左から「ドリーミング筍シウマイ弁当」、通常のシウマイ弁当、「忍法唐揚げの術シウマイ弁当」。限定シウマイ弁当も通常と同価格で販売された。掛け紙の絵が微妙に違っている(撮影:坪内政美)

崎陽軒の「シウマイ弁当」に革命が起きていることをご存じだろうか。

以前もシウマイ弁当についての記事(崎陽軒「シウマイ弁当」の秘密を知ってますか)を書いたが、あれから1年ちょっとが過ぎ、誰もが知っているシウマイ弁当以外に、近頃、さまざまなシウマイ弁当が誕生し始めている。

まずは初夏に1カ月間売られていた「メガシウマイ弁当」と「MINIプレミアムシウマイ弁当」。特に話題だったメガシウマイ弁当は、通常のシウマイ弁当の約1.5倍の大きさで、見た目のインパクトは相当であった。

シウマイ以外のおかずが主役?


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そして記憶に新しいのが9月23・24日の土日2日間限定で発売された「トンデモ!?シウマイ弁当」だ。

トンデモ!?シウマイ弁当は「ドリーミング筍シウマイ弁当」と「忍法唐揚げの術シウマイ弁当」の2種類。各1000個ずつ限定販売された。実は両方とも入っているおかずは通常のシウマイ弁当と同じものである。しかし見てのとおり、明らかにおかずのバランスがおかしい。


左が筍煮4倍、真ん中が通常、右が唐揚げ5個のシウマイ弁当。撮影時、筍煮をアリが狙ってきた。アリも好きなようだ(筆者撮影)

「ドリーミング筍シウマイ弁当」は、通常のシウマイ弁当にも入っているあの筍(タケノコ)煮がなんと通常の4倍も入っている。シウマイより筍煮が主役なのだ。筍煮は大好きなので、思う存分食べられてうれしい。「忍法唐揚げの術シウマイ弁当」は通常シウマイ5個、唐揚げ1個のところ、鶏唐揚げがシウマイと入れ替わり、シウマイ1個、唐揚げ5個となっている。なるほど「忍法変わり身の術」というわけだ。

実は、私はメガシウマイ弁当を買い逃していた。販売期間が長かったためいつでも買える、とつい油断してしまったのだ。今回のトンデモ!?シウマイ弁当はたった2日間の勝負、買い逃すわけにはいかない。

しかし発売初日は見送った。まずは様子をうかがおうと思ったのである。昔、寝台列車のチケットを取るために「みどりの窓口」のシャッターの前に朝4時に並んだものの、その後2時間誰も並びに来ない……ということが度々あったので、勇み足にならないよう、どのくらいの時間にどこに並べば効率的か、知っておきたかったのである。

みんな知っていると思うが、リアルタイムの情報を知るにはツイッターがたいへん便利だ。

さて、翌朝。ツイッターで研究した結果、普段の生活が夜型の私は東京駅の「横濱 崎陽軒(シウマイBAR)」に並ぶことにした。


「横濱 崎陽軒(シウマイBAR)」は東京駅八重洲地下中央改札口を出て右にある(撮影:坪内政美)

今回の販売店は横浜が多く、東京での販売は、東京駅のシウマイBARと大丸東京店のみだったが、横浜は販売が9時からなのに対し、東京は販売が11時からと横浜より遅かったのだ。今回のお弁当は横浜工場で作られているので、運ぶ時間なども考えての設定時間なのだと思う。

シウマイBARの開店は10時だ。9時に店に到着すると、シャッターの前にはすでに2人が並んでおり、10時にシャッターが開く頃には10人ほどの列になっていた。前の人から順に注文するものを尋ねられ、整理券をもらって11時以降にまた来店するよう伝えられる。私は無事に各1個ずつを注文できた。ドリーミング筍シウマイ弁当は、私の後、数人で売り切れたようである。

崎陽軒「革命」のきっかけは

相次いで登場するさまざまなシウマイ弁当。いったい、シウマイ弁当に何が起きているのか。


崎陽軒本店のレストラン「亜利巴″巴″(アリババ)」のランチバイキング。平日大人1人2000円で時間無制限(混雑時は2時間制の場合もあり)(撮影:坪内政美)

崎陽軒広報・マーケティング部の金田祐輔さんにお話を伺うため、横浜にある崎陽軒本店のレストラン「亜利巴″巴″(アリババ)」に向かった。こちらのランチバイキングは中華・洋食・和食にサラダ・デザートが食べ放題。ソフトドリンクも飲み放題だ。アルコールは別料金だが、昼間から頼むこともできる。

開店前に行くと、平日にもかかわらず30人ほど行列ができていた。全員入り切れるのだろうか?と心配したが、店内は広く、ランチの席数は200席ほどあるようだ。

――こちらのランチバイキングでは崎陽軒の「昔ながらのシウマイ」が食べ放題なんですよね?


