済美vs小松
試合後、秋季愛媛県大会3位の表彰状を受け取る済美主将・和田 蓮次郎(遊撃手1番・2年)
高校野球の戦いは「プレイ・ボール」がかかった後のグラウンド上だけではない。例えば、事前に対戦相手の傾向を分析し、そこに対応すべく確率の高い守備位置や絞り球を決め試合に臨む。指揮官目線で見れば、最終的に目指す公式戦勝利のために、練習試合を実験台に使うことも多々ある。それらの考え方を他競技にあてはめてみると、巡業や稽古でのぶつかり合いや映像研究を土台に本場所に活かしていく「相撲」的考え方もできるだろう。
そしてこの試合は正に試合前。相撲でいえば「立ち合い」の時点から戦いが始まっていた。まず仕掛けたのは、4年ぶり2度目の秋季四国大会を狙う小松・宇佐美 秀文監督である。
小松の先発は東予地区予選も含む秋季県大会ここまで5試合・44回・601球を1人で投げ抜いてきた最速139キロ右腕・馬越 康輔(2年・165センチ68キロ・右投左打・今治市立伯方中出身)ではなく、8月の東予地区新人大会で3試合・7回3分の1は投げているとはいえ、今大会は初登板の東 樹一(2年・166センチ64キロ・右投右打・松山中央ボーイズ出身)。
「打者の手元でボールが伸びる」東から馬越につなぐ、「2014・2015年夏型」継投を選択した上で、打線も済美の左投手先発を見越して先発を3人入れ替え、右打者を6人並べてきた。「気分転換です」と報道陣を笑わせた上で「この起用は練習試合でもやったことがあるので違和感はない」と宇佐美監督。特に東の先発は「全く想定していなかった」済美・乗松 征記監督を驚かすには十分な「変化」である。
しかし、「まず秋の四国大会に出場することを目指してやってきた」(乗松監督)済美は変化にも動ぜず正攻法をこの試合で貫いた。
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四国大会出場を逃し、済美の表彰を見つめる小松の選手たち「左打者が多いと思って」指揮官が先発させた左腕・菊池 怜雄(2年・172センチ73キロ・左投左打・宇和ボーイズ出身)が序盤制球に苦しむ場面では、守備タイム一度を使って落ち着きを取り戻す手法を選択。菊池は3回以降尻上がりに調子を上げ、149球・5安打・7四球・9奪三振・2失点で公式戦初の完投勝利を果たすことになった。
済美は攻撃面でも、3回裏まで毎回出た先頭打者をしっかりと活かした。2回までは犠打で送り、3回は二死から2番・上田 貴宏(2年・三塁手・170センチ70キロ・右投右打・松永ヤンキース<広島・軟式>出身)が盗塁を仕掛け「得点圏に進めてから勝負する」チームポリシーを専念する。
結果、1回には4番・小山 一樹(2年・捕手・178センチ77キロ・右投右打・三田ボーイズ<兵庫>出身)の右前適時打・3回は5番・宇都宮 佑弥(1年・一塁手・163センチ92キロ・右投右打・愛媛松山ボーイズ出身)の強烈な中前適時打により主導権を奪うことに成功。そして4回からやむなくマウンドに上がった小松・馬越に対しては一転、準決勝でも試みたヒット&ランも交えてチャンスを拡大。一死二・三塁から1番・和田 蓮次郎(2年・遊撃手・170センチ63キロ・高槻リトルシニア<大阪>出身)が主将の貫禄を示す中犠飛で出鼻をくじくと、馬越からも5得点。かくして済美は、安樂 智大(現:東北楽天ゴールデンイーグルス)が1年生エースだった時以来となる3年ぶりの四国大会出場を完勝で手に入れた。
相手に対応せんがあまり、自らの形を崩してしまった準決勝・今治西戦。ただ、そこからわずか24時間で、変化に動ぜす、立ち返るべき「正攻法」で勝利につなげた事実は済美にとって「1勝」以上の意義を持つはずだ。
(文=寺下 友徳)
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