「抱っこができたら」身長100cmのママが乗り越えた“障害者の出産”というハードル
『週刊女性』の「人間ドキュメント」に登場したコラムニストの伊是名夏子さんが、初の著書『ママは身長100cm』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行した。
反対を乗り越えて
2児のママになる
「そのときの記事がネットで転載されてすごく読まれて、ビックリしちゃって!
そんなに興味を持ってくださる方がいるなら、本を書いてみようかなと。私が子どもを2人産んだことに驚かれるし、“どうやって子育てしているの?”と聞かれるので、いろいろな子育ての形があることを伝えたいと思ったんです。
あと、子どもが5歳と3歳になって、ちょっとだけ育児が落ち着いて書く時間ができたんですよ」
伊是名さんは身長100センチ、体重は20キロ。生まれつき骨が弱い骨形成不全症という障害があり、骨折を繰り返してきた。背骨は湾曲し、手足は細く変形している。重いものを持ったり、歩くことはできず車いすの生活だ。
実は、本書の発売直前にも、頭蓋骨、鎖骨、肩甲骨を折る大ケガをしてしまった。講演先に向かうため雨ガッパを着てひとりで外出。駅の改札を通るとき、電動車いすの車輪にカッパの裾が巻き込まれて投げ出されてしまったのだ。
「たまたま大雨で、今まで地域に5台あった福祉タクシーが2台になっちゃって予約もできなくて……。腹立たしいけど、しかたない。救急車で運ばれて自分でもビックリですよ。退院した後、先週はほぼ寝たきりだったけど、今週はちょっとずつ起きることができて。意外と私、大丈夫じゃん。アハハハハ」
あっけらかんと笑い飛ばす伊是名さん。ハードな人生を送りながらも、とにかく前向きで明るい。そして、強い。
沖縄で3姉妹の末っ子としてのびのび育ち、できないことは工夫して乗り切ったり、家族や周りの人に助けてもらったり。本書にもいくつもの逸話が軽妙な文章でつづられている。
例えば、進学した普通科高校にはエレベーターがないため、各階に車いすを置いて階段は友人に抱っこしてもらった。助けてもらう一方で、率先して係を引き受けたり、悩み相談に乗ったり。いつも友達の輪の中心にいた。
親の反対を押し切って東京の大学に入った後も、友人たちの手を借りてひとり暮らしを満喫。大学のサークルで出会った夫に何度もアプローチし、大恋愛の末にプロポーズされた。
ところが、夫の両親に猛反対され、ふたりの結婚式にも出席してくれなかったという。
「障害のある人と結婚したら、息子の人生がハチャメチャになるんじゃないか、苦労するんじゃないかと、パニクっている人たちに何を言っても無理でした。
それがね、孫が生まれた瞬間に、コロッと変わって(笑)。私の本も20冊買って、周りに配っているそうです。本当に、子どもには人を幸せにしてくれる力がありますよね」
さらりと言うが、出産に至るまでは、いくつものハードルがあった。まず、障害者の出産に前向きな産婦人科医を探すことが大変だった。伊是名さんは肺や心臓も小さい。母体が耐えられず、未熟児で生まれるリスクもある。
子育ては楽しい!
障害者こそ子育てを
「私は子どもが好きで、ずっと子育てをしてみたいと思っていたから、無理だと言われたら別な病院を探して。10か所くらい回って、運よくいいお医者さんに巡りあえて“できるところまでやってみましょう”と言ってもらえたんです。
同じ障害の友人たちも反対されながら産んでいます。お医者さんにノーと言われて、あきらめちゃった人もたくさんいると思うから、あきらめないでと伝えたいです」
また、骨形成不全症は遺伝するため、2分の1の確率で子どもに同じ障害が出る可能性もある。それでも、全然ためらわなかったそうだ。
「私自身、障害があるから大変とか、障害がなければよかったって、思ったことがないんです。自分が楽しく育ってきたから、自分の子どももそれなりに育てればいいと」
’13年に長男、2年後に長女を帝王切開により出産。2人とも2000グラムを超え、障害は遺伝していなかった。
日々の家事や育児は毎日10時間、10人の女性ヘルパーが交代で来て支えてくれている。だが、早朝や夜間などは、ほとんど伊是名さんのワンオペ状態だ。
「夫は夜勤のある仕事をしていて、ほぼ使えない状況で(笑)。後追いの時期は娘をひざに乗せたまま、お兄ちゃんの遊び相手をしたりして、私はトイレにも行けなくて。抱っこができたら、どんなにラクだろうと思いましたね。
子育ては大変だけど、楽しいこともいっぱいあります。子どもって、ママが大好きじゃないですか。100パーセント自分を肯定してくれて、必要としてくれることってなかなかないから、障害者にこそ子育てをすすめたいです」
本の表紙には子どもと一緒のカラー写真を大きく使用。タイトルの文字は5歳の息子が書いてくれた。書店では新刊コーナーだけなく、育児、エッセイ、福祉など、さまざまな棚に置かれている。
「新宿の書店では、タレント本コーナーにあるの。もう、超〜ウケる(笑)。店によって扱いが違うのは、ありがたいです。若者や男性、育児を終えた人など、たくさんの人に読んでもらいたいから。ひとりでも多く味方になってくれたら、障害者が生きやすい社会になるかな」
ライターは見た! 著者の素顔
大学時代にアメリカに1年、デンマークに3か月単身で留学した伊是名さん。旅行が大好きで、子どもを連れてミャンマーを訪れるなど、これまで訪れたのは17か国。
「観光地に行くより、スーパーに買い物に行って、ゲイカップルがラブラブしながら歩いているのを見たり、現地の人が好きな食べ物を教えてもらったり。
旅行に行くと、その場所でしか味わえないことがいっぱいあるし、環境がガラッと変わるので楽しいですね」
(取材・文/萩原絹代)