千葉ロッテマリーンズ 鈴木 大地選手 vol.1「プロフェッショナルなショートの『目』」
2013年から3年連続でショートのリーグ最高守備率。チームでは入団3年目からキャプテン。誰もが認める千葉ロッテマリーンズの「顔」・鈴木 大地選手。しかし己の中には、周囲の声に惑わされない自分だけの評価基準があった。その目がとらえる視界には何が映っているのか。ルーツからグラブのこだわり、目指すべき選手像まで語ってもらった。
「柳田シフト」に見る鈴木選手の自己分析鈴木 大地選手(千葉ロッテマリーンズ)
2016年4月7日の対福岡ソフトバンク戦のことだった。1回裏ソフトバンクの攻撃。2アウトランナーなし。打席には3番柳田 悠岐選手(関連記事)。昨シーズントリプルスリーを達成し、リーグMVPに輝いたパ・リーグを代表する打者は、千葉ロッテマリーンズ先発・涌井 秀章投手が投じた初球のカーブをとらえる。打球は二遊間へ。誰もがセンター前ヒットを確信した刹那、あらかじめ二塁ベース付近にポジショニングしていたショートがさばいてアウトに。
「『そこにいたの!?』と思われる形でアウトを取れた時は、相手の一枚上をいった感覚が得られますし、自分の中では会心の守備だと思っています。ヒットだと思われた打球をアウトにできた、という点で」
そう語るのは、この時ショートで絶妙なポジショニングをしていたロッテのショート・鈴木 大地選手である。4月20日のソフトバンク戦でも、同じポジショニングから柳田選手の二遊間を襲うヒット性の打球を2度処理。ロッテが採用する『柳田シフト』が話題になるきっかけを作った。
3年連続でパ・リーグのショートの最高守備率を記録している。今シーズンはリーグ初本塁打を記録した後も連続でホームランを放つなど、バッティングも注目だが、数字を見てしまうと、どうしても「守備の人」というイメージが強くなる。
しかし、本人は全く自覚していなかった。「守備率に関してはよく言われますが、正直、守備率の数字は全く気にしていなくて。なぜなら、数字だけでは表せられない部分があるからです。自分には、数字では分からない大きな部分が欠けていると思っています。ヒット性の打球を捕ってアウトにできる率がもしあれば、ソフトバンクの今宮(健太)選手やオリックスの安達(了一)選手の方が高いはずです。
僕には肩も足も守備範囲もない。もちろん努力はしていますけど、彼らと同じレベルに到達するのは難しいと思っています。ではどうやって対抗していくか。自分が捕球できる範囲内なら100%近い確率でアウトにするしかないんです」
[page_break:鈴木大地選手が目指すショート像とは?]鈴木大地選手が目指すショート像とは?鈴木 大地選手(千葉ロッテマリーンズ)
「ピッチャーやお客さんが“捕れない”と思う打球を捕るプレーは、プロ野球の魅力の一つ」だと思っている。だからダイビングキャッチや、常識外のスピードで打球に追いつくプレーができる選手が羨ましいし、尊敬するという。しかし、鈴木選手の凄みが滲むのはそこからだ。身体能力がない自分を認め、ではどうすべきか、を考えて答えを導き出す。冒頭で紹介した『柳田シフト』は、その答えの一つだ。
「ポジショニングでカバーするのも一つの方法です。もちろん1球ごとにコーチから指示が出る場合もありますが、個人的にも試合前に先発ピッチャーが前の登板でどのような結果だったかを調べますし、投球時も1球ごと球種によって予測しますし。洞察力は今後もっと磨いていきたいと思いますね」
話をうかがっていると、現状に満足している点が一つもない、と感じさせるほど成長することに貪欲だ。常に何かを求めているような必死さが伝わってくる。
「自分の守備範囲を少しでも広げる練習はずっとやってきています。一つのプレーの精度を高めていく中でも、スピードを上げていきたい。といいつつ、エラーもしているので偉そうなことは言えませんが…。例えば今春のキャンプでは、バッティングも含めて身体の芯の強さを再確認し体幹系を意識的に鍛えました。グラブだけで打球を捕りに行くとプレーは遅くなるので」
