仙台育英の野球ノート【前編】 「ノートが変わらないと、何も変わらない」

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 今夏の甲子園で準優勝した仙台育英。佐々木 順一朗監督は監督に就任した1995年から「野球ノート」を取り入れている。「最初は『毎日、見る』と宣言したんです。でも、毎日提出させて見ていたら、僕が大変になりました。だって、100何十人分ですからね。それからは、提出するのは週1度に変更しました」現在も提出は週に1回。その日は佐々木監督の机の上に大量のノートが積み重なっている。

ノートを自由に1ページ、どう使うのか?

仙台育英・佐々木 順一朗監督

 「僕が手取り足取り、100何十人を見れるわけではありません。(野球ノートは)野球のことだけを書くわけではなく、内容は自由。やっていて役に立つのは、生活とか、性格とかが分かり、こういう子なのかなというのが見えてくること。提出物なのでウソ八百も書いてあるかもしれない。でも、ウソ八百を書くのもその子の性格が出るので、その子を知るためには間違いなく大切なツールですね。

 あと、チーム内で何が起こっているとか、こういうことがあったとか、こういうことがあってあいつは努力している、あいつは頑張っている、あいつを見習おうとか、いろんな声がいっぱい聞こえてきます。そうすると、その子を見てみようかなという手助けになっていますね。みんなが認める子というのは、不思議とノートからうねりだしてくるんですよね。僕の前だけ立派な子、そうでもない子、ノートはきちんと書くけど表に出せない子、ノートはダメだけど表に出る子……。いろんな子がいっぱいいるから面白いなと思いますね」

 佐々木監督が重視するのは、個性。「野球ノート」は書き方も内容も自由で、ノート1ページをどう使うか、どんな内容を書くかは個人に任せられている。その日のニュースや読んだ本の感想、名言を書く部員もいる。

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[page_break:罫線のない白紙のノートこそ個性が発揮される!]罫線のない白紙のノートこそ個性が発揮される!

佐々木 啓太選手のノート。上が1年冬までのノート。下がそれ以降のノート。色使いが変わっている。

「野球日誌のような、ここにこれを書いてと項目がいっぱい分かれているようなノートを作る気はさらさらないです。項目に合わせて書き入れるだけなので、個性が全く見えず、アンケート調査のようになってしまう。書き入れるだけでノートは完成するけど、A君とB君の違いが見えないと思います。今までの部員の中には、毎日、絵を書いた子もいます。それが上手い。こちらも絵を見るのが楽しみになっていました。区分けの仕方もその子の個性が出る。こいつ、だらしないんだなとかが分かります。

 だから、白紙のノートがいいんですよ。以前、白紙のノートにチャレンジした子もいるんですが、とても大変なことがわかったと言っていました。字をどこに書いたらいいか分からないそうなんです。でも、白紙の方が、個性が出るなと思います。真ん中に大事なことを書いて、その周りを埋めていくという形でも、何でもいいんですよ。本当は白紙の方がいいのにな、と思います。自由なノートは個性が出ますよね」

 自由がゆえに、入学当初はどう書けばいいのか分からない。ノートを1ページ使うことも難しいが、学年が上がるにつれて内容はどんどん変わっていくという。そして、最終的には小論文を書けるようになってほしいと佐々木監督は考えている。

「1年の時のノートは恥ずかしくて見られないと思いますよ。最終的には小論文を書けるようになってほしいと思っています。文章力をつけてほしいのに<朝起きて歯を磨きました>みたいな作文を書かれると、残念ですね。提出物をどう考えているのかなど、その子の根本的な問題も潜んでいます。本当にいい加減な子はいい加減。それを直す気もないです。ただ、何ヶ月かに1回は言いますよ。ノートが変わらないと、何も変わらないよ、と」

 冬場には、常識問題や佐々木監督が独自に作った野球に関するテストなども実施されている。「野球ノート」もテーマを設けて書くこともある。「テーマは何だっていいんですよ。“クリスマス”とか、“お正月”とか、そんなテーマで野球にどう結びつけるのか。“宮城”でもいい。あとは“高校野球”、“甲子園”、“第100回大会”とか、何でもいいんですよ。“佐々木 順一朗”でもいいし。その辺は自由です」

 日々の「野球ノート」で“書く力”“考える力”“感じる力”を養っている仙台育英の部員たち。実際に「野球ノート」と向き合ってきた部員はどう感じているのだろうか。

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[page_break:グラウンドマネージャー本田の野球ノート]グラウンドマネージャー本田の野球ノート

3年生のグラウンドマネージャー・本田 雄太選手

 3年生でグラウンドマネージャーを務めた本田 雄太は「昨日、3年間のノートを見返したんですよ」と話し始めた。「1年生の頃は仙台育英のことを何も知らないので、自分がその日をどう過ごしたかということを書いていました。周りで試合に出た人がいたから、自分も試合に出られるように頑張りたい、とか。日々が過ぎるにつれて、チームがよくなるために必要だと思うことをどんどん書いていくようになりました。グラウンドマネージャーという立場だったということもありますが、最後の1年間は自分のことについては触れていません」

 では、どんな内容が多かったのか。「自分の目から見たチーム状況ですね。先生(監督)が毎日、グラウンドに出てくるチームではないので、先生が見えない部分もあります。どういうところがダメだったのかということはよく書いていました」

 今年の春にはこんなことがあった。そのポジションのリーダーだった選手がベンチを外れ、落ち込んだ態度をとっていた。その姿を見て、「野球ノート」に「これではダメだ」ということを記した。その後、佐々木監督と話しをした際、「そういうことを書いてくることはいいことだから」と言われたという。

「自分としては、客観的に見て、チームにとっては良くないことだなと思ったから書きました。気を遣うノートではダメだと思います。この日に何があったのかが分かるノートじゃないといけません」

 悪かったことだけではなく、もちろん、良かったことも逃さない。この夏の大会前、仙台育英は学年ごとにグラウンドを10周するランニングをしていた。

「学年ごとの集団で走るペース、声、見た目の綺麗さなど、パッと見た時にいいなと思う瞬間があり、これはもう全学年で走ってもいいのではないかと思いました。久しぶりに感動したというか。注意されてばかりいた2年生が、たぶん、初めて先生に褒められ、チームがいい方向に動き始めたなと感じた瞬間でした」

 10月1日公開の【後編】では、実際に選手たちが野球ノートをどう活用してきたのか?また、書き続けることで変化したことなどを語っていただきました!お楽しみに!

(文・高橋 昌江)

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