働けども働けどもパワハラ、残業、介護に追われて―― (写真はイメージです)

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 総務省の調査によると、'15年の女性就業者数は2754万人。数が増えたとはいえ、女性が働きやすいようになったとは言い難い。仕事の悩みは尽きず、家庭との両立に頭を悩ませる人も多い。ここでは、正社員とほぼ同じ仕事なのに低賃金という、買い叩かれる非正規女子の過酷実態に迫った。

社員と同じ仕事内容で時給1300円「実家じゃないとキツイ」

「目がつらくて。ちょっと待ってくださいね……」

 取材中、上杉美穂さん(37=仮名)は何度も目薬をさしていた。設計事務所でアシスタントを務める派遣社員。見積もりやプレゼン用の資料を作成する仕事で「1日じゅうパソコンに向かっている」と話す。

「社員と同じ仕事内容で、時給1300円。交通費は交渉して少し出してもらった。それでも1日働いて、1万円にもならない。実家じゃないとキツイですね」

 派遣はどれも似たようなもの、と美穂さん。およそ6年の間に3度の雇い止めに遭い、職を転々とした。いまは7つ目の職場だ。

「私はペーパードライバーなのに、車で“アポなし営業に回れ”と言われたり、なんの知識もないのに、取引先を相手に商品説明をいきなりやれと言われたり。思い返してみてもブラックな職場が多かった」

 男性ばかりの職場も、女性ばかりの職場もやりにくい。前者はセクハラ、後者はパワハラの温床。労働条件が厳しいところほど人間関係も悪く、新入りいじめが激しい傾向にある。

「前の職場はインテリアのショールーム。私より先に働いていた同僚の女性に目をつけられて、やたら口を出されたんです。お客さんへの接客から電話対応まで、とにかくなんでも“ダメ出し”をされました。“常識的に考えて〜”“一般的には〜”と言って、私のやることをいちいち否定する。そのうち、私がおかしいのかなと思うようになって、怖くなりました」

 まるで監視されているような毎日。萎縮した美穂さんだったが、インテリアに関わる仕事自体はやりがいを感じたので、必死でこなした。そのかいあってか顧客から感謝の手紙をもらうこともあった。

 あるとき美穂さんは、偶然目にしたパソコンの画面にクギづけになる。同僚が社員の女性と連名で、《上杉美穂と一緒に働けない。仕事の出来に問題があるので派遣契約の更新をしないでほしい》と、上司にメールで嘆願していたのだ。同僚は社内で顔がきき、上役とも親しく、力を持っているように見えた。

 その後、美穂さんは派遣会社を通して「契約を更新しない」と告げられる。偶然か、同僚が仕組んだ結果か、はっきりとわからない。

 今なら同僚はおかしいとわかるし悔しさも感じる。それでも「もっとうまくやれたら、なんとかなったんじゃないか。自分の能力不足のせいじゃないか」と仕事を切られるたびに思ってしまう。そう美穂さんはつぶやいた。

介護しながら働く中、派遣の契約解除を告げられる

 24年間、メーカーで派遣社員として働いてきた相川智恵さん(53=仮名)は12年末、契約解除を告げられた。社内の雰囲気から察してはいたが、いざ雇い止めに遭うと「やっぱり悔しかったですね」。

 当時の法律では、派遣労働者がひとつの仕事に従事できる期間は原則3年。相川さんはワープロオペレーターとして専門業務の扱いだったことから、3年以上働くことができた。

 派遣として働き始めたころはバブルの真っただ中。時給はそれなりによく、両親と3人で暮らすことのできる額だった。しかし、そこから時給は上がらず、反対に社会保険料、派遣会社の取り分などが増え続けていく。景気の陰りに伴い待遇も悪化していった。

「事業所の統廃合に合わせて職場が変わり、通勤に片道2時間かかることもありました。交通費が一部支給されるとはいえ、ほぼ持ち出しの状態でした」

 家族にも変化が訪れる。8年前に父が亡くなりやがて母は認知症を発症。相川さんは介護しながら働く生活を送っていた。そんなときに告げられた契約解除。

「看てくれる誰かがいる人や、ハウスキーパーを雇えるような蓄えのある人はいいですけれど、そんな恵まれた人ばかりではない。家族はいろんな事情を抱えているのに……」

 母をデイサービスに送り出し、週1回は病院へ連れて行くのも相川さんの「仕事」だ。母との生活を支えるには手取り20万円程度はなければ厳しい。条件を満たす再就職先は、なかなか見つからなかった。

 1年にわたる求職活動の末、知人の紹介で現在の職場に勤めることができた。契約社員だが、派遣のころと大差は感じない。

「子育て中の女性が多い環境ということもあって融通はききます。母の介護があることを伝えているので午後から遅れて出社したり、複数の病院へ連れて行くのに、週1回は休めたり」

 相川さんの境遇に上司は一見、理解を示してくれている。それでも「実は快く思っていないのだろうな」と感じる場面は多い。

 ゆくゆくは会社を辞めて家で仕事ができるようにしたい、と相川さん。

「(特定企業ではなく)会社そのものを信用できない。働く人を理不尽に扱って大切にしないくせに、何がワークライフバランスだよ、女性活躍だよと思いますね。なにも贅沢させてくれと言っているわけじゃない。普通に働いて、普通に暮らせる社会になってほしいです」

増え続けていく非正規の現状とは

 女性の労働問題に詳しい弁護士・中野麻美さんは、NPO『派遣労働ネットワーク』で理事長を務めており、13年に派遣社員を対象にアンケート調査を実施している。それによると、

「平均時給が東京で1339円。全国で1179円です。それでも70%が“生活は苦しい”と答えています。現在、困っていることのトップが“仕事の割に合わない待遇・賃金・福利厚生”。賃金に満足していません。

 では、どう生活をやりくりしているか。節約生活が72%、貯金の取り崩しが28%。Wワーク16%。保険料を減免したり、家賃が払えず滞納しているとの回答もありました」

 低賃金はもちろんだが、いつクビを切られるかわからない不安定な働き方も非正規労働の特徴だ。

「アンケートを見ると、契約期間は1か月未満が2%、1か月が8%、2か月が6%、3か月が30%という状況。だから仕事をかけもちして長時間労働する非正規は多い。弁当の下ごしらえや深夜営業のレストランといった、女性の深夜労働もかなり増えています」

 正社員と非正規の格差は、前述した、安倍政権による働き方改革でも是正の対象になっている。

「格差があったのでは力の発揮が抑制されてしまうし、自分を大事にできない労働条件のもとでは非効率になる。制度改革をやるのは、待遇格差を縮めて非正規から正規への転換を図っていく大きな流れに乗ったということ。あまり悲観的になる必要はありません」