職場での付き合い方は「部分的」が望まれる傾向

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1人の時間を大切にしたいという蛭子能収さん。人との「つながり」がストレスを軽減し、人生を豊かにするという予防医学の石川善樹さん。お2人に、人付き合いの極意を聞いてみた。

■◎相談◎
仕事が終わってからの飲み会が苦痛ですが、付き合いが悪いと非難されそうで断れない。

▼蛭子さんの回答 
会社帰りの一杯、割り勘なら断りましょう

私は一切行かないですね。仕事が終わってからも、ずっと一緒にいるなんて耐えられないですよ。そもそも仕事はお金を得るためにしようがなく働くもので、楽しく働くなんて、信じられんです。お金を貰えるから、上司のいうことをハイハイ聞いて、苦しいこともやるわけで。退社時間になって、やっと奴隷から解放されるのですから、そこからまた、しかも割り勘で飲みに行くなんて、考えられない。

でも、会社あげての催しで、しかもタダというなら参加します。飲み会に参加する、しないの判断は、お金を払うかどうかですね。

付き合いが悪いと思われるかなーと、多少は考えますが、それよりもその時間やお金を好きなこと、パチンコや競艇に充てたいんですよ。

▼石川さんの解説 
「つながり」がストレスを軽減・解消する

酒宴を通して絆を深めるのは、日本の伝統的習慣ですが、会社の仲間と飲みに行くと上司の悪口をいって盛り上がりがちです。これはストレス発散しているつもりで、心の中でストレスを感じた場面を再現しているわけですから、自律神経やホルモンバランスが再び乱れ、ストレスが倍増するだけ。社会的にも生産的ではありません。

とはいえ、同僚とコミュニケーションを図るのは大切です。大事なのが雑談。黙々と働く環境よりも、仲間と雑談しながら働く職場環境のほうが、創造性が高まり、生産性はアップします。

実は、予防医学の世界では、ヒトの寿命を決めるものは、「つながり」のような社会的要因ではないかという研究が進んでいます。

栄養に気をつける、タバコ・アルコールの摂取量を控えるといったいわゆる伝統的な考え方では、寿命は説明できない例外が多く、全く別な要因があるのではないかという研究が1970年代に始まり、イギリスのマイケル・マーモットが研究対象に選んだのが日本人でした。

長寿国と思われている日本ですが、47年の平均寿命は男性50歳、女性54歳。ところが60年には、男性65歳、女性70歳と急速に伸び、世界一の長寿国になったのが78年。それから現在(男性80歳、女性87歳)まで、ぶっちぎりの長寿国です。

戦後、急に延びた日本人の寿命。栄養や医療、住環境が豊かな欧米のほうが長生きでもおかしくないはずなのに、なぜ日本人なのか、謎だったのです。喫煙・飲酒率も高く、塩分の摂取量も多いのに世界一の長生き。何かあるに違いないと。

長生き遺伝子を日本人は持っているのではという意見もあったのですが、ホノルル、サンフランシスコに住む日系移民の健康状態を調べると、うまく説明がつかない。そこで遺伝子や食習慣ではなく、社会的環境要因、つまり、社会の特性が健康に影響を及ぼしているのではないかという考えが生まれ、注目されたのが「連帯感=人のつながり」です。

ここでいう連帯感は、単純に友達の数というのもありますが、むしろ、お互いを信用しているかどうか。例えば、災害が起こっても火事場泥棒が少なかったり、大人しく行列に並ぶとか、そういう意味です。専門的には「ソーシャルキャピタル」といいますが、日本はこの連帯感が強い社会なのです。しかし、それは同調圧力が高い社会ということでもあります。

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【「つながり」疑問派】蛭子能収(えびす・よしかず)
漫画家。タレント。1947年、長崎県生まれ。長崎商業高校卒業後、看板店、ちり紙交換などの職業を経て、漫画家に。現在は、ユニークな風貌と独特の発言で、バラエティ番組などでも活躍。近年の絆ブーム、つながり礼賛の風潮に疑問を呈した『ひとりぼっちを笑うな』が話題になる。
 
【「つながり」肯定派】石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を卒業後、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。昨年秋に出版した、人との「つながり」と寿命についての研究をまとめた『友だちの数で寿命はきまる』が話題になる。近著に『最後のダイエット』。

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(遠藤 成=構成 ノーチラス工房=写真)