感動のW杯ももう過去のこと。 Takao Fujita/PHOTO KISHIMOTO

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今年も残すところあとわずかとなった。サッカー界はこれから天皇杯、高校サッカー選手権とイベントが目白押しだけど、ここでいったん今年の日本サッカー界を振り返ってみたい。

■結果に浮かれるばかりでなく過程を見よ
まず、何と言ってもW杯だ。ベスト16という結果に日本中が熱狂し、岡田ジャパンは一躍ヒーローになった。その結果自体はもちろん素晴らしい。しかし、そこに至るまでの過程で、多くの問題点があったことを忘れてはいけない。

もともと南アフリカW杯に臨んだチームは、惨敗に終わったドイツW杯後、その敗因を分析することもなく、というより敗戦のイメージを一刻も早く世間から消し去るかのように、川淵元会長の一言によって突然始まったものだ。帰国会見の場で、確信犯的に「オシム」とポロッとこぼした川淵元会長のやり方は、決して好ましいものではなかった。

やがてオシムが倒れ、川淵元会長の「岡田しかいない」というコメントとともに、岡田ジャパンが誕生する。予算の問題が頭をもたげたか、コーチ陣はそのまま残り、日本中がこれで本当に大丈夫かといぶしかんだものだ。蓋を開けてみれば、お粗末な試合ばかりを繰り返し、W杯最終予選はオーストラリアと勝ち点5差という成績に終わる。いざW杯が近づいても、韓国には惨敗、スイスでの直前合宿でもまったくいいところがなかった。

このスイス合宿で、選手たちだけでミーティングを開いたという話は、今となっては美談として語られている。しかし言い換えればこれは「内紛」だよね。そして迎えた本大会、岡田監督は突如本田圭佑をワントップに据え、まさに闘莉王が「下手は下手なりにやろう」と言ったとおりのサッカーで初戦の勝利をつかみ取った。それまでの3年間をすべて覆すような戦い方だった。

様々な問題が、ベスト16という結果によって、すべてうやむやになった。これは事実だ。あの栄光が継続した強化によるものではない、ということを今一度認識しておくべきだと思う。W杯本大会でサポートメンバーだった香川が現在急激に台頭しているのと、W杯後の本田圭佑がリーグでの得点も少なく失速していることが、何より岡田ジャパンを象徴しているよ。

■白日の下にさらされた協会の分裂
協会内部のゴタゴタが噴出した年でもあった。W杯後、犬飼前会長がクーデター的に政権を追われたのは、衝撃的だった。それだけ、内部が崩壊していたということだろう。

W杯招致の失敗の原因に、そうした協会内部の問題があることも間違いない。W杯招致は国全体をあげて取り組まなければ成就しない巨大なミッションだけど、一枚岩になっていない協会に、そんな力があるわけなかったのだ。

負けるにも負け方というものがある。しかし今回の招致活動では、何にも残らなかった。人々の記憶に残るかどうかも怪しい。南アフリカW杯ベスト16という余熱を、ただ冷ましただけのものだったね。

■東京の開拓なくしてサッカーの発展なし
Jリーグでは、名古屋が初優勝し、東京からJ1チームがいなくなった。名古屋グランパスとはつまり、豊田市の「トヨタ」という企業のチームだ。誤解を恐れずにいえば、そこに地域密着性はない。仮にトヨタがどこかへ引っ越したら、どうなるだろう。

残念ながら、それがJリーグの実情だ。川淵元チェアマンが掲げた地域密着の理念は、それ自体間違っていたわけではなかった。しかし、バブルがはじけて景気が悪化したとき、そこで踏ん張ることができなかった、あるいは我慢することができなかったのだ。第二のフリューゲルスだけは生むまいと、企業に頭を下げた結果とも言える。

地域密着というのは、簡単なことではない。それでも、いつかは完遂させなければいけないことだと思っている。そのためにも、東京の存在は避けて通れない。東京が開拓されない限り、日本サッカーの発展はないのだ。

その方法として、区単位で考えてはどうかと思っている。渋谷ユナイテッド、世田谷FC、FC台東……なんでもいい。そもそも、東京という巨大看板、ブランドを使いたがるから難しいのだ。ヤクルトだって失敗してるし、日ハムも札幌に行って成功した。この大都市の看板を背負えるほど、日本のサッカー文化は発展していない。

町のチーム、区のチームから始まって、やがて東京全体が活性化する、というのが正しき順序だと思う。ロンドンのようにたくさんのチームがある方が、今よりはるかに魅力的だよ。

2010年のサッカー界は、良いことよりも悪いことのほうが多かったように思うけど、W杯ベスト16という熱で、悪いこともなんとなく中和されていた。しかし、その熱もそろそろ冷めてきた。明るい話題を香川一人に頼っているようでは、この先厳しい。来年は勝負の年だね。そのためにも、まずはアジアカップで我々を感動させてほしい。というところで今年の締めとしたい。

皆様、一年間ご愛読ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いします。(了)