全国農業協同組合中央会の万歳章会長の態度がおかしい。JAは、TPP交渉参加断固阻止で一枚岩になっているはずだったのに、3月1日に安倍首相と会談した万歳会長は、コメや牛肉などを関税撤廃の例外にするよう求める申し入れ書を首相に手渡した。交渉参加そのものを否定する戦略から、早くも条件闘争に切り替えてきたのだ。

 安倍政権発足直後から「官邸とJAは、すでに手打ちを済ませている」という噂が絶えなかった。政府がTPP参加と引き替えに、大規模な農業補助金を出すことですでに合意しているというのだ。WTOのウルグアイラウンドで、農業の自由化を受け入れざるを得なくなったとき、日本政府は、国費2兆6700億円の農業補助金をばらまいた。このときに補助金で作られた施設の多くが朽ち果てているという説もある。
 そのことを踏まえて今回の補正予算をみると、公共事業全体は、当初予算の4兆5000億円から補正後は6兆7500億円と1.5倍に増えている。ところが、農林水産基盤整備は、当初予算の4089億円から補正後の8501億円へと、2.1倍に増えているのだ。

 そもそも安倍政権の公共事業拡大は、防災・減災を実現するための国土強靱化が目的だった。ところが、それが農業補助金のバラマキに変わったら、国土が強くならないばかりか、農業も強くならないのだ。
 ただ、もう取り返しはつかないようだ。あれだけTPP交渉参加反対を叫んで当選してきた多くの自民党議員が、安倍総理の高い支持率におじけづいて黙り込んでいるからだ。

 これで日本の農業壊滅は確実になったと言えるだろう。農水省の推計によれば、コメの国内生産は関税を撤廃すると10分の1に激減する。TPP推進派は、安全でおいしい日本のコメは、強い競争力を持っていると主張する。'93年のコメ不足のときにも、緊急輸入されたタイ米はろくに売れなかった。それと同じことが起きるだろうというのだ。
 しかし、それは大きな間違いだ。当時輸入されたタイ米は長粒種で、日本人が食べているものとそもそも品種が異なっていた。現在では、海外で日本と同じ短粒種の栽培も拡大している。また、仮に家庭が外国産のコメを拒否したとしても、外食や弁当はコストの安い外国産米に切り替えられるだろう。農業生産が3分の1に激減し、日本の農村に耕作放棄地が広がる。その中に補助金で作られた公共施設が建つ。それがTPPのもたらす結末だろう。

 また、TPPは関税撤廃だけの問題ではない。医療や保険など、ヒト、モノ、カネにかかわる幅広い分野の開放が求められる。日本が「グローバルスタンダード」と違うことをしていたら、投資紛争解決国際センターに日本政府が訴えられてしまうのだ。
 結局、TPPの参加により、たとえば、低賃金の外国人労働者が日本に流入し、一般労働者の賃金を低下させる。さらに解雇規制が緩和され、正社員でも平気でクビを切られる社会になるということだ。安倍総理は、「発言する日本」を目指し国益を守ると言うが、それが可能とは思えない。日米構造協議から年次改革要望書の時代を通じて、日本は日米交渉で全敗を続けてきたからだ。勝ち目のない戦争に日本は突入するのだ。