アメリカ国防総省は2017年1月9日、マイクロドローンの群れによる飛行実験が成功したと発表しました。将来的には爆弾を搭載し、ターゲットに集団で一斉に襲い掛かるといった運用も考えられ、航空機による戦闘が一変するかもしれません。

「ファンネル」実現へ?

 アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズに登場した、「ファンネル」という武器があります。「ファンネル」は、劇中の戦闘用ロボット「モビルスーツ」1機につき数個から数十個が搭載される、いわば攻撃型ドローンであり、パイロットの思念に反応して半自律的に飛行、敵の全方位からビームによる攻撃を仕掛けるという強力な武器でした。

 その「ファンネル」が、実現に近づいたかもしれません。アメリカ国防総省は2017年1月9日(月)、前年10月にF/A-18「スーパーホーネット」へ搭載した103機からなるマイクロドローン群「ペルディクス(Perdix)」の、投射・飛行テストを成功裏に実施したと発表しました。

群れ制御の実証試験に成功したマイクロドローン「ペルディクス」。今回は103機だったが将来的には1000機規模を想定する(写真出典:アメリカ国防総省)。

「ペルディクス」は重さ290g、翼幅30cm、20分の航続時間を持ち、航空機から投下したあとはAIによって完全に自律します。前述のテストでは、さながら小鳥や虫の「群集(スウォーム)」のように、全体でひとつの固体として振る舞う「集団的意思決定」、集団を維持する「適応編隊飛行」、1度崩れた群れを回復する「自己治癒」などの、高度な「群れ飛行制御技術」を実証しました。

 このマイクロドローン群「ペルディクス」は将来、「ファンネル」を実現する上での第一歩目となるでしょう。「ファンネル」のようにビーム攻撃は難しいかもしれませんが、それぞれ数gから数百gの小型爆弾を積んで破壊目標へ一斉に突入する自爆型ドローンなら、技術的にはほぼ完成されつつあると言えます。

その戦術は「数の暴力」?

 自爆型ドローンによる攻撃は近年、非常に大きな脅威となりつつあり、実際ISIS(イスラム国)のような組織ではもはや当たり前のように実施しています。しかし厳重に防御された標的となると、1機や2機の自爆型ドローンでは撃ち落とされるか捕獲されてしまう可能性が高く、またこれに対処する技術も年々向上しています。

 しかしながら「ペルディクス」のようなマイクロドローンに小型爆弾を搭載し、103機が、あるいは1000機が同時に襲ってきた場合はどうでしょう。この「数の暴力」に対処するのは、困難を極めることになります。

 そのうえマイクロドローンの群れは、ミサイルや誘導爆弾のような高価な武器に比べて遥かに安価です。

指定した空域に対して無数の群れで飛行する「ペルディクス」の制御ディスプレイ(写真出典:アメリカ国防総省)。

 こうした無数のドローンによる攻撃を「スウォーム」と呼び、ある意味では「ファンネル」よりもはるかに恐ろしい悪夢のような話に思えるかもしれません。であるからこそ近年、各国でその可能性が注目されており、「ペルディクス」の登場は、こうしたなかにあっての必然ともいえる結果なのです。

ドローンの「群れ」は空戦の姿を一変させるか

「スウォーム」は、将来の戦闘機対戦闘機の空中戦戦術においても、かなり有望視されている要素です。たとえば、大型の「無人戦闘機(無人戦闘航空システム)」の群れで有人戦闘機を圧倒する、という案もあります。

有人戦闘機F-22に付き従う「ロボットウイングマン(僚機)」の想像図。仮に撃墜されてもパイロットが危険にさらされることが無いメリットは大きい(画像出典:アメリカ空軍)。

 無人戦闘機による空中戦といえば、人間が搭乗しないことにより「高いGをかけ放題」というイメージを持つかもしれません。もちろんそうした利点もありますが、それよりも機動性や搭載センサーなどをある程度、割り切って安価にした「ミサイルキャリアー」に徹し、有人戦闘機の攻撃コマンドやデータリンクによる情報共有を受けて、前方に出て大量のミサイルを撃ち込む「ロボットウイングマン(僚機)」として使用する構想のほうが、最も早期に実用可能な無人戦闘機のカタチとして注目されています。

 こうしたドローンが実現する将来の航空戦の姿は、SFの世界の話かと驚くかもしれません。しかし我々の世界ではすでに「空飛ぶ機械による戦争」「音の壁さえ容易に突破する超音速ジェット戦闘機」「数百km先の標的を攻撃可能な、レーダーと誘導兵器」といった、かつてSFで描かれた兵器だったものが実用化されています。であるならば「ファンネル」が実用化されてもそれは、これまで何度も繰り返してきた、当たり前のことに過ぎないと言えるのかもしれません。

【写真】無人機化されたF-16

F-16戦闘機を無人機に改造したアメリカ空軍のQF-16。主に標的機として活用されている(写真出典:アメリカ空軍)。