やみくもにだけは始めないほうがいいです(写真:freeangle / PIXTA)

「40歳を過ぎてからでも、転職はできますか?」

この質問に単純に回答すると以下になります。

「職業を選ばなければ、また、年収や勤務地などの労働条件にこだわらなければ、すぐにでも転職できます」

転職35歳限界説」は過去の話となりつつあるが…

厚生労働省が毎月発表している「有効求人倍率」は、2018年1月時点で1倍以上が続いているだけでなく、1974年以来、実に43年ぶりの高水準である1.5倍以上になっているので、数字のうえではこだわりさえ捨てれば、仕事に就ける可能性は極めて高くなっています。

「人手不足」は、今やあらゆる企業において死活問題になっています。AIやデータサイエンスが活況なIT業界はもちろん、宅配業界ではドライバー不足が大きな問題になっていますし、建設業界、建築業界も、東日本大震災の復興や東京オリンピック・パラリンピックの会場やホテルの建設など、仕事が急増したため人材がなかなか確保できない状況が続いています。医療や介護の現場、さらには保育の現場などでも深刻な人手不足が叫ばれています。

拙著『40歳からの「転職格差」 まだ間に合う人、もう手遅れな人』でも詳しく解説していますが、職を選ばなければ、年収や勤務地などの労働条件にこだわらなければ、40歳を過ぎていても現在の日本で転職することは十分に可能です。実際、年齢にこだわらない求人数は確実に増えていますし、こうした求人に応募して転職するミドルも間違いなく増加しています。かつての「転職35歳限界説」は過去の話となりつつあります。

ただ、現実には、職業や給料、勤務地にこだわりなく仕事を探す人はほとんどいないため、満足度が高い転職を実現するには、一人ひとりまったく異なる難易度になってしまいます。特に40歳を過ぎると、受け入れてくれる求人企業は激減するので、「こだわり条件の数」や「こだわり水準」によっては、自分が求めているレベルの求人がほとんどない、結果として転職活動が進まないというケースも激増することになります。

こうした場合、当初の希望とはまったく異なる業界・職種、雇用形態を受け入れざるをえなくなる場合も出てきます。ある事例では、「年収900万円が時給900円になった」という話も聞きますが、こうした現実は日々当たり前のように起こっています。

同じ大企業からの転職で明暗分かれた2人…

ある2人の転職事例を紹介しましょう。1人目は、大手家電メーカーの管理部門で企画系の仕事をしていたAさん(47歳)。もう1人は、まったく同じ会社・同じ部門で仕事をしていた、Aさんより10歳年上のBさん(57歳)です。

Aさんは、転職の際、転職マーケットの事前調査をまったくやらずに転職活動を行いました。大手家電メーカー時代と同等の条件にこだわり、エリアは東京の山手線の内側、業界は同じ家電メーカー、役職も部長以上、年収は1200万円以上といった希望でした。

そんなAさんの希望を満額で満たす求人はほとんどなく、エージェントからも紹介案件はありませんでした。しょうがなく、Aさんは自分で求人サイトでも探しましたが、やはり条件に合う求人はありません。

何度か、給料の表記のない求人に応募しましたが、面接で給料を聞くと、希望の半分の600万円などと言われ、自ら辞退したそうです。半年経って、多少条件を緩和しましたが、それでも希望の求人はなく、1年経っても転職は決まりませんでした。

転職活動をしているといっても、条件に合う求人がないのですからやることがなく、親族の会社の手伝いを始めました。社員ではなく、あくまでも手伝いです。

部長職という役職や、年収1000万円以上という条件は譲れず、状況はより厳しくなっています。47歳という年齢で、ブランクが1年以上になると、書類選考段階で「Aさんには何か問題があるのでは?」という先入観を持つ企業も増えてしまうためです。

Aさんは転職活動を始めたころに自ら辞退した求人について、「あれを受ければよかったな」と、ちょっと後悔しているようです。しかし、もうそのときに戻ることはできません。

一方のBさんは、Aさんより役職は上でしたが、年齢が57歳ということもあり、最初から転職活動は厳しいものになると覚悟していました。そのため、ある程度、事前調査をやってから転職活動を行いました。転職の際のエリア、業界、職種、年収にもこだわりはなく、転職活動を始めたときから、いろいろな業界の企業の面接を受けていました。

