「オレ流」宣言をした日本代表の岡田監督<br>【photo by Kiminori Sawada】

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 この沈滞したムードには正直、驚きを禁じ得ない。

 W杯のアジア3次予選が迫っているというのに。先のバーレーン戦で、不甲斐ない負けを喫した直後だというのに。キリン杯の代表メンバーが発表されても、いっこうに変化は見られない。世の中が活気づく様子はない。

 8月に本番を控えた五輪チームにしても同じことが言える。対戦相手が決まり、目標は定まったというのに、世間はとても静かだ。オーバーエイジを使うのか使わないのか、使うなら誰を使うのかがいっこうに明らかにならないことも輪を掛ける。盛り上がりたくても盛り上がれない現実がある。

 とはいえ、代表チームにしても、五輪チームにしても、関心の低下は今に始まった話ではない。スタンドはしばらく前から埋まっていない。視聴率も低下が叫ばれて久しい。雑誌の販売部数も、一頃に比べて激減している。原因はいろいろ考えられるが、代表チーム、五輪チームそれぞれの「前回」の終わり方、それに伴うメディアの反応に、一番の問題があると僕は考えている。

 不甲斐ない負け方と、それにキチンと向き合うことをしなかった報道のあり方に、ファンが嫌気をさした結果だろう。オシムの代表監督就任で一端、盛り返したかに見えたが、冷え切った氷は完全には解けなかった。岡田ジャパン誕生を機に、再びカチッと氷結した気がする。もちろん、サッカーへの関心が薄れたわけではないと思う。Jリーグはそれなりに盛り上がっている。

 簡単に踊らされなくなったというべきかも知れない。思い起こせば、前回の五輪チーム、すなわち山本ジャパンは、4年前のこの時期、メディアからアテネ五輪のメダル候補に祭り上げられていた。だが、結果はグループリーグ敗退。メダル候補は、いきなり2連敗を喫し、開会式のわずか2日後にして脱落が決定した。

 アテネ五輪に出場した日本選手団の中で、最も期待はずれの成績に終わったクチだが、その不甲斐ない姿は、まったくと言っていいほど追求されなかった。反省も検証もされなかった。他の日本選手団が、金メダルを16個も獲得したその傍らで、メディアは山本ジャパンを、真っ先に忘れるべき対象として扱った。そして、金メダルフィーバーのほとぼりが冷めた頃、さあ次は2006年ドイツW杯だ! と煽った。

 しかし、2006年ドイツW杯でジーコジャパンは惨敗。で、ドイツから帰国するや、成田空港で開かれた記者会見の席上で、川淵サンの口からオシムの名前がポロリとこぼれ出た。当然、メディアはそれに飛びついた。よって、ここでも反省、検証がなされぬまま、次へ進むことになった。

 今、反町ジャパンをメダル候補と呼ぶ人はいない。グループリーグでオランダ、アメリカ、ナイジェリアと戦うことになった抽選の結果を見て、突破は堅いと言い出す人は少数派に限られる。4年前と比較すれば、隔世の思いだ。前回グループリーグを戦ったイタリア、ガーナ、パラグアイと、今回の3チームの顔ぶれとの間に、大きな差があるわけではない。しかし、前回はメダル候補で、今回は沈黙だ。大きな落差が生まれた原因はどこにあるのか。

 世界の実態が見えてきたからに他ならない。メディアがいくら煽っても、疑う力をつけたと言うべきか。進歩した証といっても良いだろう。僕にはそれに伴う現在の沈滞感が、むしろ好ましく見えるほどだ。しかし、ファンの目が肥えるほど、沈滞してしまう世の中には問題ありだ。健全な姿ではない。

 この世界を演出している人は、よく考えた方が良い。岡田ジャパンが不甲斐ない敗戦を喫すれば、的確な方法で騒ぐべきだと思うし、協会は協会で、目の肥えたファンを納得させる手段を講じなければならない。これまでと同じバブルっぽいノリは、もはや通用しないことを知るべきである。

 彼らには、空気を読む力が問われているわけだが、その意味でもバーレーンに敗れるや「オレ流」と言い出した岡田サンは哀れを誘う。KYにもほどがある。日本の空気をここまで知らない人物に、これ以上代表監督は任すことはできない。

 ピッチの上の話以前の問題だと僕は思う。(了)

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