恋愛ドラマの可能性を拓いた「逃げ恥」「セカムズ」…2016年のドラマを振り返ってみた

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2016年10月、テレビの総合視聴率(リアルタイム視聴率と、録画などのタイムシフト視聴率を合わせたもの)が発表されることになったため、ドラマの価値基準にも変化が。昨今、20%を超えるドラマは少なくなったが、総合にすると、20%どころか30%超えのドラマも登場した(「逃げるは恥だが役に立つ」(「逃げ恥」)や「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」など)。この視聴率測定方法の変化がドラマ業界では2016年の最も大きな出来事であり、これによって17年以降、ドラマが確実に活性化していくと思われるが、ここではこの1年間のドラマの注目点をあげたい。

月9がピンチ
1月期「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(いつ恋)は平均視聴率9.71%、4月期「ラヴソング」8.54%、7月期「好きな人がいること」8.9%、10月期「カインとアベル」8.23%とすべて10%切ってしまった。
そのわけのひとつに、恋愛ドラマが世間から興味を持たれなくなっているのではないかと言われていたが、「いつ恋」の村瀬健プロデューサーは当たっている恋愛映画の興収と月9の恋愛ドラマの視聴率はそれほど変わらないと言っていた。
皮肉にも、年の暮れ、月9が「カインとアベル」で恋愛よりもビジネスの世界での兄弟の確執を描いていたとき、TBSの「逃げ恥」という恋愛ドラマが大ヒット。しかもこのドラマで注目された恋愛下手な者たちの「契約結婚」は、15年1月期月9「デート〜恋とはどんなものかしら〜」で挑んだテーマでもあった。
月9のピンチはタイミングが良くなかっただけかもしれない。ぜひとも17年は、TBS に「火曜日からはじめよう」(劇中のみくりの台詞が、TBSの決意表明かと妄想してしまった)とは言わせておかず、“恋愛ドラマの月9”ブランドを復活させて、ドラマは月曜日から、であり続けてほしい。いや、月曜日も火曜日もどっちも楽しませてほしい。


「逃げ恥」もよいけど「セカムズ」もね
月曜のフジテレビ、火曜のTBSときて、水曜日の日テレも好調だ。
2016年は、「逃げ恥」が星野源とガッキーの恋ダンスで旋風を巻き起こし、もう「逃げ恥」一色という雰囲気だが、その前に「世界一難しい恋」(セカムズ、日本テレビ4月期 水曜日)という布石があったことを忘れてはならない。「セカムズ」は、一流ホテルの社長(嵐の大野智)が社員(朝ドラ「あさが来た」の波瑠)と不器用ながら恋を育んでいくオリジナルストーリー(脚本・金子茂樹)で、平均視聴率は12.9%だが、最終回は16.0%まで上がった。
「逃げ恥」も「セカムズ」もざっくり言ってしまうと、女性が、恋愛経験以外は高スペックの男とどうやって結ばれるかという話で、男性が草食化したことにより恋愛や結婚がうまくいかないと言われる現状をうまく乗り切るための思考実験のようなもの。で、その恋愛経験以外は高スペックの男が、大野智や星野源によってじつにチャーミングに描かれているものだから大変楽しめた。
ついでに、「逃げ恥」も「セカムズ」もなぜか舞台は横浜。そして「デート」も横浜だった。いまどきの恋愛ベタな者たちの恋愛ドラマは横浜が舞台の法則についてはいつか考察してみたい。