目指すべきショート像は「自分がまかされた範囲を限りなく100%に近い形でさばける選手」。実際に話をうかがっていると、非常に謙虚で真面目な印象だ。しかし一方で、鈴木選手は元気さでチームを鼓舞するロッテのキャプテンなのだ。
「元気」を保つ難しさは、ある「なぜキャプテンか、自分でも正直わからない部分があるのですが…。自分のプレースタイルは何だ、と考えた時『元気』だろうと。その点を評価してもらったのかなという思いがあります。伊東(勤)監督ともいろいろ話した時に、『キャプテンになっても特別なことをしなくていいから、元気を前面に出して引っ張っていってほしい』と言われましたし」
ロッテでキャプテンに就任したのは、入団3年目の2014年。まだ24歳の時だった。プロ野球において、この若さでチームのキャプテンを任されるのは異例といえる。じつは鈴木選手、東洋大学時代も3年の時点で副キャプテンを任されている。「大学3年の時も春にいきなり監督に呼ばれて『副キャプテンをやれ』と言われまして。最初は冗談だと思ったのですが『その元気、前を向く姿勢で引っ張っていってほしい』と言ってもらったんです」
[page_break:「元気」を保つ難しさは、ある]鈴木 大地選手(千葉ロッテマリーンズ)
鈴木選手の元気には、周囲をポジティブにさせる力があるようだ。これは所属するチームにとってはかけがえのない強みとなる。元気はつらつ。でも一方では謙虚で真面目。両面とも鈴木選手の持ち味だろう。しかし、時として真面目がゆえに元気でいられなくなるのも事実だ。
「いつも元気でいられるわけでもないんです。プロだと毎日試合があって、全て数字で出る。チャンスで打てなければ叩かれ、活躍すれば持ち上げられる。メンタル面の上下動が激しい中、元気を一定に保つのは難しい部分もあります。プロ入り2年目の頃でしょうか、一軍で試合に出始めた頃に打てなくて悩んだ時期がありました。
その時、コーチに檄も込めて『若いのに、まだチームを引っ張る立場でもないのに落ち込んでどうする。打つ、打たない関係なく元気を出して前を向け。下を向いている姿を見せられるとチームの士気にも影響する。逆に辛くても元気を出してやっていれば試合に使いたいと思ってもらえる選手になれるぞ』と言われたんです。以来、どんな時でも元気だけは出していこうと考えるようになりました。
それでも、悔しい気持ちが出てしまう時があります。そこはまだ未熟だなと思うところで、チームのために元気を振りまかなければいけない。年々若い選手も入ってきている中、元気でいることを伝える立場で『鈴木さん、あんなこと言っているけど自分が打てない時は落ち込んでいるもんな』って思われたくないですし」
どこまでも真面目…というか正直だ。体面を取り繕うことを考えない。誰でも憧れる生き様だが、だからこそ苦しむこともある。「内心きつい」と思うこともある。そういう時は「試合が終わってから落ち込むなり反省するなりしよう」と言い聞かせる。それでも試合中にマイナスな気持ちが出そうになることがある。そうしたら「まだだ、最後までいくぞ」と一人つぶやくという。そして試合後、ロッカールームで一人になった時に静かに考える。例えばグラブを磨きながら試合でのプレーを反芻し、磨き終わったら「よし、明日がんばろう!」と切り替えるのだ。
ここまで鈴木 大地選手のポジショニングや、鈴木選手の持ち味である元気の良さについて教えていただきました。第2回はグラブのこだわりについて語ったインタビューをお届けします。(続きを読む)
(取材・文=伊藤 亮)
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