数々のぼったくり事件が起こっている新宿・歌舞伎町

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 今年2月、51万円の高額料金を支払えなかった男性客を店で強制的に働かせたとして、東京都新宿区歌舞伎町にあるキャバクラ店の男性従業員5人が逮捕された(都ぼったくり防止条例違反容疑と労働基準法違反容疑)。

 警視庁によると、2014年12月1日、男性客は客引きから「1時間4000円で遊べる」と言われて入店したが、実際には「40分2万円」「サービス料30%」などまったく異なる料金体系になっていた。男性客が「こんな大金は払えない」と支払いを拒否すると、従業員らは男性客の腹をなぐった上、「うちで働いて返すしかねえんだよっ!」などと脅し、翌日2日の朝方まで13時間にわたって、男性客に店のトイレ掃除や客引きをさせたという。

 このように最近、全国の繁華街でいわゆる「ぼったくり」の被害に遭う人が増加傾向にある。たとえば、国民生活センターのデータベースで「外食における価格・料金」についての相談件数を見ると年々、増加傾向にあることがわかる。2009年度は616件にとどまっていた相談件数は2014年度(2015年3月28日までの集計)では1241件まで増加した。犯罪の暗数調査(被害の申告率)や1件あたりの被害金額(判明している事件の平均被害額)などをもとに2014年度の年間の被害金額を推計すると、全国では約10億円に上ったとみられる。

 ぼったくりをする業種は多様で、キャバクラのように風営法の許可が必要な店のほか、居酒屋などでも増えている。たとえば、2014年末には、新宿区歌舞伎町にある居酒屋が、席料などが高額で「ぼったくり」だとの批判をインターネット上で浴び、閉店に追い込まれている。

 読者のみなさんもご承知の通り、ぼったくりは1990年代に被害が急増した。被害が多発する中、東京都は2000年に全国初の「ぼったくり防止条例」を制定。北海や大阪、福岡など一部の都道府県でも条例を施行するようになった。その後、条例の効果もあってぼったくり被害は沈静化していた。

 では、なぜ最近になって再度ぼったくりの被害が増えてきたのだろうか。背景のひとつに、飲食店の競争が激化していることがある。

 飲食店の新規出店が増える一方、客の財布のヒモはまだ固く、需要と供給のバランスによって、全体的に客単価が下がっている。とくに2014年4月に消費税の税率が5%から8%にアップして以降、客単価の下がり方が顕著だ。

 こうした状況下、薄利多売でやっていけなくなった店が、一見の客をターゲットとしたぼったくりに手を染め、短期間で荒稼ぎしてすぐに店じまいするケースが増えたと考えられる。

ぼったくり防止条例には罰則規定がない

 ぼったくり被害が増えているもうひとつの理由は、ぼったくり店が客引きを巧妙に活用していることだ。東京都のぼったくり防止条例は、店が客引きを利用することを禁じているものの、最近の客引きは、店との雇用関係がない客引き専門の業者が多いため、行政側としては、客引きに店との関係を否認されると、そこで責任の所在が不明確となり、効果的な指導ができなくなってしまう。

 しかも、客引きは、店に呼び込んだ客数などに応じて成功報酬がもらえる仕組みになっているので、店の料金体系を実際よりも安く提示して、とにかくなんでもいいから店に呼び込む人数を増やそうというインセンティブが強く働く。2013年9月に東京都新宿区が客引き防止条例を施行するなど、客引きへの規制を強化する自治体は増えているが、新宿区の条例では客引き行為に対する罰則規定がないため、ぼったくり専門の客引きを抑止する効果は弱いというのが実情だ。

 新宿区歌舞伎町の場合、飲食店やキャバクラなど約7000店のうち、ぼったくりに手を染めている店はわずか十数店舗にすぎないという。

 しかし、ごく一部であっても、悪質なぼったくり店による被害が出てしまうと、繁華街に集積するほかのすべての店にもマイナスの影響が及んでくる。歌舞伎町では、ぼったくり店の被害が相次ぐ中、繁華街を訪れる客数が次第に減少し、地域の飲食店全体の採算が悪化するといった悪循環に陥りつつある。

 ぼったくりの被害を減らすには、あの手この手で客をぼったくり店へと誘導する悪質な客引きを撲滅するのが最も効果的であり、それには客側が「客引きは100%ぼったくり」という意識を強く持って、客引きには絶対についていかないよう気をつけることがなによりも重要だろう。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

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