菊池 雄星投手が書き続ける『自分と向き合うための野球ノート』

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 9月13日のロッテ戦で、プロ野球左腕史上最速(1軍)の157キロをマークした菊池 雄星。その速球を武器に今シーズンは9勝をマーク(9月29日現在)。今年でプロ入り6年目を迎えた菊池投手だが、今回は、高校時代から取り組んでいた「野球ノート」の活用法について語っていただいた。

 菊池投手の高校時代を振り返れば、春1回、夏2回の甲子園に出場。3年春の第81回選抜高校野球大会では、準優勝を経験。高校最後の夏は、第91回全国高校野球選手権大会に出場を決めると、甲子園で最速154キロをマーク。エースとして、4強入りに大きく貢献した。

 実は、この年の花巻東の選手たちは、「野球ノート」を毎日書いていたものの、佐々木監督に提出することはなかったという。あくまで、選手間で自主的に野球ノートに取り組み、お互い抜き打ちで書いているかどうかをチェックし合うというシステムだった。「書かされているノート」ではなく、自ら取り組んでいた花巻東のノート。当時、菊池は、どんな思いでそのノートと向き合っていたのか。また、どんな内容を記していたのだろうか?

中学からプロ入り後も書き続けている菊池 雄星の野球ノート

 高校時代は毎日、野球ノート書いていました。当時は30分から1時間近くかけて、書いていましたね。僕は、中学時代から野球日誌をつけていたので、難なく毎日書き続けてこられたのですが、そのままプロに入ってからも、毎日、日誌は書き続けています。

 高校の時は、かなり形式的な感じで書いていました。内容も、感情的な面が多かったですね。「絶対甲子園行くぞ!」とか。そういう言葉が多かった。でも、今はどちらかといえば、もっと自由に、気付いたこととか、ゆっくり一日を振り返って、書いていますが、それが楽しいです。

 やっぱり、大人になるにつれて、自分を客観視できるようになってきたなというのは、日誌を書いていても感じます。

 中学時代から書き続けてきた野球ノートは、今振り返っても意味があるものだと感じます。それは、『日誌を書く』という行為ではなくて、『自分と向き合う時間』の確保こそ、意味があるものだと考えていたからです。自分と向き合える静かな時間を練習で忙しい高校時代に作ることが出来ていたのが、とても貴重で大事なことだったのかなって、今、振り返っても感じます。

注目記事・9月特集 野球ノートの活用法・2015年秋季大会特設ページ

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 そんな菊池投手が、花巻東高校時代、一体どんな形で野球ノートに取り組んできたか、さらに詳しく伺いました!

花巻東高校時代・菊池 雄星らの代で実践していた野球ノート活用法

花巻東の室内練習場にも心を強くする言葉が貼られている

 入学して最初の頃は、監督さんに提出して読んでもらっていたんです。でも、僕らの代になったら、そういう取り組みがスパッと終わったので、監督が見なくても、自分たちで続けていこうよと話して、みんなでチェックし合っていました。

 選手間のミーティングの時に、選手同士、抜き打ちで、ちゃんと毎日書いているかチェックしていました。『ちょっと、お前のノート持って来い!』って声を掛けあっていましたね。書いてなかったりすると、練習出るなとか、言い合いながら。とくに日誌係がいたわけでもなく、僕も『見せろ!』っていう立場の方だったので、仲間たちからは煙たがれていたと思います(笑)。

 やっぱり、部員が100人いたとしたら98〜99人は書いているけど、1人か2人ぐらいは書いてないやつがいるんです。そういう選手に限って、レギュラーというケースがあるので、80人はベンチに入れないわけですから、ベンチ入り出来なかった選手が納得しないかなと思って、そのあたりは常に目を光らせていました。

 それでも、日誌を書くことをそこまで大事に考えていたのは、書くことを大事に考えていたというよりも、チーム内で何か一つ、決まり事を決めてやるのが一番大事だと考えていたからです。それが、たまたま日誌だったっていうだけです。それが、トイレ掃除でも、なんでもいいと思うんです。これは、ただの手段であって、日誌をみんなで取り組んだから、野球が上手くなるとか、チームが一つになるということを求めるのではなく、何か一つのことをチームでやるんだ!ってみんなで決めることが、高校野球ではとくに大事なことだと考えていました。

 当時、僕たちが書いていた日誌の内容は、その日によって全然違うんですけど、例えば、『今日の練習で、差し入れを頂いて、その人に「ごちそうさま」をいう時に、歩きながら言ったやつがいたな』とか、そういうことを書いていました。『そういうところをしっかりしないとダメだな』とか。僕だけじゃなく、みんなそんな感じです。監督にみせるわけでもないので、あくまで自分の振り返りとして書いていたんですが。あとは、『今日は靴が揃っていなかった。そういうところを徹底していきたい』とか、そんな内容が多かったですね。

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[page_break:野球選手にとって大事な自分と向き合う時間を生み出す]

 ここまで、菊池 雄星投手に、高校時代の野球ノートの取り組みなどについて語っていただきました。最後に、今でも日誌を書き続けている菊池投手に、「日誌に取り組むための一番の理由」を伺いました。

野球選手にとって大事な自分と向き合う時間を生み出す

菊池 雄星投手(埼玉西武ライオンズ)

 僕が、日誌を書き続けているのは、書くことで、何か得るとか、野球が上手くなることを求めているわけではないんです。それでも僕が、今でも続けている理由というのは、一日の中で、自分と向き合う時間を生み出すためなんです。

 例えば、今だとスマホとかあったりして、「ながら時間」が多くなっている。僕は、それが嫌いなんですけど、スマホしながら、テレビを見たりとか。勉強をしながら、LINEをしたりとか。そういう外の情報を遮断して、一対一になるというか、ノートと自分で会話するっていう時間が、今の時代は減っている気がします。だから、僕は今もノートを書くということを続けて、自分と向き合う時間を作っています。

 それが、日誌じゃなくても、掃除を黙々と取り組むでも良いと思う。掃除の時って、他のこと考えずに掃除をするじゃないですか。そういう時間を作ることが、野球選手にとっても、すごく大事なのかなって思うので、僕の場合は、それが日誌であって、今でも日誌を書く時間はとても大切にしています。

「なぜ、野球ノートを書き続けるのか?」選手によって色々な答えがあると思いますが、その理由が明確なほど、選手やチームの強さにもつながっていくのではないでしょうか。みなさんが野球ノートを取り組む理由は何ですか?誰かに見せるためではなく、自分のためにノートを活用できるようになった時、もう一つ上のレベルの自分に出会えるかもしれません。菊池投手、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(文・安田 未由)

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