――スゴイ試合でした。あと10分のところで先制されて、追いつき、同点引き分けにしました。

賀川:日本はこれでB組で4勝2分1敗で勝ち点14、残りのイラク戦を残してB組の1位が確定し、5大会連続出場となった。5日の朝に流政之(ながれまさゆき)さんから電話があって「すごい試合だったな。よかったな」と喜んでくれた。89歳の世界的な石の彫刻家もテレビの前で応援してくれていたらしい。日本中に関心が高まっていました。埼玉スタジアムの入場者が6万2172人で入場券の申し込みは60万人をこえていたそうです。

賀川:盛り上がっている時に、本番出場を決めることはサッカー発展のためにも大事なことですよ。埼玉で予選突破の瞬間を味わった人にとっては、人生のとてもいい経験になったと思います。

――選手たちは喜びのなかで、これからのレベルアップに取り組むことが大切と言っていましたね

賀川:ブラジルのワールドカップ本番で、上位へゆくにはもっとチーム力を上げなければならないし、個人技術も体力も判断力も高めなければならない。そのことは選手たちがよく知っています。

――試合を振り返ってください

賀川:本田圭佑と岡崎慎司が合流したので、久しぶりにレギュラーメンバーが揃いました。GKは川島永嗣、4DFは右が内田篤人、左が長友佑都、CDFは今野泰幸と吉田麻也、MFが長谷部誠と遠藤保仁をボランチに、トップ下に本田、右に岡崎、左に香川真司、ワントップに前田遼一をもってきました。

――いろいろ試していたようだが結局はこれまで通りのメンバーでした

賀川:監督から見れば、一番頼りになる組合せでしょう。予想通り日本は本田を軸に短いパスをつないで展開し、オーストラリアは先端のディム・ケーヒルを中心に、時にサイドを使って攻めようとしてきました。日本の攻めに対してはペナルティエリアのなかには、5〜6人がもどってきました。1週間前に来日してコンディションもよいようでした。日本側では、さすがに直前に戻ってきた本田と岡崎がベストとは言えなかったが…

――後半の35分までは0-0でした。ブルガリア戦や、予選のヨルダン戦で0-2、1-2と2点取られていたから心配する人も多かった

賀川:サッカーのようなスポーツでは、まず気構えが大切。ブルガリア戦は「キリンチャレンジカップの楽しみ」のところで指摘したように、戦う姿勢が見えない選手がいた。この日はピンチにも「体を張って」とアナウンサーがよく言うプレーもありました。

――内田が相手のシュートを2度体で止めた。あとで腹を押さえていたのもあった。ケーヒルのシュートを吉田がスライディングで止めた場面はテレビの前で拍手しましたよ

賀川:178センチと大きくはないが、ジャンプ力があり、空中戦に威力を発揮するケーヒルを今野がしっかり防いでいた。バネのあるケーヒルは空中戦だけでなく、瞬間的な早さでこれまで日本戦で点を取ってきましたからね。

――前半には相手の右のオープンスペースへボールが出て、ダッシュ競争で遠藤が振り切られてロビー・クルースがノーマークでシュートした。GK川島が飛び出して、ファインセーブ(右手に当てた)して救ったが

賀川:この場面でも遠藤はスピードの点で気の毒だったが、それでもいったんコースに体を入れようとしていた。やられても粘ろうとしていました。

――ブルガリア戦で「ぶれダマ」FKで失点した川島が、このファインセーブでいいところを見せたのに、後半36分にトミー・オアーのハイ・クロスが予想外に伸びてゴールに入ってしまった。ザッケローニ監督は「偶然のような形」という表現で川島をかばっていました

賀川:ゴールキーパーは守りの最後の責任者ですからね。僅かな時間だったが、目測を誤ったことは間違いないでしょう。野球の外野フライで、目測を誤ってヒットになることもあるが、川島自身には悔いが残るでしょう。このあとPKの得点が生まれたのは川島のためにもとてもよかったと思います。