坂田大輔×長谷部誠 :明と暗。ふたりの08年

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 同世代で、ユース時代から親交を続けているという坂田大輔(横浜F・マリノス)と長谷部誠(ヴォルフスブルク/ドイツ)。現在は、日本とドイツという異なる環境に身をおいているため、顔を合わせる機会は減ったというが、互いにプレーヤーとしてリスペクトしあう関係に変わりはない。

 2008年、坂田は所属チームでJ2降格の危機に直面した。一方の長谷部は新天地のドイツでレギュラーとして活躍。欧州でポジティブな第一歩を踏み出すことになった。対照的な1年を送った彼らは、2009年をいかに戦おうとしているのか。久々の対面を果たしたふたりを直撃した。

――おふたりは以前から親交があるとうかがってますが、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

坂田大輔(以下・坂田):知り合ったのが高校3年で、U−18のユース代表に招集されたときでしたね。

――お互いの印象は?

坂田:プレーについては、とにかく、力強い。見た目はそんな感じがしないじゃないですか。温厚で爽やかって印象があると思うんですけど、それがプレーではまったく違うというか。人格が変わって、激しい気性の選手って印象ですね。

――ピッチに入ると変わる?

長谷部誠(以下・長谷部):そうですね。そういわれます。試合になると、スイッチが入ってるんだと思います。

――では、試合後は元に戻るのですか?

長谷部:ポーっとしてる感じです(笑)。あまり覚えてないんですよね、自分としては。自覚がないというか。

――長谷部選手からみた、坂田選手とは?

長谷部:第一印象は“怖いな”って感じでした。ただ、話してみると、ぜんぜん違いましたね。おっとりしてるっていったら言い方が悪いかもしれないですけど、見た目よりずっと温和な人だなーと。やさしいですね。

――最初は“怖かった”といわれてますが…。

坂田:どうなんですかね、そんなことないつもりですけどね(笑)。ま、見た目の問題ですかね。

長谷部:後輩とかからみたら、声かけづらいかもしれない。最初だけですけど。プレーは、ほんとにスピードのある選手って印象です。瞬間的に速いというか。長い距離でスピードに乗る選手はけっこういますけど、坂田くんの場合は初速で置いていかれる感じがします。日本人でも、たっちゃん(田中達也/浦和レッズ)と、坂田くんくらいって印象ですね、そういう“速さ”を持ってる選手は。

――何度かスタジアムで坂田選手のプレーを見せてもらったことがありますが、いかにスピードに乗った状態でボールをもらうかといった点は、とても意識してプレーしている印象がありました。

坂田:そこは持ち味だと思っているので、心がけてはいますね。

――08年は、おふたりにとってどんな1年でしたか? まず坂田選手から。

坂田:チームが一時期降格のピンチでしたから、あまり良い年とはいえませんね。

――横浜F・マリノスは01年にも降格の崖っぷちまでいった経験がありましたが。

坂田:そうですね、あのときも経験しているので。今回も“まずいな”という感覚がシーズン当初からありました。チームの雰囲気とか、いろいろと。

――危険なパターンとして、内容に結果が伴わず、だんだん負のスパイラルに落ち込むことがあると思いますが、そういうケースでした?

坂田:そうですね。そういうのもあって、なかには負けるべくして負ける試合もあって。とにかく勝てない。引き分けることもできない。ある程度守れているのに0−1で負けたり、点は取ったけど1−2で負けたり。とにかく歯車がかみ合わないシーズンでした。

――個人的にはどうでしょう?

坂田:チーム状態と一緒でしたね…。まるでダメだったと反省してます。結局、チームが優勝争いしている状態であれば、自分自身のパフォーマンスやチームへの貢献度も自然と高くなっているはずで。そこは比例してますね。

――具体的な反省点というのは?

