【最新ハイテク講座】一家に1台のスパコンを実現したPS3のCPUパワーの秘密
ソニーが2006年11月11日に発売したPLAYSTATION3(PS3)は、ハイエンドなグラフィックスを楽しめる次世代ゲーム機だ。そんなPS3は「Cellプロセッサー」と呼ばれる高性能な中央演算処理装置(CPU)を搭載していることから、ゲーム以外の用途でも注目を集めている。
PS3に搭載されている「Cellプロセッサー」の性能により、ネットワーク機能を活かしたゲームサーバーはもとよりPS3で構築したスーパーコンピューターを販売しているメーカーもあるほどだ。さらに米空軍の研究所(AFRL)はCellプロセッサーの評価のために300台のPS3まで購入している。
・アメリカ空軍、研究目的でPS3を300台調達へ - GIGAZINE
まさに「一家に1台スーパーコンピューター(スパコン)時代がやってきた」といえそうなPS3のプロセッサーだが、ここで素朴な疑問に突き当たる。
なぜ、スパコンにパソコンではなく、ゲーム機のCPUを使うのか?
この疑問を解決するために、ゲーム機のCPUに秘められた能力に迫ってみよう。
■代表的なゲーム機のCPUとその実力
現在、日本でメジャーな次世代ゲーム機といえば、任天堂のWiiとマイクロソフトのXbox 360、そしてソニーのPS3が御三家といえる。まずは、それぞれのゲーム機に搭載されたCPUを見てみよう。
●ゲーム機に適したCPU - Wii
Wiiは、ふだんゲームで遊ばない層にも受け入れられるようにプロセッサーの処理能力よりも操作性を重視させた点が後述する2機種と大きく異なる。
プロセッサーはIBMのPowerPCをベースにした「BroadWay」だが、グラフィックスの処理能力を補うためにATIのGPU「Hollywood」を内蔵している。ゲームは快適に遊べるが、スパコンの代用には適していない。
●個人向けパソコン並みのCPU - Xbox 360
Xbox 360は、Wiiと同様にPowerPCをベースにしたプロセッサーだが、3コアで動作クロック3.2GHzを内蔵する。同CPUは、並列処理においてIntelのコンシューマー向けCPUで最速のCore 2 Duo E8500(2コア/3.16GHz)を超える性能を持つもが、ソニーの会長 兼 最高経営責任者(CEO)であるハワード・ストリンガー氏によると、PS3の1/2程度の処理速度しかないそうだ。
●スパコンを視野に入れたCPU - PS3
PS3は、CPUに3.2GHzのCellプロセッサーを内蔵する。Cellプロセッサーは、ソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)、IBM、東芝によって開発されたプロセッサーで、ゲーム機だけでなく、次世代テレビやスーパーコンピューターでの使用も視野に入れて開発されている点が、WiiやXbox 360のプロセッサーと大きく異なる。
■Cellプロセッサーの秘密
PS3のCellプロセッサーは、スパコンでの使用も想定されたCPUと説明したが、Xbox 360もマルチコアCPUを内蔵している点では、スパコンに使えてもおかしくないはずだ。両者の違いは、いったいどこにあるのだろうか?
●Xbox 360は対称型
Xbox 360とPS3は、どちらもマルチコアCPUを内蔵しているが、コアの構造が大きく異なる。Xbox 360のCPUは、同じポテンシャルを持つCPUコアを3つまとめたもので、「対称型マルチコア(Symmetric Multi-Core)」と呼ばれる。
対称型は、同じCPUが複数あるのと基本的に同じで、そのCPU向けに開発したプログラムをそれぞれのCPUコアで動作させることができる。実際には効果的なパフォーマンスを発揮させるためにプログラミングに多少の工夫を必要とするが、CPUコアごとに基本プログラムを変える必要がない。
●PS3は非対称型
PS3は、1個の汎用的なプロセッサーコア(PPE)と8個のシンプルなプロセッサーコア(SPE)から構成され、異なる2タイプのCPUをひとつのパッケージにしていることから、「非対称型マルチコア(Asymmetric Multi-Core)」と呼ばれる。
非対称型は、異なるCPUコアで構成されるため、それぞれのCPUコアに適したプログラムを用意する必要がある。プログラミングにおいては、対称型に比べて若干不利とされている。
単純に考えると、対称型は非対称型に比べて扱いやすい訳だが、非対称型がスパコンのCPUとして好まれるのは、なぜだろうか?
