イチローと松井秀喜 ライバル関係と言われる2人に多くの共通点

写真拡大

イチロー松井秀喜。彼らは1990年代以降のプロ野球界を象徴するスター選手たちだ。二人の仲はそこまで悪くはなくテレビで対談なども行っているのだが、ネットを中心に両者のファンが争う場面が多く見られる。(いわゆる"イチマツ論争")そんな両者はよく考え方が真逆、「水と油」などと言われ、イチロー自身も松井引退時には「まったく僕と違う思考」とコメントを残している。
しかし、松井が2007年に出版した自著「不動心」(著:松井秀喜/新潮新書)を読むと、イチローと考え方や野球への取り組み方で共通する点がいくつも見られた。

【感情を表に出さない】


まず、どちらも精神力が強く、グラウンド上ではどちらも喜怒哀楽を決して見せない。その理由は試合で結果を残すためだ。
松井:「悔しさは胸にしまい表情を変えない」と本書内で語る。その理由は表情に出してしまうと次も失敗する可能性が高くなるからだ。
イチロー:彼もまたポーカーフェイスとして知られている。過去には「敵に隙を見せたくないから悔しさや嬉しさを見せない。グラウンド上の自分は演技に近い。」と発言している。

【失敗に向き合う強さ】


両選手も輝かしい打撃の成績を残してきたが、6割近くは凡退している。どちらも失敗に向き合う強さを持ち、失敗から学ぶ力に長けている。
松井:本塁打を打った日でも考えるのは凡打した打席のことらしい。プロとして成功した人はみな失敗を乗り越える力があるとも述べている。
イチロー:日米通算4000本安打を記録したときには「良い結果を誇れる自分ではない。誇れることがあるとすると、8000回以上は悔しい思いをしている。それと常に自分なりに向き合ってきたことを誇る。」という名言を残している。
また、イチローが打撃への"確信"を掴んだのも1999年での凡退がきっかけであり、今のイチローは失敗から成り立っているともいえるだろう。

【継続することの大切さ】


どんな一流選手でも一朝一夕で成績を残せるようになったわけではない。陰には毎日の地道な努力が隠されているのだ。松井もイチローも毎日コツコツ努力することの大切さをよく知っている。
松井:松井は中学の頃から毎日の素振りを欠かさなかった。そんな彼は自身を「一歩ずつ階段を上るタイプ」と表現し、急激に凄い数字や技術を得ることはないから少しずつ進歩するしかないという考え方を持っている。
イチロー:「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」とMLBシーズン最多安打記録を更新したときに語った。また、自身が一番誇れるものに高校時代に行った毎日10分間の素振りを挙げるように、毎日の努力の大切さとその難しさについて誰よりも理解している。

【頭を使って練習する】


しかし、やみくもに努力するだけでは偉大な成績を残すことはできない。今の自分にとって足りないものはないか、それを補うためにはなにが必要かをしっかり理解している。
松井:練習では色々なテーマを持ったという松井。打撃について常に頭で整然とさせており、素振りやティー打撃を通してイメージと実際のズレを修正していた。
イチロー:「練習は裏切らないと言われますけど練習は裏切ることもある。錯覚を与える場合がある。」と過去には発言したことも。イチローもまた、自分はどんな状態なのかをいつも感じながら練習をしている。

【変化を恐れない】


努力をしてなにかを掴んだとき、それをまた手放すのには勇気がいる。しかし、両者とも常に変化することを恐れていない。その理由は変化しなければ進化することはないからだ。
松井:「過度な思い込みは嘘より危険な敵」と本書では語っている。松井はどちらかというと頑固なイメージであるが、野球に関しては柔軟な側面を持っている。
日本時代はホームランバッターであったが、メジャーではそのスタイルが通用しないと考え、すぐに方向転換した。メジャー移籍後、左方向に強い打球が飛ぶように左手を重点的に強化したというエピソードが象徴的だ。
イチロー:「変わることが全く怖くない」と語るように、好成績を残した次の年でもためらいもなく打撃フォームを変える。ファンからすると好調時のフォームをなぜ変えるのだと思ってしまうが、イチローは「打撃には終わりがない」ので、常に変えていかなければ成績を残すことはできないという考え方だ。

【道具は「体の一部」】


どんなに野球がうまくなっても絶対に道具を粗末に扱うことがないところも共通している。また、両者は「バットは体の一部」という似通った感覚を持っている。
松井:バットは体の一部で魂の入った生き物だと考えている。手入れを毎日することで道具の状態を把握していた。
イチロー:松井と同じようにバットは神経の一部だと考えている。毎日グラブなどを手入れし、他人には絶対触らせないことでも知られている。かつて一度だけ、三振に激情してバットを叩きつけてしまった際には、バット職人に「バットを雑に扱ってすみませんでした」と謝罪している。

【野球を誰よりも愛する気持ち】


そして忘れてはならないのが、なによりも野球を愛している気持ちだ。松井もイチローもこの気持ちが人一倍強かったから人並み外れた努力をし、異次元の成績を残せたのだろう。
松井:「野球は一番好きなもの以外に表現できない。好きだから努力する。」と本書内で語っている。
イチロー:「これでいいやってならない理由は野球が好きだから」という言葉どおり、誰よりも野球を愛している。練習中には野球少年のような笑顔を見せることもしばしばだ。

【他にも共通点が】


松井とイチローとの考え方で決定的に違うとたびたび言われているのは、メディアに対する接し方と「チーム・個人論」だろう。イチローはメディアに厳しく、松井は記者と食事や草野球をするほど仲が良い。イチローは個人のため、松井はチームのためにプレーするという考え方だと思われている。しかし、これらに関しても根本の部分では共通の考えを持っている。

メディアの接し方に関して松井もイチローも「記者と選手がお互いにプロとして切磋琢磨するべき」という考えを持っている。

そしてイチローが個人のためと語るのは、あくまでも個人が結果を残した先にチームの勝利があるという信念ゆえ。実際にWBCや現在所属のマーリンズでは、積極的に若手に自身の経験を伝えたり、自身の特注バットケースを送ったりしている。
また、松井も「チームの勝利を目指したからといって無安打でよいとは考えない。勝利を打てなかった言い訳にしない」と述べており、決して個人をないがしろにしているわけではない。

この他にもイチローと松井はあまりプライベートでチームメイトと交流しない一面や、先輩たちを良い意味で敬わない点などでも共通している。
やはり、同時期に野球界を牽引してきた両者。考え方がまったく違っているように見えても多くの部分では共通する思考や行動があるのだろう。
(さのゆう)