大手企業にいたにもかかわらず、企業規模にもこだわりはなく、職種も、営業系の部長のポジションや、それより下のマネジャークラスの求人であっても話を聞きに行きました。転職マーケットの調査・分析だけでなく、並行して自己分析も行っており、自分の強みは、どんな商売であっても、状況を正確に分析して、変化の材料を集めて、そこに戦略の勝ち筋を見つけていくことだと言っていました。そして、「できれば、それがやりたい」という希望を熱く話していました。さらに、「エクセルやパワーポイントも自由に使えるので、部下がいなくてもいい」とまで言っていました。

転職活動を始めてから8カ月後、Bさんの転職先が決まりました。行き先は中堅住宅メーカーで、年収は前職の3分の2、1500万円から1000万円ぐらいに下がりました。企業規模はだいぶ小さくなりましたが、それでもれっきとした上場企業です。

職種は、経営の企画系と同じですが、業界は家電から住宅とまったくの畑違いへ。商慣習も違えば、風土も違うところへの転職となりましたが、中堅住宅メーカーの会長からとても気に入られ、会長直轄の未来戦略を描く経営企画室長として三顧の礼で迎えられました。相思相愛で入社されたBさんは、現在もその企業で活躍されています。

ミドル転職に失敗する人に共通するポイント

同じ大手家電メーカーからの転職でも、これだけの「転職格差」があります。スタート地点はほぼ同じだったにもかかわらず、Aさんは1年間転職活動を行っても転職先が決まらず、Bさんは8カ月で自分が活躍できる企業、職場を見つけることができました。

47歳と57歳ですから、一見すると47歳のAさんのほうが年齢的には転職に有利だと思われるかもしれませんが、結果は逆でした。Aさんの転職がうまくいかなかったのは、率直に言って、条件を細かくたくさんつけたからです。

しかも、その条件が大企業勤務時代と同じ。求職者の多くは、前職と同じ業界への転職を希望します。「〇〇業界で何十年と仕事をしてきたのだから、自分の能力を生かせるのは〇〇業界しかない」。こう考えてしまうのです。そして、職種も同じです。「△△職を長く経験して多少なりともスペシャリティを磨いてきた。△△職の仕事なら求職もあるだろうし、自分も活躍できるはずだ」。

自分の強みは、「同業界の同職種にある」と考えているため、転職の際も同業界の同職種を希望する人が多いのです。「自分がこれまで積み上げてきたものを捨てたくない」。こうした心理も間違いなくあるでしょう。Aさんは、「家電以外は考えられません」と言っていました。自分が積み上げてきた、せっかくのキャリアを今さら捨てられるか、という気持ちになるのもよく理解できますが、そこにワナがひそんでいるのです。

このワナにはまらないためにも、事前の転職マーケットの調査が不可欠なのです。Bさんは、事前に転職マーケットをある程度調べたことで、現在と同じ年収をもらうことはほぼ無理だろうとわかっていました。3分の2、下手をしたら半分になることも覚悟していたかもしれません。こうした転職マーケットの情報や知識を早期に学んでいたからこそ、早い時期から業界にも、職種にも、企業規模にも、こだわらずに話を聞きに行ったり、面談に行ったりできたのだと思います。

表面的な条件にこだわりすぎるな

では、Bさんにはこだわりは1つもなかったのでしょうか。そうではありません。きちんと、こだわるべきポイントにはこだわって、転職活動を行っていました。それが、「自分が必要とされる場所はどこか」「自分が活躍できる場所はどこか」といったことです。


Bさんは、エリアや業界、職種、役職、年収といった表面的なレイヤーでのこだわりは捨て、1つ上のレイヤーと言えるかもしれませんが、別のもう少し抽象的なレイヤーでこだわったのです。表層的な条件にこだわるのか、仕事の中身や自分のやりたいことにこだわるのか、と言い換えてもいいかもしれません。

転職がうまくいかない人は、「自宅から1時間以内」というエリア条件や、「年収は最低でも800万円以上」という収入条件、「役職は課長以上」というポジション条件などに、「今、このタイミングでこの条件が満たされないと対象外」というくらい、厳格にこだわる傾向があります。

せっかく転職の決意をして新天地を探すのですから、こだわりをもったり希望条件を掲げたりするのは当然のことです。しかし、あまりにもさまざまな条件にこだわり続けることで、本来生き生きと活躍できたであろう会社・職場に転職する機会を逃してしまうリスクも多々あります。どういった点にこだわり、どういった点についてはこだわりなく転職活動を行うべきなのか――その判断が「ミドル転職」では大切になるでしょう。