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text:Kenji Momota(桃田健史)
photo:Kenji Momota(桃田健史)&トヨタ

もくじ

ープリウス誕生20年
ープラグインハイブリッドでの「誤算」
ー4代目プリウスの「覚悟」
ートヨタのEV戦略、どうなる?

プリウス誕生20年

いまから20年前、2017年の街中でこれほど多くのプリウスが走っている光景を、誰が予想できただろうか。

なぜならば、1997年に登場したプリウスは、一気に人気が出るような雰囲気ではない、「風変りなクルマ」だったからだ。

初代プリウスの開発が始まったのは、今から24年前の1993年。プロジェクトを任されたのは、現在はトヨタ自動車の会長職にある内山田竹志氏だ。

「21世紀のクルマを造ることが、プリウスの目的でした」と、当時を振り返る。

まだ「エコカー」という言葉が一般的ではなかった時代。トヨタが目指したのは、21世紀の環境問題。それを解決するための、圧倒的な燃費の良さだった。

だが、90年代当時のトヨタ社内では、アメリカを中心とした世界市場での販売拡大、日本国内の販売攻勢がセダンからミニバンへと変調したことへの対応など、目の前の商売に対する意識が先行しており、巨額の開発費用を必要とした内山田氏が率いるプリウスプロジェクトへの風当たりは強かったという。

4年間の開発期間を経て市場導入された初代プリウスは、月販目標1000台というかなりコンサバなスタートを切った。しかし、トヨタ側の心配をよそに、市場からの要求は徐々に増え続けていった。

プラグインハイブリッドでの「誤算」

2005年、第2世代プリウスが登場すると、日本のみならず世界各国でプリウス人気が高まった。

こうした中、トヨタはプリウスを基盤としたエコカー開発の長期ロードマップを描く。それは、未来に向かって徐々に電動化の度合を高めていくという流れだ。

ガソリンエンジンとモーターを組み合わせた技術が、ハイブリッド車。プリウスを軸足として、他のモデルにもTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)を広げていく。

こうしたひとつの技術を他のモデルへ採用する考え方を、トヨタ社内では「よこてん(横方向への展開)」と呼ぶ。つまり、ヴィッツ・ハイブリッドも、レクサスRX450hも、プリウスの「よこてん」なのだ。

こうしたハイブリッド車を基盤として、次のステップがプラグインハイブリッド車だ。

プラグインハイブリッド車は、ハイブリッド車に比べて搭載する二次電池の容量が大きく、しかもそれを外部から充電することができるため、EV(電気自動車)モードでの航続距離が長い。

つまり、プラグインハイブリッド車は、短い距離ではEVとして、中距離から長距離ではハイブリッド車として走行する二刀流なのだ。

こうした、ハイブリッド車からプラグインハイブリッド車への正常進化を、プリウスのユーザーは快く受け入れてくれるものだと、トヨタは信じていた。

ところが、市場の流れはトヨタの目論見とは違った。プラグインハイブリッド車のプリウスPHVはなかなか、ユーザーに受け入れてもらえなかった。

理由はなぜだろう?

第4世代目の「覚悟」

プラグインハイブリッド車のプリウスPHVがなかなか、ユーザーに受け入れてもらえなかった理由は、価格が高い割には、プリウスとの差が少ないからだ。

そして時代は、プリウス第4世代へ。2017年に登場した、新型プリウスPHVは、プリウスとの差を明確にするため、もっともシンプルな戦略を打った。

なんと、外観が違うのだ。

そのデザインは、トヨタが最上級のエコカーとして2015年末に発売した、燃料電池車のMIRAIとの共通性を高めた。

また、インテリア造形もプリウスとは大きく変えた、プリウスを超える先進性を強調した。

内山田会長は第4世代プリウスPHVの発表会で「普及してこそ、エコカー」と語り、先代プリウスPHVの反省を踏まえて新型の開発を指示したことを明らかにした。

その結果、新型プリウスPHVは、日本やアメリカで販売が好調。既存のプリウスユーザーのみならず、欧州高級車などから乗り換える人も多いという。

プリウス、そしてプリウスPHVと電動化の階段を徐々に上がると同時に、水素を燃料として燃料電池によって自車発電する燃料電池車MIRAIを世に送り出したトヨタ。

ここで気になるのは、EVだ。

トヨタのEV戦略、どうなる?

トヨタは70年代から、EVの基礎研究を行ってきた。1990年に米カリフォルニア州環境局が制定したゼロ・エミッション・ヴィークル規制法(ZEV法)の対応で、RAV4のEVバージョンを発売した。

また、2010年代初頭には小型車のiQのEVバージョンであるeQを開発し、販売する予定だったが取りやめた経緯がある。

この他、トヨタのグループ企業であるトヨタ車体が、日本国内のミニカー規定による小型EVのコムスを発売している。

トヨタとしては、エコカーの主流はあくまでも、プリウスが切り開いてきたハイブリッド車であり、その母数を基にプラグインハイブリッド車の台数を増やすことが先決であり、少なくとも日本市場ではEVを積極的に展開する予定はない。

一方で、8月上旬、マツダとの資本提携発表において、トヨタとマツダがEVを共同開発することが明らかになった。

これは、中国で2018年、または2019年に制定させる可能性が高い、ニュー・エネルギー・ヴィークル規制法(NEV法)と、前述の米カリフォルニア州ZEV法を睨んだ動きだ。

トヨタのエコカー戦略は当面、プリウスが主役であることに変わりはない。