ありとあらゆる人間を「材料」とした実験例を集めた『衝撃の人体実験』。医療にとって非常に大きな価値のあるものから、ただの虐殺まで幅広く集められています。人が人の体を実験台にするとはどういうことなのか考えるきっかけになる一冊。

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前々から興味があった仕事(?)の一つが、治験。
都市伝説的謎バイトのひとつとして昔から噂されていたものですが、実際どうなんだろう?と話していた所、経験あるよという友人に出会いました。
話によると今はかなりオープン。
ネットなどで求人しており、サイトもいくつか見てみたところ、非常にクリーンな印象でした。怪しげな空気はなし。
登録制サイトだとメールも定期的に来るようです。
重要なのは、あくまでも「治験ボランティア」であって「バイト」ではないということ。仕事報酬ではなく、ボランティアで謝礼。
説明会を受けて、次にMRIを使った健康診断。OKであれば通院で、通院一回につき1万前後の報酬。
制限は厳しく、BMI値ではねられることもあれば、薬・酒・カフェインなど一ヶ月厳禁など。
高いけど……なるほど厳しい。
薬の副作用とか問題とかは?という点に対しては、その人の話だと、海外で何度も人間で治験した薬を使っているので副作用は99%ない、とのこと。
あーなるほど、安心だー!
……うむ?
じゃあ、海外で治験している人いるってことですよね。

『衝撃の人体実験大全』は、人体実験例を集めた本。
現在行われている重要な治験から、悪名高い人体実験まで、ありとあらゆる役に立つものから立たないものまで、掲載されています。

まずは日本の治験の実情から。
東大医薬品評価学の小野俊介准教授は「刑法や民法の『人の身体を傷つけてはならない』の大原則はどの管轄にもかかっていて、そこに特例的なものは存在しません」と述べています。
極端な用量は当たり前ですがNG。苦痛を与えても問題ない、なんていう非人道的な治験も存在しません。
とはいえ、注射を打ち続けるのは大変ですし、胃カメラなどもしんどいもの。決して「楽」ではありません。
治験中の死亡の場合、特に抗癌剤等の場合は、事故なのか病気なのかわかりません。その場合は実は補償金が出ます。
「いずれにせよ、人間の身体を”材料”として実験を国が認可しているのは、製薬業界だけこれが公的なシステムになっていることに、製薬業界関係者はもっと責任と問題意識を持つべきでしょうね」

また、日本は治験後進国である、というドラッグ=ラグ(海外の新薬が日本で承認されるまでのタイムラグ)問題についても書かれています。
これも治験に対しての法律問題が厳しいからではなく、商売的に日本で旨味がないから命に関わる薬の治験が行われていない、逆に軽くても日本人の人種にあった薬じゃない海外の薬が、日本の治験なしに流入している、などの問題点をズバっと指摘。
治験という人体実験が、いかに重要で、多くの複雑な問題を抱えているのか考えさせられます。

本の中には、実際に治験に参加したライターのルポもあります。こちらは最初にあげた人のタイプと違って、2泊3日の宿泊型。もらえたお金は9万5000円。
高額に見えますが、実際読んでみるとこれが高いのか安いのか、不思議な気持ちになります。
ちなみに、治験も常連さんがいるとか。
では海外では? 海外でもやはり治験は高額。これを目当てにはしごする「治験バッグパッカー」もいます。
国境をまたげば回数制限もないので、荒稼ぎもできますが、全て自己責任。
それでもなんでも、この「治験」がなければ、薬は市場に出回らないのです。

他にも様々な人体実験が載っていますが、自分の身体で人体実験をした学者たちの話が興味深い。
コレラ病原菌の仕組みを解明するため摂取した科学者、カテーテルを自らの心臓まで初めて到達させた医師、チップを体内に埋め込んでネットワークとつながるサイボーグ化をほどこした学者など。
確かにね、やってみなければわからない。けれどちょっと自分ではやりたくないものばかり。
これが未来医療のためだと考えると、本当に恐れ入ります。

有名な心理実験もいくつか紹介されています。
1963年の「ミルグラム実験」は教師役と生徒役にわけて、問題を間違えると電撃を流すというもの。
これは実はニセ実験で、実際は電流は流れないのですが、生徒役はサクラで痛みを訴え続けます。教師役が拒否すると「続行してください」と言われ続ける。
すると、生徒が苦しむ姿が見えているにも関わらず、450Vのスイッチを入れた人が30%いた、というもの。
一度権威からの指示に従ってしまえば、残酷な行動もとる可能性がある、という心理実験です。
その他にも、囚人の格好をしているだけでなりきってしまう危険性を実験した「スタンフォード監獄実験」などの例も掲載されています。

非人道的な「人体実験」の実例も、並列に掲載されています。
731部隊による細菌兵器実験、ナチスドイツの人体モルモットによる様々な残虐な実験、アーリア人交配計画、カナダの電気ショック洗脳実験、ホルムズバーグ刑務所の倫理観が欠如した薬物実験などなど。
ナチスのメンゲレが双子を結合させるため臓器を共有させてみたり、ゲープハルトが少女達の身体を切り刻んで細菌培養液を注入させて壊死させた、というのは背筋が凍ります。

絶対に必要な治験や医学実験から、狂気の沙汰としか思えないものまで。
しかし全て「人体を用いた実験」であることには変わりありません。
人の身体を人が扱うって、そういうことなんだと、問いかけがずっしりのしかかってきます。

タイトルに「衝撃の」と付くように、どこまでが本当かわからないようなビックリネタも掲載されています。
このあたりを実際に調べて見る、そのきっかけとして興味深い本です。

さて、最初の友人の話によると「目薬をさしてまっすぐ歩いて5000円〜」のような治験もあるそうな。
こ、これは高いのか、安いのか??


『衝撃の人体実験大全』
(たまごまご)