大きなせいろうでシウマイがずらりと蒸されている(撮影:坪内政美)

「はい。シウマイ弁当と同じ、横浜工場で作ったものをご提供しています。シウマイは駅弁として、冷めても美味しいものを作っていますが、ここではお店で蒸しあげるので、出来たてが食べられます。オススメは実演ですね。毎週メニューが変わって、料理人がちゃんと目の前で実演で調理して提供してくれるんです」

――先日の「トンデモ!?シウマイ弁当」、並んで買いました。

「ありがとうございます。実は崎陽軒のWebサイトでの企画『シウマイ弁当診断』も参考にしました」

シウマイ弁当診断とは、YES・NO方式で答えていくと最後に自分にぴったりのシウマイ弁当が表示されるという仕組み。シウマイだらけや、アンズだらけのお弁当になることもある。再度見てみると、トップページにはちゃんと「※診断結果は商品開発の参考にさせていただく場合がございます」という表記があった。

「アンズいっぱい」の可能性は?

――えっ!? ただの遊びページかと思っていたら、なんとアンケートになっていたんですね!?


崎陽軒広報・マーケティング部の金田祐輔さん(撮影:坪内政美)

「はい(笑)。アンケートを行ってみて、反響のあったものから、どれを商品化するかというところにも反映させていただいています。とはいえ、前々からお客様の要望で『筍煮をいっぱい食べたい』『唐揚げをもっと食べたい』というお声をいただいていたので、今までのリクエストにやっとお応えできた、という色のほうが強いですね」

――さすがに「アンズいっぱい弁当」はないんですね。

「絶対にない、とは言い切れません。お客様のお声にできるかぎりお応えしたいというのはあるので……」

――なぜこのような企画が実現したんでしょうか?

「今回のトンデモ!?シウマイ弁当の前に出したメガシウマイ弁当などもそうですが、この1年の間に横浜工場に新しくお弁当工場の製造ラインを作ったので、今までより生産ラインが強化されました。作る量もですが、お客様の需要にようやく応えられるようになってきたというのが大きいです」

――私個人としては、飲むときにちょっとつまめるポケットシウマイが好きなのですが、シウマイだけでなく、筍煮も一緒のセットになっているとうれしいなあ、と思います。

「貴重なご意見、ありがとうございます(笑)」

そういえば東京駅の横濱 崎陽軒(シウマイBAR)ができたのもちょうど1年くらい前である。こちらでは10〜15時の間はランチが食べられる。「シウマイ食べ比べ膳」が1番人気のようだが、個人的に気になっていたのがシウマイカリーだ。


シウマイBARで提供される「シウマイカリー」。シウマイは焼いた後、カレーと一緒に煮込んでいる(撮影:坪内政美)

ご飯にシウマイを乗せてカレーをかけたものかと思いきや、なんとシウマイを焼いてから、カレーと一緒に煮込んでいるそう。どおりでシウマイの皮や中まで黄色く、しっかりカレー味もするはずだ。食べる前は味の想像がつかなかったが、煮込みハンバーグのような味わいに近かった。カレー自体もスパイシーで、私好みだ。

夜だけでなく、ランチの時間もシウマイ弁当に入っている筍煮やマグロのネギ和えなどを頼むことができる。中でもシウマイ全種盛り合わせは、シウマイ食べ比べ膳より1個多く、季節のシウマイが入った全6種。食べ比べると味の違いがわかる。崎陽軒がここ1年の間に、いろいろなことに挑戦していたことに改めて気づかされた。

信頼のブランドだからできる遊び

そして、メガシウマイ弁当が再び販売されるようだ。


再び販売される「メガシウマイ弁当」。掛け紙もラグビーのウエアに合わせて縞模様となっている(崎陽軒提供)

今回は「ラグビー日本代表vsラグビーオーストラリア代表戦コラボ メガシウマイ弁当」と銘打って、11月4日に神奈川の日産スタジアムで行われる試合とコラボしたものらしい。掛け紙もその仕様になっている。販売期間は10月27日〜11月4日で、価格は1250円(税込)とのこと。今回こそ買い逃さないようにしなくては。

実はトンデモ!?シウマイ弁当の2種類の弁当は、シウマイ弁当を5個買って中身を入れ替えれば、まったく同じものが1種類ずつ作れる、ということに気づいてはいた。

しかし、そういう問題ではないのである。その心意気に共感し、そのものを買って、食べることに意義があるのだ。だからこそ、大勢の人が並ぶのだ。

これらはシウマイ弁当としてのブランドが確立しているからこそなせる技。会社を挙げての遊び心だと思う。パロディは元ネタがしっかりとしていなければ、作ることはできない。それだけ崎陽軒のシウマイ弁当が多くの人に認識され、愛されているのだといえるだろう。

次は何をしてくれるのか。崎陽軒から目が離せない。