JRおおさか東線、全通遅れたワケ 着工20年、用地買収の難航だけじゃなかった
JRおおさか東線が、ついに全線開業を迎えます。この路線が着工されたのは1999年。それから全通まで約20年を要しましたが、開業にこぎつけるまで様々な課題がありました。
着工から開業まで20年
ついに完成の日を迎えることになりました。2019年3月16日(土)のJRダイヤ改正にあわせ、JR西日本のおおさか東線が全線開業します。
梅田貨物線(右奥)に合流する、おおさか東線(手前)の線路(2018年11月、草町義和撮影)。
おおさか東線は、新大阪駅から学研都市線(片町線)の鴫野(しぎの)、放出(はなてん)両駅を経て大和路線(関西本線)の久宝寺駅(大阪府八尾市)までを結ぶ、全長20.3kmの鉄道路線です。東海道・山陽新幹線のターミナルと大阪東部の郊外エリアが直結するとともに、奈良方面から新大阪駅へのアクセスも改善されます。
ルートの大半は、戦前に開業した貨物線(城東貨物線)を改良して旅客列車を走らせるもの。ただし南吹田駅(大阪府吹田市)とその前後の区間は、新たに線路が整備されました。なお、南側の放出〜久宝寺間(南区間)は2008(平成20)年3月に先行開業しています。
厳密には新線ではなく、すでにある線路を活用するプロジェクトですから、時間をかけずに整備できそうに思えます。ところが、工事が始まったのは1999(平成11)年。全線開業まで約20年を要したことになります。
着工時には2006(平成18)年春の開業を目指していましたが、工事は順調には進みませんでした。既設の貨物線を活用するとはいえ、それでも駅の新設などで新たに建設用地を確保する必要があり、用地買収の交渉に時間がかかったのです。
用地買収の難航で鉄道や道路、空港などのインフラ整備が予定より遅れることは、それほど珍しいことではありません。しかし、おおさか東線は用地だけでなく、北側の新大阪〜放出間(北区間)に「開かずの踏切」も抱えていました。
線路を増やさず新大阪へ
1999(平成11)年時点の計画では、新大阪駅から東海道本線の東側に隣接して複線の線路を新設。京都方面へ約1.6km進んだところで東海道本線の線路から離れ、東側へカーブして城東貨物線に合流するはずでした。
東淀川駅の近くにあった「開かずの踏切」が建設の障壁になった(2017年2月、草町義和撮影)。
ただ、おおさか東線に並行する東海道本線は、旅客列車が走る東側の線路と、貨物列車や関西空港アクセス特急「はるか」が走る西側の線路(梅田貨物線)などで構成されていて、合計8線あります。しかも、途中の東淀川駅(大阪市淀川区)付近には踏切があり、列車本数の多さから「西日本でも最悪級の『開かずの踏切』」(2004年3月30日付け朝日新聞大阪朝刊)といわれていました。
ここにおおさか東線(複線)が加われば、線路は10線に。踏切の遮断時間はもちろんのこと、自動車や歩行者が線路を横断する時間も長くなります。国土交通省は「歩行者らの安全上、問題」(2005年1月30日付け読売新聞大阪朝刊)とし、計画の見直しを関係機関に求めたのです。
このため、北区間は2004(平成16)年の時点でも実質的には工事が行われておらず、全線一括の開業が断念されることに。同年8月には工事が先に進んでいた南区間のみ、約2年遅れの2008(平成20年)春に開業することが決まったのです。
計画の変更で新たな可能性が
北区間の踏切問題にめどがついたのは、当初の開業予定時期を間近に控えた2005(平成17)年1月のことです。
北区間の南吹田駅(2018年11月、草町義和撮影)。
先に述べた通り、東海道本線は東側に旅客列車の線路、西側には梅田貨物線の線路が敷かれていました。そこで、新大阪駅から京都方面へ約1.6kmの地点までは西側の梅田貨物線を走行。そこからおおさか東線の線路を分岐させることが考えられました。これなら列車本数は増えるものの、線路が増えることはありません。踏切の横断距離も現状を維持できます。
こうして北区間の計画が変更され、開業予定時期は6年遅れの2012(平成24)年春に設定されました。しかし計画の変更で、新大阪駅は東海道本線も含めてホームを並べ替えるという大掛かりな工事が必要に。南区間と同様に一部の区間で用地買収が難航したこともあり、2009(平成21)年には再び開業予定時期を変更。さらに7年遅れて2019年春開業の予定となったのです。
このように、おおさか東線は用地買収の難航に加えて「開かずの踏切」も障壁になり、開業が大幅に遅れることになったのです。しかも、「開かずの踏切」は歩道橋や迂回(うかい)道路の整備に伴い、2018年11月に廃止されています。
ただ、おおさか東線の列車が走ることになった梅田貨物線は、新大阪駅から大阪駅の北側を通って大阪環状線の西九条駅に抜けるルート。大阪駅の北側に北梅田駅(仮称)を新設する工事(2023年春開業予定)も進んでいますから、おおさか東線の列車を北梅田駅まで乗り入れさせて、利便性を高めることも不可能ではありません。実際に北梅田駅に乗り入れるかどうかは未定ですが、計画の変更でおおさか東線に新たな可能性が生まれたといえるかもしれません。
【地図】おおさか東線のルート どう変わった?
おおさか東線の新大阪〜南吹田間。東海道本線の東側を通る計画(点線)だったが、梅田貨物線に乗り入れるルートに変わった(国土地理院の地図を加工)。