坂田:チームとして勝ちきれてなかったというのが大きくて、そのなかでボクもゴールを決めきれなかった。そこですね。基本的にディフェンスは良いチームだと思っているので、ボクを含めた攻撃って部分です。

――長谷部選手はどうでしょう? 08年は1月からドイツに新天地を求めたわけですが。

長谷部:違う環境にいって、充実した1年になったと思ってます。サッカーもそうですけど、普段の生活から、日本とは違うことばかりで、勉強になり、刺激になり、得られることが多いです。

――ヴォルフスブルクのトレーニングはかなりハードだと聞いていますが。

長谷部:ハードですね、かなり。3部練(1日3度のトレーニング)もあって。午前、午後の2回で終わらず、夜も体育館のようなトレーニング施設で筋トレ系のメニューやりますし。本当に体操選手がやりそうなメニューとかもあるんですよ、平行棒つかったり。

坂田:え、そんなの、できない人もいるでしょ?

長谷部:そう、最初はみんなできないし、慣れれば出来る人もいるけど、ずっと出来ない人もいる。ま、それはそれで、とにかくやりましょうって感じですね。

――トレーニング以外でも、最初は戸惑うことが多かったのでは?

長谷部:やはり言葉は最初まったく分からなかったですから。レストランに行ってメニュー見ても意味が分からず。チームメイトと食事に行くこともあるんですけど、コミュニケーションが難しかったり。ただ、慣れてくれば、なんとかなりますね。言葉がたいへんなのは、最初から予想はしてましたし。

――チームメイトと食事にいったときは、どんな話をするのですか?

長谷部:まあ、チームの状況とか、まじめな話になってたりしますね。あと、日本のことは興味があるみたいで、いろいろ聞かれますね。

――日本では給料どうだったなんて聞かれません?

長谷部:あ、そういう個人的なのはないですけど、ただJリーグは「お金いいのか?」みたいな話は出ますね。あと、日本の携帯電話とか持ってると、すごく食いついてきます。見せろ、見せろって。パソコンなんかも、日本で発売されたものがすぐにヨーロッパでも売ってるわけではないので、興味もたれます。ソニーとか、パナソニックとか、東芝とか、日本のメーカーは良く知ってたりしますし。

――ブンデスリーガでのプレーについては?

長谷部:試合に出ていることは良かったんですけど、個人的なプレーについてはまったく満足できていないですね。

――もっとやれる余地を感じているということですか?

長谷部:そうですね。とくに攻撃の部分で、ゴールも、アシストもぜんぜん出来ていないので、もっと前に顔を出していきたいですし、そうしなきゃいけないと思ってますね。

――UEFAカップではイタリアのミランとの対戦もありました。

長谷部:UEFAカップは、そういう強豪クラブと対戦できてますし、ドイツを出てのアウェーゲームなんかを戦えているのは、いい経験になってます。ミランとサンシーロで戦ったときは、刺激的でした。カカとロナウジーニョが出てなかったのは残念でしたけど、それ以外はベストメンバーだったので。

――アウェーにもかかわらず、引き分けましたよね? あの試合でグループ首位通過が決まった。

長谷部:ですね。うれしかったです。

坂田:すごいね、知らなかった。

長谷部:うち(ヴォルフスブルク)って、案外強いんすよ、じつは(笑)。日本であまり知られてないかもしれないけど。

――ドイツの上位チームはどうですか?

長谷部:あー、バイエルンとか強いですね。やばいです。対戦したとき、2−0から2−4にされましたからね…、強かった。リベリー(フランス代表)とか、ゼ・ロベルト(元ブラジル代表)がすごい。ふたりでボールを運んでいっちゃいますから。あのふたりが核になってて、トニやポドルスキとか、前の選手が活躍できてる印象でしたね。

――長谷部選手のポジションだと、そのふたりをいかに封じるかがカギになるわけですね?

長谷部:はい。でも、リベリーとはちょうどマッチアップするような形になりましたけど、ぜんぜんボールが取れなかったです。ドリブルでボールを置くところがとてもうまいし、飛び込むとヒョイッとかわされますね。いったんかわされちゃうと、坂田くんみたいにトップスピードに乗るのが早いから、置いていかれてしまう。

――距離を置くしかない?

長谷部:そうなんですよ、ボクも距離を置くしかないと思ってそうしたんですけど、距離をとったらとったで好きにやられてしまう。だから、どうやって抑えようかなって考えてる間に、交代させられました…。

――そうなると、もう複数人で対処するしかないでしょうね。

長谷部:2人とかで抑えるしかないでしょう。