左がZ型(一筆)、右がソ型(二筆)の「そ」

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「そ」という平仮名には、一筆で書く字形と二筆で書く字形の2種類があります。パソコンやスマートフォンで採用されているのは一筆の「そ」ですが、手書きの場合は一筆派と二筆派に分かれるようです。SNS上などでは「一筆の方を学校で習ったから、今も一筆派です」「いつのまにか二筆になっていた」「どちらも使う」「なんで2種類あるの?」など、さまざまなコメントが寄せられています。

「そ」が2種類生まれた理由や使い分けについて、手書き文字や字形に詳しい、上越教育大学大学院学校教育研究科の押木秀樹教授(書写教育)に聞きました。

平仮名に「正しい字形」の根拠はない

Q.平仮名の「そ」の成り立ちについて教えてください。

押木さん「平仮名は漢字の字形が元になっていますが、『そ』の場合、中国で漢字として書かれた『曽』が元です。『そ』には、上部が『Z』のように連続している字形と、『ソ』のように離れている字形があります。草書という書体で書かれた『曽』の上部にある2つの点が、『そ』においてつながるのか、つながらないのかの分かれ目となる部分です。

『そ』の成り立ちの過程を見ていくと、平仮名ができた平安時代から、書いた時の勢いなどによって当該部分がつながったり、つながらなかったりしていたようです。現代の私たちも上部をつなげて書いたり、書かなかったりするのは、その頃からの流れと考えることができそうです」

Q.なぜ2種類の「そ」があるのでしょうか。

押木さん「『そ』の字形の特徴のうち、『Z』『ソ』という部分の連続(画数)に着目すると2種類に分けることができますが、上部のつながり方に程度の差があったり、つながり方にも特徴の差があったりと、そもそも2種類だけとも言い切れないのです。

例えば、『ようこそ』という言葉を発する場合、男性の声、女性の声といった違いや、旅館の人の声、知り合いが出迎えてくれた時の声、心がこもった声など、コミュニケーションにおいてさまざまな種類の『ようこそ』が用いられています。

文字の場合も同様で、音声ほどではないにしろ、さまざまな『ようこそ』が字形としてありうることがコミュニケーションにおいて重要ですし、楽しさにつながるはずです。あくまでも『正しい文字として認められる範囲において』ではありますが、無数に存在することが字形の基本と言えるでしょう」

Q.Z型(一筆)とソ型(二筆)の「そ」は、どちらが「正式」と言えるのでしょうか。

押木さん「漢字の場合、『常用漢字表』(内閣告示、文化庁)とその『字体についての解説』において、正しい字体やいろいろな書き方がある筆写の楷書(かいしょ)の例などが明確にされています。また『常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)』では、正しいとされる例が具体的な字形によって示されています。

一方、平仮名の場合は、字体と字形に関する規準のようなものが示されておらず、漢字のように正しさや根拠が公的に明確にされていません。そのため、どちらが正しいという根拠を述べることはできません。

ただし、学校教育の場面では2種類の『そ』が混在しないように、現在用いられているほとんどの小学校教科書の字形では、つなげて書くZ型に統一されていると思います」

Q.字形の使い分けが求められるケースはありますか。

押木さん「正しければ、どんな字形の『そ』でもよいのかというと、そうではないと思います。字形の印象に関する調査では『字形の違いによって相手が受ける印象も変わる』という結果が出ています。

これまでの調査結果によると、『美しさ』などよりも優先されるのが『読みやすさ』であり、その上に『親しみやすい字』『整った字』『美しい字』『温かい印象の字』などが好みで選ばれるようです。

『そ』に関しても、Z型とソ型のいずれかを使い分けるというよりも、場面や相手に応じて読みやすく書くのが重要ではないかと思います。字形の望ましさには、見た目の『読みやすさ』や『美しさ』だけでなく、『書きやすい字形』や『覚えやすい字形』といった要素もあるのです」

Q.人によって親しみある字形や書き方が異なるようですが、年齢や地域による差はありますか。

押木さん「『そ』の字形に関する詳しい調査にはまだ着手できていませんが、ぜひ実施したいと考えています。例えば、小学校教科書の字形をずっと追っていくと、その変遷が見えてくるかもしれません」