田書店
https://www.akitashoten.co.jp/series/6996
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