以前掲載の「外国人とは分かり合えない、捕鯨を文化として繋いできた日本の歴史」で、日本に文化として受け継がれる捕鯨の歴史を紹介し、大きな反響をいただきました。今回のメルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』では著者で中部大学教授の武田邦彦先生が「捕鯨活動の賛否については国や個人の思想によって変わるが、国際会議での日本の捕鯨に関する発言からは、この問題を本気で解決しようという気持ちが感じ取れない」と厳しく論じています。

食料であり自然界の生物の一つであるクジラと人間の関係性

2009年に公開された反捕鯨映画「ザ・コーヴ」が第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を取ったときには、ヨーロッパ文化の独善性を強く感じたものでした。

これに対して複数の異なる取材と編集による映画が作られていますが、中でも八木景子さんが取材、監督、配給をした「ビハインド・ザ・コーヴ」は正当なドキュメンタリー映画として注目されています。

映画というのはもともと「ある主張」に基づいて作られるので「創作物」の一種ですが、ドキュメンタリーというと最低でも史実には忠実と思われます。しかし、「ザ・コーヴ」は「ウソをついても主張を通したい」という強い意志のもとで作られ、監督も「人類はすべて菜食主義者であるべきだ」と言っています。

これに対して八木さんの「ビハインド・ザ・コーヴ」は、「事実について正確に映像化し、それを見た人が自ら判断する情報を提供する」という考えでできていますので、日本人の感覚からしたら八木さんの作品の方が価値が高いと感じます。

ところで、食糧として、自然界の生物の一つとして、人間はクジラとどのような接し方をするべきでしょうか? 八木さんと同じく、「情報を提供してまぐまぐの読者の方の判断の参考にする」ということから整理をしてみました。

1)クジラは哺乳動物で海に住んでいるので重力の影響を受けず、地上最大の大きさになった。イルカも同じ類である。

2)昔から、東洋では肉や脂を、欧米では脂を採るために狩猟の対象となっていた。

3)日本が鎖国を解くきっかけとなったペリーの浦賀来航の目的はクジラ漁の寄港地だった。

4)日本は戦後、大々的に南氷洋で捕鯨を行い、シロナガスクジラが激減し、国際的な反発を買った。

5)動物愛護、自然保護、海への畏敬、菜食主義などの思想的な問題で国際的に捕鯨が禁止されるようになった。

6)日本は調査捕鯨という名目でミンククジラを中心に捕鯨を続けている。

7)世界的には、ノルウェー、韓国が多く捕獲していて日本の捕鯨量はそれほど多くない。

8)クジラは増えてきて、クジラの絶滅などの心配は無い。

9)クジラやイルカは頭脳活動が盛んで、高等動物と見なされることがある。

10)イルカは体内に水銀が多く、その害が心配されている。

11)クジラが食べる魚の量は3億トン程度と言われ、人間の1億トンの約3倍である。

12)捕鯨禁止の運動は賛同者も多くビジネスにもなっている。

13)日本の方針が定まらず、国際会議における日本の主張は筋が違っていることが多い。

「なぜウシはよくてクジラはダメなのか?」は日本人的理論である

日本で捕鯨問題を議論すると、すぐ「ウシを食べても良いのに、なぜクジラはダメなのか?欧米人は勝手だから」とか、「アメリカは昔、マッコウクジラを大量に殺していたではないか!」という感情的な話になりますが、国際的な戦いの時には、感性や論理の違う人たちの「言い分」をよく理解することから始めなければなりません。日本人の理屈ではダメなのです。

彼らは「これまでの歴史やウシのこと」を言っているのでは無く、たとえば「昔からクジラを食べていた」という事に対しては、「昔、奴隷がいたから今でも奴隷は正しい」と言うことはないので、現在でも正しいことを証明せよと求めています。

また、ウシとクジラとは同じというなら「クジラの感情や頭脳がどの程度なのか」を示せという論理です。さらに日本はクジラをタンパク源としているが、日本が捕鯨していた頃と比べると日本人の食生活は大きく変化しているではないかと言います。

クジラを昔から食べていた、ウシを殺しているじゃないか、タンパク源として貴重だという理屈はどれも欧米の反捕鯨理論には無力です。でも、それを主張しているのが日本政府で、だから世界の捕鯨会議では連戦連敗なのです。日本が工業国でも無く、貧乏な国なら「栄養が必要だ」と言えないことも無いのですが、それも事実とは違います。欧米から見ると、日本人はただクジラを食べたいとか、お役所があるからということでクジラの乱獲を続けているとしか見えないのです。

また最近の若い人の多くはクジラの味すら知らないのですから、「日本にはクジラを食べる文化がある」というのも事実ではありません。最も有力な捕鯨の根拠は、人間よりクジラの方が多くの魚を食べているということですが、これも海のバランスは大昔から取れていて、捕鯨が無い時代にも魚は豊富にいたという論拠に勝つことはできません。

日本が捕鯨を続けるためには、「正直、かつ論理的」に望む必要があります。

その点では水産庁を中心として進めている役人による捕鯨復活作業は、国際的にも国内的にも役人の天下りや利権の疑いがもたれるもので、クジラの事業を進めたい民間が主体となる必要もあるでしょう。

今までの国際会議での日本の発言を見ると、世界に通用しないことを知っていて、日本人の感情を満足させるように国際会議に出している書類で、国内向けと思われます。つまり少し辛口ではありますが、真に捕鯨問題を解決しようとしているのではなく、国内で評判が悪くならないように配慮されていると感じられます。(つづく)

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出典元:まぐまぐニュース!