クスリ売買、カード詐欺…犯罪に手を染める“半グレ妻”が急増のワケ
鈴木敏子さん(仮名・37)が、5年間暮らしていたマンションを追い出されたのは半年前のことだった。
「何の迷惑行為もしていなかったんですけどね。お隣さんとも会ったら和やかにご挨拶していましたよ。なのに、旦那が暴力団員というだけで、管理人が弁護士を連れて『苦情が来ているから出て行ってくれないか』と言ってきたんです。当時、旦那は、破門になった元組員と関係が悪くなっていたから、その元組員がマンション側にチンコロ(密告)したみたいです」
2010年以降、暴排条例が各都道府県で続々と制定され、施行されていった。今や暴力団だと銀行口座も開設できないし、堅気の人間を気軽にパーティに誘うこともできない。シノギにも規制がかかっている。これまで悠々自適に暮らしていた敏子さんも、生活費を稼ぐため四苦八苦しているという。
「旦那はこれまでクスリ関係はやっていなかったんですけどね、旦那がパケに詰めて、私がネットとかでお客さんと連絡を取り合って、それを売っています。旦那が街に出ると目立つし、相手も怖がるんで、売るのは私の方がいいんですよ」
極妻ならぬ、犯罪妻(半グレ妻)になってしまったようだ。
実行部隊は怪しまれない女を使う不況の現在、犯罪に手を染める主婦も多い。パチンコやパチスロなどのギャンブルにハマって旦那に内緒で借金を抱えた田中歩さん(仮名・32)は、ネット上でその裏バイトを知って応募した。
「私の仕事は、デパートに行って、事前に手渡された偽造の身分証を提示し、それでカードを契約することでした。契約後はすぐにカードが手渡されるので、20万円のキャッシング枠を引きおろし、10万円分のショッピング枠で転売しやすいものを買います。首都圏にあるそのデパートはほとんど制覇しましたね」
女性であれば昼間にデパートをうろついていても怪しまれないため、敏子さんのような女性が、こうしたカード詐欺の実行部隊になっているという。
都内の広域暴力団の組員から「あの女は天才だよ」と紹介されたのが、金子早苗さん(仮名・36)だ。
「このまえやったのが、乱交パーティ詐欺ですね。乱交パーティの説明会と銘打って、サクラの女の子を10人、男性会員64人を一堂に集めました。パーティの概要を説明し、会員に登録する人は、その場で年会費15万円を支払ってもらいました。男性会員は64人中62人が登録しましたね。もともと私は水商売をやっていたんですが、その繋がりから、当日はかわいい子ばかり集めたんで、男の人たちはみんな大興奮でしたよ。会場費とか色々と差し引いても、1日で500万以上が私の手元に入りました。その日は説明会だけ。もちろんそれで一回も開催しないでドロンしましたよ」
これまで早苗さんはこうした案をいくつも考え、彼女の旦那である暴力団員やその仲間たちが実行し、荒稼ぎしてきたという。
規制でがんじがらめになっていて動きが取りにくくなっている暴力団。今後は、早苗さんのように知恵がまわり、実行部隊となっても怪しまれない半グレ妻たちが、犯罪の中心を担っていくようになるのかもしれない。
(取材・文/井川楊枝)