ストイックな仕事ぶりを明かした二階堂ふみ - 写真:平岩亨

写真拡大

 『ヴァイブレータ』『共喰い』などで知られる脚本家・荒井晴彦が、芥川賞作家・高井有一の谷崎潤一郎賞受賞作を映画化した終戦70周年記念作品『この国の空』。本作で終戦前夜をひたむきに生きるヒロインにふんした二階堂ふみが、20歳とは思えないインディペンデントな姿勢と、ストイックな仕事ぶりを明かした。

 二階堂演じるヒロインは、激しい空襲や飢餓と隣り合わせの極限状況の中、「結婚もできないまま、死んでいくのだろうか」という不安を抱えながら、妻子ある隣人・市毛との恋に溺れていく19歳の里子。市毛役の長谷川博己が、2年ぶりに共演した二階堂について「少女の部分を残しつつもすごく大人びていて、ビックリしました」と語るように、二階堂本人の魅力がそのまま里子と重なる、清純さと無意識の色香を併せ持つキャラクターだ。

 脚本に惹(ひ)かれて出演を決めたと語るだけに、激動の昭和を生きた里子の美しく丁寧な言葉遣いを再現すべく、成瀬巳喜男監督や小津安二郎監督作品に登場する女優たちを研究したという二階堂。「里子というキャラクターがそこに生きていることを見せたいと思い、口調としぐさだけはとにかく作り込んでいきました」と振り返る。

 驚くべきは、撮影現場に対する彼女のスタンスだ。主演女優たるもの、マネージャーや付き人など、取り巻き数人を常に引き連れていても不思議ではないはずなのに、「京都の撮影所へは一人で通い、現場でもマネージャーさんを付けないで一人でやっていました。戦争中に生きていた人たちはきっとものすごく情報量が少なかったと思うんです。(京都の)太秦というのはすごく洗練された場所でしたし、狭いマインドを持って現場に集中する姿勢で臨んでいました」と明かした。

 しかし、そんな二階堂も本作のフィルム撮影には緊張したようだ。「セリフをかむたびに死にたくなるというか、これで何万(円の損)なのかと。ギャラから引かれちゃったらどうしようとか、そんなことばかり考えていました(笑)」と本音半分、ちゃめっ気半分に愛らしく告白。少女と女の境界を自由に行き来するばかりではなく、この甘さと辛さのバランスがやはりただ者じゃないのだ。里子と市毛の関係を「どちらかというと里子が主導」と分析する、二階堂の和製ファムファタールぶりに注目だ。(取材・文:柴田メグミ)

映画『この国の空』は8月8日よりテアトル新宿ほか全国公開