AbemaTV(アベマティーヴィー)は、対決思考でプランを描いていない。同サービスを運営する株式会社AbemaTV(出資比率:サイバーエージェント60%、テレビ朝日40%)は5月28日、事業戦略と広告商品に関する発表会「AbemaTV Conference 2018」を開催。本イベントでは、AbemaTVとサイバーエージェントの代表取締役社長を務める藤田晋氏のほか、編成制作本部制作局 局長の谷口達彦氏、広告本部本部長の山田陸氏が登壇し、同局の最新事情を共有してくれた。「AbemaTVは、『地上波』対『ネット』という文脈で語られることが多いが、我々はそのような対抗意識は持っていない」と、藤田社長は口火を切る。「実際、番組の企画や制作は、テレビ朝日から出向してきている社員と協力して行っている」。タレントの稲垣吾郎氏、草磲剛氏、香取慎吾氏を起用した『72時間ホンネテレビ』。そして、将棋の歴史を次々と塗り替える中学生棋士、藤井聡太氏(現七段)を起用した『藤井聡太四段 炎の七番勝負』。この1年だけを振り返っても、AbemaTVは大きな話題を振りまく企画を連発してきた。2018年1月よりはじまった大相撲の中継も、「NHKの粛々とした中継とは対をなす強烈な編集に、従来の相撲感が覆される!」と、ねとらぼで評されている。これは、地上波の制作ノウハウがあってこそだという。

「一枚岩キャンペーン」

現在AbemaTVでは、社内の意識改革を進めているという。それを象徴するのが「一枚岩キャンペーン」だ。サイバーエージェントとテレビ朝日のオフィス内に、「一枚岩」と大きく書かれたポスターを貼ることで、両社の一体感を高め、さらなる連携を図ることを狙っている。

 

社内に貼られた「一枚岩ポスター」

 

AbemaTV立ち上げ以前の2013年から、テレビ朝日の番組審議委員を勤めたことが、サービスを立ち上げるきっかけになったと語る藤田氏。「当時、国内でネット動画サービスが拡大していくなか、テレビ朝日側の立場になって考えたときに、今後テレビ局はインターネットへの対応が急務になると感じた」。そのころ藤田氏も、テレビ業界を新たなビジネスのフィールドとして見据えていた。そうした背景から、AbemaTVの立ち上げに至ったという。ネット動画の波にいかに対応していくかという共通の成長戦略のもと、協業をスタートさせた両者は、開局2周年を迎え、さらにその結束を強化していく考えだ。

地上波のノウハウ

藤田氏に続いて登壇した制作局長の谷口氏も、テレビ朝日の制作ノウハウが、AbemaTVの企画力に大きく寄与していると話す。「毎週、藤田が自らテレビ朝日から出向しているプロデューサーと企画会議をしているが、話題になるような企画は、ほぼそこで生み出されたものだったりする。彼らが企画するプロコンテンツは、AbemaTVの強みだと思っている」。企画をする際には、AbemaTVのユーザーの大半を占める10代〜30代の視聴者にとって、話題性があるかを強く意識していると、谷口氏は続ける。テレビユーザーの視聴態度は基本的に受動的。AbemaTVでも同様に、特に見たい番組はないけど、家に帰ったらまずAbemaTVを立ち上げる、そんな受け身の視聴態度を、最終的に実現したいと思っているという。「ただ、その視聴習慣をつけるためには、見たら面白いではなく、絶対にこの番組を見たい、というような強烈な動機を持ってもらえる番組を増やさなければならない。話題性のある尖った企画を見るために集まったユーザーを、継続的なAbemaTVファンにすることができれば、いいループを作り出すことができる」。なかでも、谷口氏が今後期待しているのは恋愛リアリティーショーだ。もともと開局当初は男性ユーザーが中心だったが、こうした企画をはじめてから10代の女性ユーザーが増加傾向にあるという。現在、ユーザーの男女比は半々。「さらに、今後は10代だけじゃなく、F1層を狙ったような恋愛リアリティーショーも企画していきたい」。

  

「絶対にこの番組を見たい、というような強烈な動機付けが重要」と谷口氏

広告事業にも好影響

AbemaTVのコンテンツへのこだわりは、広告事業にもプラスに働いているようだ。同社が提供する広告商品はCGM型の動画メディアとは異なり、すべてプロコンテンツ。加えて、広告配信面の品質管理を厳しく行っている。「AbemaTVの広告商品はブランドセーフティに定評がある」と、広告本部長の山田氏は語る。「ブランドセーフティへの意識が高い、外資系クライアントからも、『プロコンテンツしかないAbemaTVなら是非出稿したい』という声を多くいただいている」。同サービスが提供する広告商品は、大きく分けてCM型とタイアップ番組のふたつ。前者に関しては15秒の短尺から、最大300秒の長尺まであり、いずれの長さのCMも視聴完了率が高いという実績が出ている。また、タイアップ番組は、AbemaTVに出演するタレントを起用してテレビのバラエティ番組仕立てにするなどの演出により、大きな反響を得ているという。ここでも、地上波でのノウハウが生かされていることがわかる。

  

「AbemaTVの広告商品はブランドセーフティに定評がある」と山田氏

Win-Winな関係を

「AbemaTVでは、インターネットメディアがマスメディアとなる指標として、1000万WAU(ウィークリーアクティブユーザー)という数字を設けている。この2年間で600万まで伸びており、広告効果も良い実績が出るようになってきた」と、最後に山田氏は締めくくる。「AbemaTVはテレビとも他のネットメディアとも異なる新たなポジションで消費者の生活を変えていこうとしており、その成長への期待も含めて、現在も多くの広告主に出稿していただいている。今後も時代に合った形での商品開発を行い、広告会社や広告主のみなさまとWin-Winな関係を築いていきたい」。Written by Kan MurakamiImage courtesy of AbemaTV