NTTドコモの5G普及のカギは、広域をカバーする「eLTE」! 5G通信で活かされる新旧の技術とレイヤーネットワーク構想とは

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●5Gへの本気を感じさせるNTTドコモの巨大な展示ブース
NTTドコモは、5月29日から31日まで東京ビッグサイトにて開催された「ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2019」に出展。提携企業とともに第5世代移動通信システム「5G」の技術展示などを行いました。

同社ブースは展示会場内でも最大のブース規模を誇り、5Gへかける同社の意気込み、本気度を感じさせるものでした。


シャープやNEC、ノキアといった大手企業から地方自治体まで、さまざまな企業が参画・協業していた


5G通信は、
・高速性
・大容量性
・多接続性
・低遅延性
これらを大きな特徴としていますが、すべての特徴を同時に実現するものではありません。

例えば、4Kや8Kのストリーミング動画配信では、
「高速性」と「大容量性」の2つが求められますが、「低遅延性」などはあまり重視されません。

一方、
自動車同士で通信を行い安全運転制御のサポートを行うV2X(Vehicle to X)技術では、
「低遅延性」による「超高速応答」これが最重要となります。

5Gは様々なメリットを、利用用途に応じて使い分けることができる技術でもあるのです。

そのため、展示ブース内では、
・映像配信技術
・安全技術
・エンターテインメント技術
など多岐にわたる展示が展開され、5Gが持つ可能性と汎用性の高さが強くアピールされていました。


4K/8K映像の5G配信技術は一般消費者にも分かりやすい活用例だ



遅延の少ない有線接続でなければ実用的ではなかったオンラインゲームも5Gなら快適に遊べる


●広域でのエリア展開が難しい周波数帯を使用する5G
5Gのエリア展開は、これまでの3Gや4Gのようには簡単にはいかない、難しい問題があります。

NTTドコモは4月に、
・3.7GHz帯:200MHz幅
・4.5GHz帯:200MHz幅
・28GHz帯:400MHz幅
これらの5G用周波数帯を割り当てられました。

3Gや4Gで用いる周波数帯に比べ、高い周波数帯域となっています。
電波の特性上、高周波数であるほど高速通信性が高くなる傾向があります。

しかしこれらの高周波数帯の電波には、
・直進性が強い(広がらない)
・回折性が弱い(ビルの向こう側などに電波が回り込まない)
・距離減衰が強い(遠くまで飛ばない)
・壁やガラス窓の浸透性が低い(屋内に電波が届きづらい)
これらの特徴があります。

そのため、5Gではアンテナを数多く、エリアごとに細かく配置しなければいけません。

とくに28GHz帯の周波数はこれらの特性がさらに際立つため、
「条件が揃えば速いが、扱いづらい」
こうした周波数帯となります。

ビルや遮蔽物の多い都市部では、とくにアンテナを細かく密に配置にする必要があります。
また、その配置位置にも十分注意を払う必要があり、急速なエリア展開が難しいのです。


5GアンテナはNECやノキア、エリクソンなどがNTTドコモとともに開発を行っている



●早期エリア展開のカギを握るのは「eLTE」
そこでNTTドコモは、「2つの5G」によるエリア展開戦略を考えています。
2つの5Gとは、
・都市部を中心とした全く新しい無線アクセス技術(New RAT)
・高速性とエリアカバー力を重視した「eLTE」
これらのことです。

eLTEとは「enhanced LTE」(エンハンスドLTE)の略称で、高度化LTEとも呼ばれます。
現在使われている4G LTE方式を発展させた技術です。
NTTドコモが採用している現在のLTEは、最大約1.5Gbps程度の速度を実現しており、これをさらに1〜2割ほど高速化して広域5G網として利用する計画です。

eLTEは既存のLTE基地局設備の改良や機能追加で対応できます。
そのためエリア展開が早く、周波数帯域もLTEそのままであるため、広いエリアをカバーできます。

そもそも5Gとは、1つの無線アクセス技術のみを指す言葉ではありません。
複数の通信方式や周波数帯をレイヤー化(階層化)し、それらのレイヤーをシームレスに接続したマルチレイヤーネットワークシステムを指したものです。

NTTドコモはそのシステムを最大限に活かし、既存技術と新技術を融合させることで、素早いエリア展開を実現しようとしているのです。


周波数や通信方式の特性を活かし、エンターテインメントから医療・交通安全の分野まで幅広い実証実験が行われる



●出遅れた5Gの早期普及を目指して
NTTドコモは、5Gの本格サービスを2020年春より開始する予定です。
今年9月には、日本で開催される「ラグビーワールドカップ2019」で5Gのプレサービスも実施されます。

海外ではすでに米国や韓国で5Gのサービスが開始されており、日本は約1年遅れて本格サービスの開始となります。

通信分野での1年の遅れは非常に大きく、
・技術的な遅れ
・エリア展開の遅れ
・対応端末の普及の遅れ
これらをどう解消するのかが課題となります。

NTTドコモの展開戦略は5Gが真に実現しようとしている「超高速・超低遅延・超多接続通信」の世界を実現するには少々遠回りですが、最も現実的な戦略です。

同社は5Gのエリア展開を、
・2020年に都市部エリアでNew RATおよびeLTEによるエリア展開
・2021年から全国域でNew RATおよびeLTEによるエリア展開
このように計画しています。

5Gはその高速性や大容量性から有線網の代替としても期待されており、
・山間部
・離島
・有線網敷設が困難な地域
このような場所でも低コストで実現できる通信設備として大きな期待が持たれています。

5Gが移動体通信のみならず、
固定回線の代替としても正しく機能するのか、
そしてその実現がどれだけ早期に行えるのか、
今後の実証実験や本格サービス開始に期待がかかります。


執筆 秋吉 健