「金王朝」3代で粛清逃れる「ナンバー2」 五輪出席90歳・金永南の「処世術」
北朝鮮は2018年2月9日に開幕する平昌五輪の開会式に、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長が団長を務める高官級代表団を派遣する。金氏は北朝鮮の最高指導部のメンバーの一人で、朝鮮労働党では序列2位。憲法上は国家元首の役割を果たす。文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会談する可能性もある。
金氏は1928年2月生まれで90歳になったばかりという。金正恩委員長のもとで次々に幹部が粛清されるなか、金日成、正日、正恩の「金王朝」3代から信任を得てきた珍しい人物だ。五輪開会式出席はこれで少なくとも3回目で、ここ数年でもアフリカやイランを訪問するなど、高齢とは思えない「鉄人」ぶりを見せている。
80代後半でスーダン、ロシア、赤道ギニア、イラン...
金永南氏は金日成総合大学を卒業後、モスクワ大学に入学。朝鮮労働党入党後は外交畑を歩み、1983年から98年まで15年間にわたって外相を務めた。94年に金日成氏が死去し、追悼大会では金永南氏が追悼演説を行った。国家主席のポジションは金日成主席の死去で空席になり、正日氏の時代の98年の憲法改正で廃止に。その代わりに国家元首級のポジションとして設置されたのが最高人民会議常任委員会委員長で、金永南氏は約20年にわたって、この役割を果たしている。アントニオ猪木氏が訪朝する際にも会談している。
金永南氏は2008年の北京五輪、14年のソチ五輪の開会式にも出席しており、今回の平昌で五輪開会式は3回目。14年にスーダン、15年にロシア、16年に赤道ギニア、17年にイランを訪問するなど、80代とは思えないほどの活動ぶりだ。
外交問題に集中し、政治とは徹底的に距離を置く処世術
では、なぜここまで「生き残る」ことができたのか。朝鮮日報は、消息筋の話として、
「3代に渡って要職を務めているが、一度も革命化(思想改造)されなかった数少ない人物」
だと伝え、その背景には「外交問題に集中し、政治とは徹底的に距離を置く処世術」があるという評価もある、とした。東亜日報も、韓国政府関係者の「能力というよりは処世術がそれだけ優れているということ」という声を紹介。02年と05年に平壌で金永南氏と会談したという丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相は、02年10月に北朝鮮の核問題をめぐって強く抗議した際、金氏は
「北朝鮮側の論理から一歩も外れないように注意している様子だった」
と振り返ったという。「失点のなさ」で失脚を避けられた可能性もありそうだ。