スマホ決済システムで市場を席巻するには出遅れたようにみえるメガバンクは、これからどのように動くのか(写真:DjelicS/iStock)

メガバンクは独自のスマホ決済の仕組みを構築中だが、世の中ではすでに多様なスマホ決済が使われており、出遅れ感は否めない。そんななか、三菱UFJ銀行はスマホ決済を支える裏方のプラットフォームビジネスに進出する。
銀行vs.ネット企業の闘いはどう展開するのか。『決定版 銀行デジタル革命』でキャッシュレス化の進展と銀行の苦境を描いた著者が解説する。

スマホ決済で圧倒的に出遅れ

スマホ決済にはさまざまなアプリが登場し、熾烈な競争が展開されている。メガバンクもその競争に参入する方針だが、いまだに実験段階にあり、出遅れ感はぬぐえない。


そんななか、三菱UFJ銀行は、そのスマホ決済を支える、いわば裏方のプラットフォーム(基盤部分)で存在感を高める戦略に打って出た。システム開発会社TISと組んで、暗号情報を一括で管理するとともに、暗号化されたクレジットカードなどの情報を小売業者に代わってカード会社に送る仕組みを開発したという。

買い物の際にスマホを店の端末にかざすなどして支払うと、そのあとどうなるか。代金は最終的にはクレジットカードで決済されたり、銀行口座から直接引き落とされたりする。

その際、クレジットカード番号や銀行口座番号などの情報が外部に漏洩するのを防ぐため、それらを暗号化する必要がある。三菱UFJ銀行とTISは今回、画期的な暗号化技術を開発したというわけではない。ポイントは、暗号情報のやり取りの代行業務をするという点だ。

お客が店でモノを買った代金をスマホで決済し、それがクレジットカード決済とひも付いている場合には、クレジットカード番号などの情報は「トークン」と呼ばれる暗号に変換されて、店舗の読み取り機などに残らないようにする、というのが通常のやり方だ。

トークンはカード会社に送られるが、その様式は受け取るカード会社ごとに異なっている。スマホ決済を導入している小売業者は、個々のカード会社と契約して、暗号を送受するシステムを別々に作る必要がある。

そうした手続きは小売業者にとって非常にややこしくお金もかかるため、多くのクレジットカードがスマホ決済に対応していないという状態になり、結局、スマホ決済の利用が制限されてしまうという問題が生じている。

クレジットカードの暗号情報を送るシステムを備えていないから、スマホ決済ができない――。そこで三菱UFJ銀行とTISが考えたのが、小売業者とカード会社との間に立って暗号情報を一括で管理するとともに、各カード会社へトークンを送付するシステムの構築と送付代行サービスだ。

これは一種のプラットフォームビジネスであり、業界用語では、トークンリクエスタ代行サービスと呼ばれている。このサービスを大手銀行が手掛けるのは初めてだ。三菱UFJ銀行とTISが始めるこのサービスはスマホ決済の拡大、ひいてはキャッシュレス化の進展に一定程度貢献するとみてよいだろう。

三菱UFJ銀行は、2019年春にも独自のスマホ決済サービス、「MUFGウォレット」をスタートさせる予定だが、そこにこの仕組みが搭載され、多くのクレジットカードや複数ブランドのデビットカードを利用した決済、QRコード決済などが一挙に可能となる。先行するオリガミ、楽天、LINEなどネット企業のスマホ決済サービスに負けない利便性を大きくPRするだろう。

提携銀行がない三菱UFJの戦略

一方、三菱UFJ銀行は地銀などにもこの代行サービスを提供することを狙っている。

決済手段はネットワーク効果が働きやすく、利用者の数が増えるほど、利便性が高まり、競合するサービスを潰して市場を席巻しやすい。

スマホ決済ではみずほ銀行がゆうちょ銀行や複数の地銀と提携した形で、「Jコイン」というサービスの創設準備を進めている。それに対して、技術力で先行しているMUFGコインは、提携銀行がないことが弱点だ。

三菱UFJ銀行はこのプラットフォームビジネスによって「MUFGウォレット」を利用する提携銀行を開拓し、地銀を囲い込んで、みずほ銀行などとの競争で優位に立ちたいと考えているのかもしれない。

IT業界のスピードは速い。トークンリクエスタ代行サービスも、すぐに厳しい競争にさらされることは十分考えられる。

最新のITを使って、地銀に対して金融関連の代行サービスを提供していくビジネスモデルは、SBIホールディングスなどによってすでに始められている。

ヒト・モノ・カネに限界のある地銀などが、個々に先端技術に対応していくのは難しい。SBIはそれを束ね、ITを駆使した共通の金融サービスのプラットフォ―ムを提供していく戦略を描いている。

SBIは地銀64行などに対して、24時間対応可能な送金システムを構築することを目指す。そこまで来たら、スマホ決済のプラットフォ―ムを提供するビジネスに進出してくるのも、時間の問題かもしれない。三菱UFJ銀行が、この分野でリードを維持するのは簡単ではないだろう。

コストが下がれば、競争が激化するだけ

三菱UFJ銀行がスマホ決済を運営するネット企業に対して新サービスを広く提供していく場合には、それを採用したネット企業には相応のコスト削減効果が生じる。

彼らはそれを原資としてお客へのポイント還元や小売店側の手数料の無料化戦略を進めるかもしれない。

一方、銀行によるスマホ決済システムは、簡単にコストを下げられない事情を抱えている。既存の決済手数料とのバランスに縛られていること、顧客のデータ活用から収益を上げるビジネスが育っていないことなどのためだ。メガバンクとネット企業との闘いは底なし沼の様相を呈している。