AI時代にマーケティングの仕事はどう変わる?/猪口 真
AIの登場によって、「無くなる仕事」「生まれる仕事」、「ホワイトカラーの大半の仕事はなくなる」など、AIによって我々の仕事が大きく変わるといった話が花盛りだ。
当然、マーケティングに身を置く人に関しても無縁な話ではない。すでに「自分ごと」として危機感を持つ人はたくさんいるが、多くの人たちは何も感じていないのが現状だろう。
マーケティングの世界に身を置く人たちの仕事はどう変わるのだろうか。
AIとマーケティングというと、どうしてもWebマーケティングを中心とするデジタルマーケティングのことを指してしまうが、Webマーケティングは元もとテクノロジーによるマーケティングであり、AIによる進化は思い描きやすいだろう。
ただし世のすべてのマーケティングにかかわる人たちが、Webマーケティングをやっているわけではなく、いくら伸びているといってもEコマースの割合は、まだまだメジャーではない。
また、これもマーケティングの一部かもしれないが、SFAのデジタル化によるマーケテイングオートメーションが急速に広まりつつある。しかし、誤解を承知で言えば、これまでの営業プロセスを効率的に行うためにAI的なインテリジェントを活用するものであり、セールス活動をサポートするツールの域を出ているとは思いにくい。
しかし、現実にはすでに大きな変化が起きていることは間違いない。アマゾンのレコメンドはますます精度を高め、Googleの広告は頭の中を見ているかのように問いかけてくる。コンシューマーとサービス(商品)を結び付ける「場」は大きな変化を見せつつある。
ここで、今一度マーケティングのプロセスを振り返ってみる。様々なプロセスが存在するが、代表的なものとして、コトラーの言う「R・STP・MM・I・C」がある。
Rとは調査。市場・競合・自社の観点から環境分析を行う。STPとは、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングのことで、分析結果に基づき、市場をセグメンテーションし、商品のターゲティングを決め、商品の優位性(ポジショニング)を明確にする。
MMとはマーケティングミックス。R、STPで明確化された戦略を、4Pや4Cなどを使って具体化していく。
ここまでが戦略・立案のステップで以降が実行・振り返りのステップとなる。IとはImplementation(実行)であり、CはControl、実行した結果を「管理」「評価」「見直し」していく。
ちなみに、マーケティングと対をなすプロダクト側では、サプライチェーンというプロセスが存在する。そしてよく言われるのが、AIによるサプライチェーンの激変だ。サプライチェーンとは、原材料を購入し、加工し商品として価値を生み、顧客まで届ける連鎖のことだが、これまでは、生産部門は来期の生産計画を立てる際、販売・マーケティングが出す予測に基づき計画する、そして購買部門はその結果に基づいて原材料の購入計画をたてる、というプロセスを踏んでいた。
しかし、これまでのデータをふんだんにもったAIは、これらのプロセスをリアルタイムに行う。そうなると、販売と生産管理、生産と購買などの各プロセスにおける受発注業務の時間が大幅に短縮される、商材によっては不要になる。
先ほど紹介したマーケティングプロセスにも、同様のことが起きるのではないか。市場データなどの環境データと購買データなどの実データがそろいさえすれば、マーケティングプロセスの中で、「R・STP・MM」という戦略立案のプロセスは、瞬時に実現されることになる。正解・不正解化は別にしても、少なくとも「draft proposal」としては十分なものとなるだろう。ある変数をあらかじめ与えておけば、誰よりも早く多数の戦略プランが提示されることになる。インターネットの世界では、「I・C」のプロセスも実施されるため、ユーザーの動きに合わせてリアルタイムに、次回の戦略が描かれることになる。
もちろん、マーケティングには、コンセプチャルなスキルが伴うクリエイティブの世界があるが、その人たちですら、PDCAのサイクルか格段に早くなる。というか早くしなければならない。
マーケティングに関わるクリエイターを含めて、生きにくくなっていくのは間違いない。
かつて、Macが登場してDTPが実現したことで、ひとつの仕事の納期が3分の1から半分になった。
これからは、マーケティング全体のプロセスがこれまでの3分の1、5分の1、10分の1になっていく。
あなたはこうした世界で生きていけるだろうか?
調査分析結果を1カ月かけてまとめるような仕事、ターゲティングにあわせたプロモーションプランを2週間かけて1つつくるような仕事に価値はあるだろうか。
マーケティングにかかわるには、こうした次々と出てくるプランと結果に対して、どれだけ早く意思決定を行い、予算投下の判断を下していくことができる人材でなければならなくなるのだ。