WBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)の試合中継で改めて気がついたことは、メジャーリーガーを中心に、外国人選手が試合中、グラウンドにツバを吐くシーンがなんと多いことか。
 投手は捕手からボールを受け取るとツバを吐き、打者は納得のいかない判定にツバを吐く。塁上の走者は相手野手のフォーメーションを確認しながらツバを吐き、守る野手もそれに応えるようにツバを吐く。もちろん、ベンチの監督もツバを吐いている。
 多少大げさかもしれないが、あながち間違ってはいないだろう。

 「野球選手は、テレビカメラが迫ってきたら、ツバを吐かなければいけない」とは、米ロサンゼルスのラジオ局、KABCで30年間、ラジオ番組のホストを務めているマイケル・ジャクソン氏の名言だ。(あのマイケル・ジャクソンとは別人だ)
 「ジャクソンの命令」と呼ばれているそうだが、もちろんそんなルールが実在しているわけではない。だが、あっても不思議ではないぐらい、メジャーリーガーは試合中、頻繁にグラウンドにツバを吐いている。われわれ日本人が見ると、気持ちのいい光景ではない。

 彼らがツバを吐くのは、ひまわりの種噛み煙草を愛用している選手が多いせいかと思われるが、日米間の教育の違いにも原因があるのではなかろうか。

 プロ野球選手の多くが少年野球からキャリアをスタートさせるが、わが国の少年野球ではまず、グラウンドは神聖な場所と教わる。出入りする際には、脱帽し、グラウンドに一礼するよう、教育を受ける。
 この教えは、中学、高校、大学、社会人野球にも受け継がれる。プロ入りしても、選手はベンチからグラウンドに出る際、ベンチからクラブハウスに引き上げる際、脱帽・一礼している。

 「学生野球の父」と呼ばれている飛田穂洲(1886年12月1日〜1965年1月26日)は、「学生野球の目的は、練習場で自ら難行苦行の修行に臨み、球禅一致の真理を掴むことにある」と説いた。
 その言葉どおり、飛田が率いる当時の早稲田大学野球部は厳しい練習で有名だったが、禅に例えた飛田の野球哲学は、今も脈々と受け継がれている。

 そんな教えを受けたわれわれ日本人にとって、選手がグラウンドにツバを吐くなど、言語道断。学生野球なら指導の対象になるだろうし、プロでもいい印象を持たれないだろう。

 一方メジャーリーガーだが、教育水準が低いかと言えばそうではない。わが国ではグラウンドは神聖な場所と教わったように、メジャーリーグでは、相手チームや審判員などに敬意を払うように教わる。渡米したばかりの日本人メジャーリーガーが戸惑う不文律も、相手チームや審判員などへの敬意のうえに成り立っている。(わが国でもそう教え込まれているが、メジャーリーグほど、厳格に守られていないような気がする)

 つまり、日米で敬意を払う対象が異なっており、だからメジャーリーガーは悪気も無く、グラウンドにツバを吐いているのだ。

 とは言え、やはりわれわれ日本人には、ツバを吐く行為は見ていて気持ちのいい光景ではない。ジャクソンの命令ではないが、メディアはツバを吐こうとする選手がいたら、カメラを切り替えてくれないものか
 投手や打者の場合は、画面にモザイクをかけて・・・いや、怪しい映像になってしまうか。