韓国艦艇によりレーダーが照射されたと見られる問題について、はからずもその当事者となってしまった、P-1哨戒機を擁する厚木基地第3航空隊。そもそもどのようなところなのか、司令に話を聞きました。

掲げるは「精強」! 海自第3航空隊

「潜水艦○○撃沈」

 一歩、建物内部に入ったそこには、おびただしい数の「潜水艦撃沈戦果(演習による)」が掲げられていました(○○は実在する自衛隊の潜水艦名)。ここは2018年12月に発生した、韓国海軍駆逐艦が海自P-1哨戒機に対し火器管制レーダーを照射したと見られる件において、まさにその当事者となったP-1哨戒機を運用する、海上自衛隊厚木基地(神奈川県)第4航空群第3航空隊。12月上旬、筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は偶然にも、第3航空隊を取材していました。


海上自衛隊厚木基地 第3航空隊の藤澤司令(写真中)と隊員たち。背後はP-1哨戒機(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。

 2019年1月現在、海上自衛隊は、長時間のパトロールに適した能力を持つ新鋭哨戒機P-1の配備を進めており、第3航空隊は最初にP-1が配備された部隊でした。そして現在のところ唯一の、P-1実働部隊でもあります。つまり、海上自衛隊のすべてのP-1はここ、厚木基地に集中配備されています(研究開発を任務とする第51航空隊配備機も含む)。

 その第3航空隊の指揮官である藤澤 豊1等海佐に、第3航空隊の任務と司令の責任について聞きました。

「周囲を海に囲まれた日本において、周辺海域を監視する哨戒機は欠かせません。3空(第3航空隊)は洋上や海中(潜水艦)の警戒監視任務や、災害派遣への対応にあたっています。旧来機であるP-3CからP-1になったことで、役割そのものに大きな変更点はありませんが、センサーなどの性能が良くなり、与えられる任務を実施する能力が向上していることは間違いありません。そしてP-1が配備されたのは3空が最初であり、ここでやっている様々なノウハウは、良いものも悪いものもしっかり蓄積した上で今後に繋がって行くと思っていますので、そういう意味では(第3航空隊独自の)責務も当然あります。」(藤澤司令)

 日々哨戒任務にあたる第3航空隊では「精強即応」というモットーをひとつの指針としているそうです。また正面玄関には、「精強」という言葉が掲げられていました。「昔から海上自衛隊には『海上幕僚長指針』と呼ばれる方針がありまして、その第1項目と第2項目が『精強・即応』なのです。私が入隊する以前から上位指揮官の指導方針として示され続けています」と、藤澤司令は説明します。

海外でも「精強即応」、2016年ニュージーランドでの地震対応

 引き続き「精強即応」について、藤澤司令は「海上自衛隊においては、航空隊司令だけではなく、部隊を指揮する上で、どの立ち位置においても大きな目標・方針となっています」と話します。確かに、海上自衛隊の公式広報ビデオにも見られる言葉です。

「我々は航空部隊ですから『即応』なのは当然のこととして、『精強』は、ほかの航空隊などにおいても旗印にしていると思いますし、『精強即応』から離れた指揮官は見たことがありません」(藤澤司令)

 藤澤司令はさらに「非常に味があり、高みにある目標だと言えます。海上自衛隊の哲学となっています」と続けました。


「航空隊は特に『即応』なのは当然の努めです。他部隊においても『精強』の精神基盤はゆるぎないものとなっています」と藤澤司令(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。

「精強即応」が発揮された例のひとつとして、2016年11月13日、ニュージーランドにて発生した大規模地震での実績があります。

「ニュージーランド海軍主催の国際観艦式および多国間共同訓練へ参加するため、3空からP-1を2機派遣していましたが、不幸にして地震が起きてしまい、ニュージーランド政府の協力要請を受けました。沿岸部含めた被害状況偵察にあたってほしいというオーダーで、(式や訓練へ参加するという)任務を変更しそれに対応しました。やはり何かあった時、オーダーに対して『いや、できません』とは絶対に言えませんから、つねに与えられた任務を完遂すべく、日頃から準備と訓練をしておくこと、それが『精強即応』において重要です。また、そのような任務を実施できる搭乗員を、継続して育て上げていくことが、司令に与えられた責任でもあります」(藤澤司令)

 第3航空隊は、200名以上からなる隊員によって構成されます。元々は機体の日常的な整備や運用を担当する「列線整備隊」も所属していましたが、より専門的な整備を行う第4整備補給隊へ移され統合されたため、藤澤司令が指揮する隊員はほぼ全員がP-1の搭乗員となっています。

「シーマンシップ」と「エアマンシップ」

 藤澤司令は「若い方々にはぜひ航空隊を目指して欲しい」と言います。

「正直に申し上げますと、私たち海上自衛隊の航空部隊は決してゆるやかで優しい職場ではなく、当然厳しい面もあります。また哨戒機は皆様の目に触れない遠いところで活動しているので、陸上自衛隊など災害派遣の現場へ直接出る部隊とは違って、『ありがとうございます』と感謝の言葉をいただいたりする機会があまり無く、若干の寂しさを感じる隊員がいるのも事実です。しかし、だからこそ『空を飛ぶという喜び』と同時に『自分の心のなかに誇りをもち、やるべきことをやる美学』というものを強く感じられる職場だと思います。もちろん警察にしても消防にしても、国や人のために役に立つ仕事に優劣はありませんが、私たちも崇高な仕事だという自負がありますので、ぜひ若い皆さんには私たち海上自衛隊航空部隊を目指していただき、一緒に働きたいと思っています」(藤澤司令)

「もっとも私はあと4年で定年ですが(笑)」と、藤澤司令はユーモアセンスを大切にする海上自衛官らしいひと言でインタビューを締めくくりました。


第3航空隊司令の藤澤 豊1等海佐。防衛大学校卒業後、P-3Cの操縦士となり、各地の航空隊や海上幕僚監部での勤務を経て現在にいたる。厚木への赴任は4度目(関 賢太郎撮影)。

 船乗りとしての精神を表す「シーマンシップ」、飛行機乗りとしての精神を意味する「エアマンシップ」という言葉があります。このふたつを兼ね備えた藤澤司令率いる第3航空隊は、航空無線において使用される独自のコールサインとして「シー・イーグル(海鷲)」という名を持っています。まさに海の安全を守る哨戒機に相応しい名であると言えるのではないでしょうか。

 くしくも国際的な問題の渦中の部隊となり、その活動が国民に広く知られるようになった第3航空隊とP-1哨戒機。彼ら彼女ら2018年最後の飛行は12月31日、そして2019年最初の飛行は1月1日でした。隊員たちは交代しながら年末年始休暇を取得してはいますが、普段、我々の目が届かない洋上の「最前線」で活躍する「精強即応」の「シー・イーグル」は、今日も人知れずその任務に就いています。

【写真】仕事のあとはひとっ風呂! 丸洗いされるP-1


任務から帰還し機体を洗われる厚木基地のP-1哨戒機。海上を飛行することの多い哨戒機は、直接海水の飛沫を被り塩害を受けやすいため(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。