●非対称型がスパコンに適している理由
我々の社会を例にわかりやく説明してみよう。仕事(プロジェクト)をタスク、会社をCPU、人間をCPUコアと考えてみよう。
Xboxの対称型CPUは同じスキルの人間が集められた集団、PS3の非対称型はスキルが異なる人間で構成された集団と置き換えることができる。非対称型では、チームリーダー(PPE)がエンジニア(SPE)に効率よく仕事を割り振ることで、対称型を上回る性能を容易に得られるのだ。
もっと端的に言えば、広く浅い知識を持っている人たちよりも、専門の頭脳集団に効率良く仕事を割り振ったほうが、複雑なプロジェクトを素早く処理できる。そんな特質を持ったCPUがPS3のCellプロセッサーなのだ。
●PS3スパコンの処理能力は?
米国のTerra Soft Solutionでは、PS3で構築したスーパーコンピューター・システムの販売をすでに開始している。同社のシステムは、IBMのサーバー1台と複数のPS3(ノード)でクラスタシステムを構築する。PS3の数が多いほど、価格は高いが、処理能力も優れている。
同社のサイトでは、インターネット上では、2つの基本システムが用意されており、ユーザーの好みに合わせてシステム構成をカスタマイズできる。
サーバー1台と8ノードのPS3クラスタシステムが1テラフロップスの演算能力を持ち、価格は約178万5,000円※(1万7,500ドル)。32ノードのシステムは、5テラフロップスで、価格は約430万9,500円※(42,250ドル)。スーパーコンピューターは、1テラフロップスの性能で低価格なシステムでも実売価格700万円程度だ。処理能力を考えると、PS3のスパコンシステムは破格に安いことになる。
※1ドル=102円と計算した場合
PS3に限らず一般にゲーム機というものは、ハードウェア(ゲーム機の本体)が赤字でも、ソフトの売り上げと技術革新によるハードウェアのコストダウンで、最終的に黒字化するビジネスモデルとされている。PS3のスパコンが安く提供できる理由も、ハードウェアを安く調達できる点にあるといえるであろう。
参考
・Wii | Xbox 360 | PLAYSTATION3(PS3) - ウィキペディア
・久夛良木社長がプレイステーション3を語る! - ファミ通.com
・「今後のソニーの再生は王貞治と同じ」--ハワード・ストリンガー会長兼CEO - CNET Japan
・スパコンの内外価格差、性能格差 - CNET Japan
・8 Node PS3 Cluster(英文) - Terra Soft
・Just like being there: Papers from the Fall Processor Forum 2005: Application-customized CPU design(英文) - IBM
・Cell Broadband Engine - 技術資料
■こちらもオススメ!最新ハイテク講座 最新ニュース
・1人203万円の時代も到来?夢ではない「宇宙旅行」の現実
・花粉対策の必需品!風邪予防もできる「ハイテクマスク」の秘密
・チン事件も、チン!で何でも温まる「電子レンジ」の秘密
・GPSって、なぜ位置がわかるのか?
・【最新ハイテク講座】記事バックナンバー
Copyright 2008 livedoor. All rights reserved.
PS3に搭載されている「Cellプロセッサー」の性能により、ネットワーク機能を活かしたゲームサーバーはもとよりPS3で構築したスーパーコンピューターを販売しているメーカーもあるほどだ。さらに米空軍の研究所(AFRL)はCellプロセッサーの評価のために300台のPS3まで購入している。
・アメリカ空軍、研究目的でPS3を300台調達へ - GIGAZINE
なぜ、スパコンにパソコンではなく、ゲーム機のCPUを使うのか?
この疑問を解決するために、ゲーム機のCPUに秘められた能力に迫ってみよう。
■代表的なゲーム機のCPUとその実力
現在、日本でメジャーな次世代ゲーム機といえば、任天堂のWiiとマイクロソフトのXbox 360、そしてソニーのPS3が御三家といえる。まずは、それぞれのゲーム機に搭載されたCPUを見てみよう。
●ゲーム機に適したCPU - Wii
Wiiは、ふだんゲームで遊ばない層にも受け入れられるようにプロセッサーの処理能力よりも操作性を重視させた点が後述する2機種と大きく異なる。
プロセッサーはIBMのPowerPCをベースにした「BroadWay」だが、グラフィックスの処理能力を補うためにATIのGPU「Hollywood」を内蔵している。ゲームは快適に遊べるが、スパコンの代用には適していない。
●個人向けパソコン並みのCPU - Xbox 360
Xbox 360は、Wiiと同様にPowerPCをベースにしたプロセッサーだが、3コアで動作クロック3.2GHzを内蔵する。同CPUは、並列処理においてIntelのコンシューマー向けCPUで最速のCore 2 Duo E8500(2コア/3.16GHz)を超える性能を持つもが、ソニーの会長 兼 最高経営責任者(CEO)であるハワード・ストリンガー氏によると、PS3の1/2程度の処理速度しかないそうだ。
●スパコンを視野に入れたCPU - PS3
PS3は、CPUに3.2GHzのCellプロセッサーを内蔵する。Cellプロセッサーは、ソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)、IBM、東芝によって開発されたプロセッサーで、ゲーム機だけでなく、次世代テレビやスーパーコンピューターでの使用も視野に入れて開発されている点が、WiiやXbox 360のプロセッサーと大きく異なる。
■Cellプロセッサーの秘密
PS3のCellプロセッサーは、スパコンでの使用も想定されたCPUと説明したが、Xbox 360もマルチコアCPUを内蔵している点では、スパコンに使えてもおかしくないはずだ。両者の違いは、いったいどこにあるのだろうか?
