主力選手のトラブルに、チームは処方箋を用意できていない。<br>(画像:二宮渉/フォート・キシモト)

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 1997年11月のジョホールバルのような、爆発的な歓喜はなかった。2005年6月のバンコクのような、険しい冬山を征服したよう達成感もなかった。2009年6月のタシケントのような、チームの逞しさを感じることも。

 6月4日に行なわれたワールドカップ最終予選で、日本はオーストラリアと1対1で引き分けた。4勝2分1敗で勝点を「14」とした日本は、この時点で予選突破の2位以内が確定した。試合後に行なわれたオマーン対イラクが1対0に終わると、首位通過も決定した。

 オーストラリアを相手に、チャンスは作り出した。経験豊富な相手に、互角以上の戦いを見せた。

 GKシュウォーツァーは圧倒的な守備範囲で日本に立ちはだかり、ケーヒルを巧みな距離感でサポートするホフマンも厄介な存在だった。キューウェルから背番号10を引き継いだクルースのスプリントは、ときに長友を慌てさせた。

 そうは言っても、オーストラリアはグループ2位をつかむのにも四苦八苦している。世界のトップ・オブ・トップではない。その相手に、チャンスと同じくらいのピンチを提供してしまったのだ。ワールドカップ出場を決めても、勝ちきれなかった物足りなさは消えない。

 3次予選と最終予選を通じて明らかになったのは、日本に閉塞感が漂っているということである。

 日本とオーストラリアは、2011年1のアジアカップ決勝で対戦している。両チームのスタメンを比較すると、日本は香川を除く10人までが当時と同じである。その香川にしても、ケガさえなければ先発に名を連ねていた。

 オーストリアはどうか。主力の高齢化が囁かれる彼らでも、2年半前と4人が入れ代わっている。   

 国際Aマッチ出場数が当時は2ケタに満たなかった吉田のように、日本代表に定着したばかりの選手がいたのは事実である。選手のほとんどは20代前半から中頃だった。3年後の現在でも、平均年齢は27・7歳である。オーストラリアより3歳ほど若い。だが、チーム結成当初からメンバーを固定してきた弊害として、ザックは有効なオプションを手にしていない。

 ワールドカップ予選は1年半の長丁場に及ぶため、控え選手をテストするタイミングが見つけにくかったのは間違いない。それでも、同じようなスケジュールでワールドカップ出場を決めたジーコは、予選を通じて玉田や大黒といったジョーカーを発掘した。前回の最終予選で出場権を手繰り寄せるヘッドを決めた岡崎も、国際Aマッチデビューから1年も経過していないなかでの活躍だった。

 ジーコにせよ岡田監督にせよ、主力の不調や不振によって、新戦力を抜てきせざるを得なかった事情はある。ザックの3年間は、そこまで切迫していなかった。本田や長友の欠場も、辛うじて致命傷とはならなかった。信頼の置ける経験者──中村憲剛や駒野友一らの安定感が、レベルダウンを最小限に止めた。

 10日後にはコンフェデレーションズカップが開幕する。ブルガリア戦で代表チームのコンセプトを再確認し、オーストラリア戦で真剣勝負の感覚を呼び覚ましたことで、それなりの戦いができるだろう。

 オーストラリアは守備のブロックを作ってきたが、ブラジルは日本の良さを消すことを最優先にしない。自分たちの強みを発揮することで、日本を打ち負かそうとしてくる。スペースと時間を与えてくれるだけに、こちらの良さも生きる。結果はともかく内容的に面白いゲームは期待できる。

 ここでも気になるのはオプションである。

 パスワークのエンジンをあげるなら、清武か中村憲剛だ。前線に高さを注入するなら、ハーフナー・マイクである。守備固めには細貝だ。ひとまず交代のカードは揃っているように映るが、選手交代が試合の流れに直接的な影響を及ぼした試合が、すぐに思い浮かばないのは僕だけか。

 6月5日からスタートするワールドカップ本大会へ向けた準備は、日本代表というグループ全体のレベルアップがテーマとなる。

 幸いにもここまでは、ターニングポイントとなる試合で主力が結果を残してきた。だが、98年のカズや2010年の中村俊輔のように、ワールドカップ直前で大黒柱が不振に陥る可能性は消し去れない。ケガのリスクもある。

 ワールドカップで勝ち進んでいけば、CBやボランチが出場停止になることもあるだろう。あらゆる事態を想定し、チームの体質を骨太にしていかなければならない。

これからの1年で、どれぐらい進化を遂げることができるのか。少なくとも先発に1人、ジョーカーとしてさらに2人の新戦力が台頭してこなければ、ザックのチームの未来は厳しいというのが僕の意見である。