アジア最終予選は、W杯出場を懸けたギリギリの戦いになるのではないか。98年フランスW杯のように、プレイオフにまで行ってしまうのではないか。僕はハリルジャパンに大きな不安を抱いている。新しい監督を探し求めたくなるが、サッカー協会は一度、八百長の嫌疑をかけられたアギーレを解任している。「違約金は支払っていない」とは大仁会長の言葉だが、別の名目で多額のお金が支払われたことは想像に難くない。2度目の交代となれば大仁会長、原専務理事、霜田技術委員長を追求する声はいっそう高まるだろう。ハリルホジッチで最後まで行きたい。これが彼らの本音だと思う。

 交代が行われても、ハリルホジッチよりお金が掛かる大物監督が招かれる可能性は低いと考えられる。

 いまからおよそ8年前、オシムが病気で倒れた時、当時会長だった川淵さんは「時間がない」と、その代役にすかさず岡田さんを抜擢した。こちらの、焦らず、じっくり探すべきとの思いとは裏腹な選択だったが、世の中の抵抗感はそれほど高くなかった。日本代表に日本人監督が就くことに違和感を抱く人は少なかった。

 いま日本にそうしたムードはあるだろうか。突如解任されたアギーレの後任に、日本人監督が就いたとしたら、どんな反応を示しただろうか。ハリルホジッチに何かあったら日本人監督でも構わないと思っている人はどれほどいるだろうか。

 日本代表監督は日本人監督で。そうした意見は最近、とんと聞かれなくなった。この数年間でファンの目が肥え、その世界性、世界観が広がったことも一因だが、一方で日本人監督の力不足も挙げたくなる。

 8年前、日本人監督で、日本代表監督の座に近かったのは岡田さんと西野さんだ。しかし、岡田さんは現在、今治FCを運営する会社の代表取締役。監督業を、卒業した形になっている。西野さんは、今季限りで名古屋を退任。「ハリルホジッチの後任に」というムードではない。

 日本人の候補をいま敢えて挙げるなら長谷川健太と森保一になるが、両者が岡田、西野を超えたかと言えば、もう一息、二息足りない気がする。8年前の両氏より物足りなく映る。長谷川、森保以外になると、適当な名前はなかなか浮かばない。大穴を挙げれば、福岡の井原正巳監督ぐらいか。

 よい若手選手の数が激減していると、僕はこれまで再三述べてきた。が、それ以上に枯渇しているのが優秀な監督だ。世界の檜舞台で、采配を鮮やかに決める日本人監督の姿は想像しづらい。選手のレベルと監督のレベル。劣っているのはどっち? との問われれば、答えは明らかだ。選手より世界的なレベルで劣る監督が、選手を指導するという構図があるとすれば、期待感は抱けない。選手のレベルを監督が下げることになりかねない。

 その国の将来は、その国の育成に委ねられている。育成年代のサッカーを見れば、代表チームの5年後、10年後が占えるーーとは、この世界の常識的な考え方だが、それは指導者の質と密接に関係している。指導者は言い換えれば監督。つまり、その国の監督のレベルを見れば、代表チームの力は占える。

 Jリーグのサッカーは、そういった意味で貴重な物差しになる。そこで、これだ! と代表監督に推したくなるようなサッカーをする自国の監督が見あたらない日本。

 中でも一番不足している要素は何かと言えば監督らしい雰囲気。カリスマ性だ。記者会見場のひな壇に座った際に、この監督やるなと、期待感を抱かせるパンチの効いた言葉を繰り出す人は少ない。細々としたプレイの話ではない。スケール感のある話。いい話、聞いて得をしたような気分になる名言。機知に富んだ深みのある話だ。

 先日、見ていたテレビの情報によれば、哲学に関する本が密かに売れているという話だった。巷ではいま哲学がブームなのだという。監督に欲しい視点である。