●Xbox 360は対称型
Xbox 360とPS3は、どちらもマルチコアCPUを内蔵しているが、コアの構造が大きく異なる。Xbox 360のCPUは、同じポテンシャルを持つCPUコアを3つまとめたもので、「対称型マルチコア(Symmetric Multi-Core)」と呼ばれる。
対称型は、同じCPUが複数あるのと基本的に同じで、そのCPU向けに開発したプログラムをそれぞれのCPUコアで動作させることができる。実際には効果的なパフォーマンスを発揮させるためにプログラミングに多少の工夫を必要とするが、CPUコアごとに基本プログラムを変える必要がない。
●PS3は非対称型
PS3は、1個の汎用的なプロセッサーコア(PPE)と8個のシンプルなプロセッサーコア(SPE)から構成され、異なる2タイプのCPUをひとつのパッケージにしていることから、「非対称型マルチコア(Asymmetric Multi-Core)」と呼ばれる。
非対称型は、異なるCPUコアで構成されるため、それぞれのCPUコアに適したプログラムを用意する必要がある。プログラミングにおいては、対称型に比べて若干不利とされている。
単純に考えると、対称型は非対称型に比べて扱いやすい訳だが、非対称型がスパコンのCPUとして好まれるのは、なぜだろうか?
●非対称型がスパコンに適している理由
我々の社会を例にわかりやく説明してみよう。仕事(プロジェクト)をタスク、会社をCPU、人間をCPUコアと考えてみよう。
Xboxの対称型CPUは同じスキルの人間が集められた集団、PS3の非対称型はスキルが異なる人間で構成された集団と置き換えることができる。非対称型では、チームリーダー(PPE)がエンジニア(SPE)に効率よく仕事を割り振ることで、対称型を上回る性能を容易に得られるのだ。
もっと端的に言えば、広く浅い知識を持っている人たちよりも、専門の頭脳集団に効率良く仕事を割り振ったほうが、複雑なプロジェクトを素早く処理できる。そんな特質を持ったCPUがPS3のCellプロセッサーなのだ。
●PS3スパコンの処理能力は?
米国のTerra Soft Solutionでは、PS3で構築したスーパーコンピューター・システムの販売をすでに開始している。同社のシステムは、IBMのサーバー1台と複数のPS3(ノード)でクラスタシステムを構築する。PS3の数が多いほど、価格は高いが、処理能力も優れている。
同社のサイトでは、インターネット上では、2つの基本システムが用意されており、ユーザーの好みに合わせてシステム構成をカスタマイズできる。
サーバー1台と8ノードのPS3クラスタシステムが1テラフロップスの演算能力を持ち、価格は約178万5,000円※(1万7,500ドル)。32ノードのシステムは、5テラフロップスで、価格は約430万9,500円※(42,250ドル)。スーパーコンピューターは、1テラフロップスの性能で低価格なシステムでも実売価格700万円程度だ。処理能力を考えると、PS3のスパコンシステムは破格に安いことになる。
※1ドル=102円と計算した場合
PS3に限らず一般にゲーム機というものは、ハードウェア(ゲーム機の本体)が赤字でも、ソフトの売り上げと技術革新によるハードウェアのコストダウンで、最終的に黒字化するビジネスモデルとされている。PS3のスパコンが安く提供できる理由も、ハードウェアを安く調達できる点にあるといえるであろう。
参考
・Wii | Xbox 360 | PLAYSTATION3(PS3) - ウィキペディア
・久夛良木社長がプレイステーション3を語る! - ファミ通.com
・「今後のソニーの再生は王貞治と同じ」--ハワード・ストリンガー会長兼CEO - CNET Japan
・スパコンの内外価格差、性能格差 - CNET Japan
・8 Node PS3 Cluster(英文) - Terra Soft
・Just like being there: Papers from the Fall Processor Forum 2005: Application-customized CPU design(英文) - IBM
・Cell Broadband Engine - 技術資料
■こちらもオススメ!最新ハイテク講座 最新ニュース
・1人203万円の時代も到来?夢ではない「宇宙旅行」の現実
・花粉対策の必需品!風邪予防もできる「ハイテクマスク」の秘密
・チン事件も、チン!で何でも温まる「電子レンジ」の秘密
・GPSって、なぜ位置がわかるのか?
・【最新ハイテク講座】記事バックナンバー
Copyright 2008 livedoor. All rights reserved.