[トークショー「日本サッカーの進歩と問題点」
サッカージャーナリスト養成講座 主催)より抜粋]
スタジアム
[写真]=足立雅史
“就職先”としてのJリーグは危ないと思われてるんじゃないかな

 では、どうしたらJリーグのクラブにお金が集まるのか。組織自体の改革がなかったら、僕は無理だと思う。例えば今のJリーグのクラブ社長のシステムにも問題がある。親会社からクラブに出向している社長さんが多いのが現実。失礼な言い方だけどこれは誇らしい人事じゃない。大企業の本社から関連会社に異動させられるのは決して出世とは言えないからね。サッカーをほとんど知らない社長さんたちがクラブ経営がうまくないのは当然のこと。例えば選手獲得に3億円以上は払えないとなって、結果、戦力ダウンしてしまう。強くならないチームの試合にはお客さんも集まらない。つまり利益が期待できないよね。

 本当の意味でプロのクラブになるためには、少しずついろんな面を変えていく必要がある。例えばリーグで放映権から何からすべての権利を管轄するという体制ではいけない。各クラブがもっと主導権を握らないと。例えばレアル・マドリーはちょっと前にデイヴィッド・ベッカムを獲得して大儲けをした。これがベッカム関連で得た利益のすべてがいったんスペインのリーグに入ってそこから分配されるような形式だったら、大金を払ってベッカムを取る意味があまりない。そんなシステムだったらレアル・マドリーもベッカムを獲得していたかどうか。でも、世界ではそういう構造になっていないからね。クラブがきちんと利益を得られる仕組みが出来上がっている。そしてその選手が移籍したら莫大な移籍金が発生して儲けられる。まさにビッグビジネスです。

 Jリーグがスタジアムの収容人数を規定している点も、僕はクラブ経営にとっては健全じゃないと思っている。J1は1万5000人以上、J2は1万人以上と決められているけど、どうしてどのクラブも大きなスタジアムを作らなきゃいけないのかな。現実を見てよ。J1のチームでも半分しかファンが入らない試合もあるし、J2に至っては3000人くらしか見にこないクラブがほとんどだ。行政にお金を負担させて、しっかりしたナイター設備を備えた大きな箱を作っても、それをきっちり埋めて、コストを回収した上で、利益を出せなければ意味がない。お客さんが集まらないことが分かっているのに、莫大な費用を掛けて大きな結婚式場を借りる人がいるかな。

 海外に行くと、小さなスタジアムが結構ある。その街の規模に合ったスタジアムだ。でも、日本では小さな街にも大きなスタジアムを作らないといけないルールが定められていて、その規則がクラブ経営を苦しめている。僕は、小さなグラウンドでもいつも満員になって、それなりの運営ができればそれで十分じゃないかなと思う。例えば、セレッソ大阪は約5万人収容の長居スタジアムから約2万人のキンチョウスタジアムにホームを移転したけど、それはすごく賢かったと思う。やっぱりスタジアムに関してはバブルの時と規格を変える必要があるんじゃないかな。

 厳しいかもしれないけど、言うなれば中途半端なプロが少なくない点も日本サッカー界の問題点の一つだ。日本という国はやっぱり学歴社会で、高校、大学を卒業しないで就職するのはなかなか難しい。南米やアフリカとは全く違う。僕は勝手に分析してるんだけど、サッカーに限らず日本のプロスポーツ選手は自営業者の子供が多いんだよね。スポーツを含め海外留学する若者のほとんどが親が自営業者で、子供たちはスポーツに打ち込める。それはなぜかと言うと、親は「最終的に学歴がなくても自分のところで働かせれば良い」と考えているから。でも、普通のサラリーマンは、そうは思えない。留学させてサッカーに打ち込ませて、自分の子がプロにならなかったら大変だっていう現実を分かっている。だってそうでしょう。日本で高校に行かないでサッカーに打ち込んで、プロになれなかった時には就職の可能性が低くなる。

 つまり、Jリーガーたちの多くはプロになる以前にすべてをサッカーに懸けていたわけではないとも言える。だから、結局欲がない。ただエンジョイしてサッカーをやっているんじゃないかと感じる時もあるよ。世界のプロ選手を見ると、やっぱりハングリー精神が大きく影響しているけど、日本の場合はどうかな。どうしても親の経済的なサポートでプロになっている面が大きい。それから、すぐにプロになりたいと思う高校生が少なくなった点も見逃せないね。最近の高校サッカーだと、インターハイや選手権で優勝したチームからはほとんどJリーグに行っていない。多くは大学の道を選択している。親もプレーヤーも「とりあえず大学は出たほうが良い」と思って保険をかけている。つまり高校を出てプロになるのはリスクが高いと感じているんだよ。そういう意味ではハングリーさはやっぱり薄いと言えるし、“就職先”としてのJリーグは危ないと思われてるんじゃないかな。

 
〈続く〉

このコラムは、7月23日にサッカージャーナリスト養成講座が主催したトークショー「日本サッカーの進歩と問題点」(司会:青山知雄[『Jリーグサッカーキング』編集長]/出演:セルジオ越後氏、植田朝日氏)の内容を『サッカーキング』掲載用に再構成したものです。

取材協力: 深谷亮太(サッカージャーナリスト養成講座 受講生)