朝鮮総連トップ・許宗萬議長の自宅も家宅捜索

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 昨年3月末、北京で1年4か月ぶりに日朝外務省局長級協議を開催して以降、「対話」を重視。拉致被害者に関する北朝鮮の再調査の結果を引き出そうとしていた政府が、「圧力」へと路線を変化させている。

 転換は今年に入ってからだ。

 1月28日、朝鮮総連中央本部ビルの所有権を持つマルナカホールディングスは、グリーンフォーリスト(以下、グ社)に、約44億円で売却した。グ社は、山形県酒田市に本社を置く倉庫業で、それだけの資産はない。

 証明するように、同日付で総連系企業の白山出版会館管理会が50億円の根抵当権を設定した。グ社の役割は、総連本部にビルを継続使用させるためのダミーだった。

 官邸がその気になれば、グ社への所有権移転に異議を唱えるのは可能である。実際、マルナカへの移動までに、何社も“横ヤリ”を受けて頓挫。今回、官邸は継続使用を願う総連をおもんぱかって黙認した。

経済制裁の2年延長を決定

 しかし、北朝鮮はその日本の“誠意”に応えない。

 官邸がなにより欲しているのは、拉致被害者の情報である。残る12名(蓮池夫妻ら5名は帰国)のうち、少しでも多くの生存者情報を期待。安倍首相の使命は、その人たちを帰国させることだ。もちろん、それが支持率アップにつながるという計算もある。

 ところが北朝鮮は、昨年10月の日本政府代表団に対して、「調査中」以上の回答をもたらさなかった。

 今年2月末、アジア大洋州局の小野敬一・北東アジア課長を大連に派遣、北朝鮮と接触させたが、その結果、北側は日本人遺骨や日本人配偶者の調査結果を先行させる意向であることが判明した。

「北の引き延ばし作戦」と、理解した政府は、3月31日の閣議で、4月13日に期限を迎える北朝鮮経済制裁措置について、2年間の延長を決めた。

総連トップの自宅に家宅捜索も

 警察も、しびれを切らしたように外為法違反事件の強制捜査に着手。3月26日、北朝鮮産のマツタケを中国産と偽って輸入したとして、貿易会社「東方」の社長らを逮捕するとともに、総連トップの許宗萬議長宅を家宅捜索した。

 逮捕容疑は4年半前の輸入に関する外為法違反だが、既に、昨年5月、大掛かりな家宅捜索を実施。いつでも逮捕できる環境にあった。それを引き伸ばしてきたのは、「対話」を進める官邸への遠慮だった。

 外務省には、これまで北朝鮮との交渉を担ってきた伊原純一・北東アジア局長と小野課長が、ともに異動の時期を迎えており、任期中の成果を目指したいという思惑がある。

 そうした関係当局の意向が、北朝鮮の煮えきれない態度に対する「高圧」をもたらしている。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある