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●ヤフーと連携を強める2社
ソフトバンクの携帯電話ブランドである「ソフトバンク」と「ワイモバイル」が、EC事業を中心としたヤフーとの連携施策を積極化させている。元々ヤフーとの関係が深いワイモバイルはともかく、ソフトバンクまでもがヤフーの連携に力を入れているのには、どのような理由があるのだろうか。

○2つのブランドに共通した戦略とは

携帯電話業界最大の商戦期となる、新入学シーズンを迎える春商戦に向け、ここ最近大手キャリアが相次いで新商品やサービスの発表会を相次いで実施している。ソフトバンクも、同社の2つの携帯電話ブランド「ソフトバンク」と「ワイモバイル」に関して、それぞれ春商戦に向けた発表会を実施している。

ソフトバンクは主にiPhoneを利用する高価格帯のユーザー、ワイモバイルは低価格帯のユーザーと、それぞれターゲット層が異なることから、戦略にもいくつかの違いが見られる。実際、ソフトバンクは今回の春商戦で新端末を1機種も投入していない一方、特定月の毎週金曜に、特定の店舗でソフトバンクユーザーだけ商品がもらえる「SUPER FRIDAY」の第2弾を実施することを発表するなど、体験価値向上を重視した戦略を打ち出している。

一方で、ワイモバイルはAndroidのバージョンアップが保証された「Android One」スマートフォンを2機種投入するなど、端末面を強化。戦略面でソフトバンクブランドと明確に違いがあることが分かる。

しかしながら両ブランドの発表内容を見ると、共通した施策もいくつか見られる。1つは春商戦の主要ターゲットとなる学生に向けた「学割」で、内容に違いはあるものの18歳以下を優遇した施策を打ち出していることから、狙いは共通しているといえよう。

そしてもう1つ、戦略面で共通しているのがヤフーとの連携である。ソフトバンクとワイモバイル共に、内容に違いはあれど、ヤフーと連携し、ヤフーのサービス利用でお得になる施策を打ち出しているのだ。

●連携強化でお得感を醸成
○ヤフーとの連携を大幅に強化しお得感を打ち出す

では、各ブランドにおけるヤフーとの連携施策は具体的にどのようなものなのだろうか。ソフトバンクが打ち出したのは、ヤフーが展開する「Yahoo!ショッピング」と、傘下のアスクルがヤフーの協力の下に展開している「ロハコ for SoftBank」で買い物をすると、ポイントが10倍貯まる「ソフトバンクなら いつでもポイント10倍キャンペーン」である。

これは2月1日から5月31日までの期間限定キャンペーンで、ソフトバンクユーザーがスマートフォンで自動ログインできる「スマートログイン」の仕組みを活用し、双方のECサービスで商品を購入すると、通常商品価格の1%分貯まるTポイントが、10倍貯まるようになるというものだ。さらにYahoo! Japanの有料会員サービス「Yahoo!プレミアム」会員限定のポイント特典や、「5のつく日」のポイント特典など、ヤフー独自のポイント特典と併用することで、一層ポイントが貯まりやすくなるとしている。

では、ワイモバイルの連携施策はどのようなものかというと、こちらはさらに一歩踏み込んだ内容となっている。なぜなら、Yahoo!プレミアムと同等の特典が利用できる「Yahoo!プレミアム for Y!mobile」を、2月1日より無料で提供するからだ。

具体的には、ワイモバイルの「スマホプラン」「データプラン」を契約しているユーザーを対象として、月額462円のYahoo!プレミアムと同等のサービスを、毎月無料にするという。それゆえYahoo!ショッピングで買い物した時に付与されるTポイントが5倍になるほか、「ヤフオク!」が制限なしで利用できる、買い物でのトラブル時に最大10万円の補償が受けられる「お買いものあんしん補償」が利用できる、「Yahoo!かんたんバックアップ」の容量が50GB分に増えるなどの特典を無料で受けられるようになる。

加えてワイモバイルでは、Yahoo!ショッピングや「LOHACO」で買い物をした際に、付与されるTポイントが5倍となる「“ワイモバイル”スマホ契約者なら2〜3月お買物ポイント+5倍キャンペーン」も提供される。ワイモバイルは元々ヤフーと密接なつながりのあるブランドだけに、サービスもより充実したものとなるようだ。

●一連の狙いはヤフーにあり?
○最大の狙いはヤフーのEC事業強化のため

ソフトバンクもヤフーも、同じソフトバンクグループの傘下企業であることから、両社による連携施策を打ち出すこと自体は自然な流れといえるだろう。元々密接な関係をもつことから、ワイモバイルブランドの方がヤフーとより歩踏み込んだ連携を進めているが、ソフトバンクブランドでもこれまで、先に触れたスマートログインなど、自身のサービスの利用者に対し、ヤフーのサービスを利用しやすい仕組みを整えてきている。

だが一連の施策を見ると、大きな狙いはソフトバンク側ではなく、ヤフー側にあることが分かる。一言で表すならば、ヤフーのEC事業の強化だ。

ヤフーはオークションサービスでは高い人気を博していたものの、Yahoo!ショッピングを主体としたEC事業は、楽天や米アマゾンの陰に隠れてあまり存在感が大きいとはいえない状況であった。そこでヤフーは2013年に「eコマース革命」を打ち出し、Yahoo!ショッピングの出店手数料を無料にするなど、自社のEC事業の大胆な改革を実施。EC事業への注力を進めることで、2社に対抗する姿勢を明確にしたのである。

その成果は着実に表れており、店舗数は45万、商品数は2.3億と大幅に増加。2016年度第2四半期の流通総額も前年同期比128%の成長を遂げるなど、好調な伸びを見せている。しかしながら一昨年には、アマゾンが日本での売上高1兆円を突破するなど著しい躍進を見せる一方、国内のEC事業では老舗の1社であるディー・エヌ・エーが、KDDIにEC事業を売却するなど、EC事業を取り巻く競争環境は非常に激しくなっている。

今回のように、ヤフーがソフトバンクの各ブランドと、EC事業を主体とした連携を積極的に進めているのも、EC事業を一層伸ばしたいヤフーの狙いが大きいといえるだろう。古くはiモードの時代から、携帯電話は各種コンテンツやサービスの集客エンジンとして重要な役割を果たしてきた。それだけに、多くの会員を抱えるソフトバンクの顧客基盤を活用し、スマートフォンから便利でお得に利用できる施策を提供することにより、Yahoo!ショッピングでの購買を増やし、グループ全体での売り上げを伸ばしたい狙いがあるといえそうだ。

もっとも、アマゾンはプライム会員に向けたコンテンツサービスの強化や、商品の定期購入を手軽にする「Amazon Dash Button」など新しい施策を次々と日本市場に投入しているし、楽天もMVNOによる「楽天モバイル」を急速に拡大してモバイルでの顧客基盤を強化するなど、大手同士による競争は多角化し、より激しいものとなってきている。それだけにヤフーとソフトバンクは今後一層連携を強化し、ECの利用強化のためあらゆる施策を打ち出してくると考えられそうだ。

(佐野正弘)