明暗を分けたヘンキャラ
大野智や星野源がちょっとエキセントリックな役を演じて人気を博したが、日曜劇場「99.9─刑事専門弁護士」(TBS4月期)の松本潤もエキセントリックな弁護士役で、最高19.1%、平均視聴率17.2%と人気を獲得した。
一方、同じ日曜劇場「IQ246〜華麗なる事件簿」(TBS10月期)の織田裕二、「THE LAST COP/ラストコップ」(日本テレビ10月期)の唐沢寿明、「神の舌を持つ男」(TBS7月期)の向井理は全身全霊、ヘンキャラを演じたが、残念ながらその努力が結果に繋がらなかった。
この3人の出演作、いずれも、ベースが型破りの主人公が事件を解決するもので、人気のジャンルである。だが、それもあって飽和状態でもあり、主人公のキャラのバリエーションに工夫を凝らして差別化をはかったものの行き過ぎてしまったように思う。
織田裕二は、頭が良すぎて変人で台詞回しや動作がユニークな暇つぶしに事件を解決する貴族キャラ。唐沢寿明は、30年間昏睡状態だったのが2016年の世に覚醒し、価値観がズレたまま大暴れする熱血昭和キャラ。向井理は、舐めたものの成分がわかってしまう見た目が大人になったハリー・ポッターみたいな純情青年キャラを演じた。漫画みたいに現実離れした役を、オリジナルで俳優の力で作り上げることはとても大変なことで、3人とも健闘していたのだが、フライングじゃないけど勢い込んでちょっと早くスタートしちゃった感じが惜しかった。
ちなみに、阿部寛が「スニッファー嗅覚捜査官」(NHK10月期)という、嗅覚が強すぎてふだん鼻に栓をしてる異能キャラをやっていたが、土曜10時枠の視聴率はあまり取りざたされないので、マイペースに面白いドラマをつくりあげたように思う。しかも阿部寛はもはやヘンキャラのオーソリティーなので。


女性の仕事ものは健闘
エキセントリックなキャラが事件を解決するパターンは改善の余地を感じさせたが、女性の仕事ものは健闘した。
シリーズ4作目となった「ドクターX」はもはや働くオンナドラマの金字塔だが、漫画編集者の物語「重版出来!」(TBS4月期)、凄腕不動産屋さんの物語「家売るオンナ」(日本テレビ7月期)、校閲という知る人ぞ知る仕事にスポットを当てた「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ10月期)なども楽しませてくれた。とりわけ、日本テレビの水曜ドラマが女性のお仕事ドラマを確立している。

興味深いのは、「重版出来!」、「校閲ガール」と、朝ドラ「とと姉ちゃん」(NHK4月〜9月)と3作も出版業の話があったこと。「重版出来!」は直球で編集者の仕事を描き若干視聴率で苦戦、続く「とと姉ちゃん」はモチーフになったカリスマ雑誌「暮らしの手帖」人気の相乗効果があったのと、編集の仕事はここぞというところで集中して描き、そこだけに固まらないように気づかったことで広い人気を獲得、「校閲〜」は「地味にスゴイ!」などという原作にないサブタイトルをつけたり、石原さとみのファッションなどをフィーチャーしたりと周辺を固めたことと、校閲の描き方の是非がネットで騒がれたこともあって、注目された。


ネットとの連動
ネットとの連動を意識したドラマづくりは年々強化されている。大河ドラマ「真田丸」や「逃げ恥」などが
SNS を効果的に使って人気を拡大した。いまや、ドラマはじっくりストーリーを楽しむのではなく、見ながら、同じように見ているひとたちと交流する遊びのツールになっている。「ラストコップ」や「レンタル救世主」(日本テレビ10月期)が生放送を試みたことも視聴者とのリアルな関係性を強化した。タイムシフト視聴率でドラマの価値がリアルタイムだけではかれないことが証明できるようになったのはいいが、スポンサーがいる関係で、リアルタイムに見る楽しみを考えることは今後の課題だろう。昔ながらのトンデモ展開もまだ有効なのは、夫婦が殺し合う話「僕のヤバイ妻」(フジテレビ4月期)やタワーマンションでの連続殺人事件を描く「砂の塔」(TBS 10月期)などが後半視聴率をあげていったことで証明した。

余談になるが「レンタル救世主」は登場人物の激白をラップで表して話題になった。ラップで語ることは、それに先駆けて4月、「民王スペシャル〜新たなる陰謀〜」(「フリースタイルダンジョン」を放送しているテレビ朝日)で試みられていた。宣伝、拡散だけでなく、表現方法にも新しい試みが行なわれているテレビドラマ、2017年はどんなドラマが生まれるか期待したい。
ひとつだけお願いしたいのが、遊びを盛り込むためには土台になる脚本をしっかりさせる必要がある。その理想の形は、徹底して史実にもとづきながら少しの空白部分にとことん創作を埋め込んで濃密に仕上げ、それでいて視聴者がああだこうだ考察できる余白も残すという匠の技を見せた「真田丸」であろう。