前半9分に富永のスーパーゴールで先制。積極的にシュートを打つ姿勢が実を結んだ。写真:平野貴也

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 夏の暑さに逆らう流経大柏が、失っていた勢いを取り戻しつつある。インターハイ準決勝が1日に行なわれ、流経大柏(千葉1)が2-1で青森山田高校(青森)を下して3年ぶりの決勝進出を決めた。
 
 キックオフから鬼のプレスで圧倒し、一方的な流れに持ち込む様は「飲み込む」とい表現がふさわしいものだった。相手がバックパスをすれば、FWがGKまで追いかけ、ロングボールを蹴らせてはセカンドボールを拾い、波状攻撃を仕掛けた。ここまでの3試合で計2得点しか挙げていないように得点力が不足している部分はあるが、入るまで打ち続けるつもりなのかと思うほど、序盤から積極的に押し込んでシュートを放った。
 
 本田裕一郎監督が不在の今大会で陣頭指揮を執っている榎本雅大コーチは「シュートがしょぼいぞ。もっと思い切り行け」と選手に伝えたという。
 
 それならばと打ちまくるうち、スーパーゴールが飛び出した。右サイドの空中戦のこぼれ球に反応した左MF冨永和輝が落下直後のバウンドボールを右足で豪快に振り抜いて先制ゴール。予想し難いタイミングのシュートで、ゴールまでは多少距離があったが、FC東京入団が内定している青森山田のGK廣末陸も反応し切れなかった。
 
「思い切って振れと言われていたし、自分自身も得点がなかったので、思い切って振ったら良いコースに飛んだ」という冨永の一撃でさらに勢いに乗った流経大柏は、夏の暑さに逆らうような猛プレスで青森山田のパスワークを完全に遮断。試合を圧倒したまま前半を終えた。
 
  両チームが所属する高円宮杯U-18プレミアリーグEASTでは、青森山田が首位と僅差の2位で、流経大柏は最下位。しかし、流経大柏はリーグ戦の成績を一切無視するかのような勢いを見せた。後半も選手交代を盛んに行うことで運動量を継ぎ足しながら、徹底してプレス。青森山田も長身選手を前線に揃えて対抗し、後半31分にロングパスをFW佐々木快が頭で折り返したところをMF郷家友太がボレーで押し込んで同点としたが、流経大柏の勢いは止まらなかった。
 
 後半アディショナルタイム、流経大柏は右MFからボランチに変わっていたMF本田憲弥が攻撃参加。右サイドで起点を作ったMF加藤千尋からパスを受けると、ドリブルで相手DFをわずかに外して相手の外側からゴールポスト右を狙う技ありのシュートを放った。青森山田のGK廣末が鋭い反応を見せたが、ボールはポストを叩いて跳ね返り、流経大柏のMF河西守生がすかさずボレーで押し込んで勝利を決定付ける2点目を奪った。
 
 ポスト直撃弾を放った本田は「運動量ならみんな自信がある。プレスで相手を困らせて、自分たちのペースでできた。追いつかれた後も相手は運動量が落ちて、中盤と最終ラインが間延びしていたので、前でボールが収まったら運動量を出して狙いに行こうと思っていた。いつもなら、パスを選択していると思うけど、今日は決めてやろうと思った」と思い切りの良い飛び出しから生まれた決勝点を振り返った。
 
 流経大柏は、今季はリーグ戦でなかなか勝てずに自信を失っていたが、県予選からトーナメント仕様にチームを仕上げ直し、守備をベースに勝ち上がってきた。そして全国大会で勝利を重ねるうちに、ロングパスを生かしながらサイドを起点に思い切りよく攻める攻撃の形も見えて来た。
 
 榎本コーチは「本田先生からも、流経らしさを出せと言われているし、この大会はそこにこだわっている」と話したが、鬼プレスと思い切りの良い攻撃という歴代のチームが持ち味にして来たスタイルが蘇って来た印象だ。
 
 現在はJ1新潟でプレーしているOBの小泉慶が、高校時代に「守備は気合い、攻撃は乗り」と話していたが、勢いに乗ると止まらないのも流経の特徴だ。
 
 決勝点を決めた河西は「チームの雰囲気は、超良い。一人ひとりの試合に対する意識が変わって来ている。全員が一つの方向に向かって勝とうとしているので、負ける気がしない」と、これまでの不調時に見せていた表情とは打って変わって強気な言葉で決勝への意気込みを示した。
 
 翌2日の決勝は、市立船橋(千葉2)との同県勢対決。メンバー登録17人の大会で2人が同時に出場停止となり、1年生DF関川郁万が3回戦で腰を痛めた影響もあってパフォーマンスを落としているという満身創痍の状況だが、最後まで勢いで乗り切れるか。持ち味を取り戻したが、復活の二文字の前に「完全」を付けるためには、やはり永遠のライバルを倒さなければならない。
 
取材・文:平野貴也(フリーライター)