ヨーロッパを席巻する「アルディ」「リドル」というドイツ系ディスカウントストアの隆盛
飲用水1.5Lが0.17ユーロ(約24円)、パスタ500gが0.44ユーロ(約61円)、果汁100%のフルーツジュースが0.99ユーロ(約140円)、魚の缶詰が0,75ユーロ(約105円)とイタリアのリドルで例を上げると、円安の今ですら、食料品は日本より安いか同じ程度の値段でした。外食はマクドナルドのセットですら、1000円を越える勢いだったりしますけど……。
◆価格破壊
イギリスで見かけたALDI(アルディ)の強烈な比較広告。
従来のブランド品なら「£34.55(約6200円)」しますが、ALDIのブランド品なら「£18.82(約3400円)」しかかからず、45%もプライスダウンといった自社の魅力をアピールしていました。
……でも待ってください。よく分からない商品より、コーラならコカ・コーラ、チョコレートならネスレ、シリアルならケロッグ、ケチャップならハインツと、有名メーカーをできれば買いたい。「いや、その理屈はおかしい」と通常のスーパーを眺めてみると、それはそれで高くて手が出せない。「認識が甘かった」と頭を下げて、ともかく安いALDIを利用していました。なんだかモヤモヤとさせられる広告なのです。
イギリスの標準的なスーパーマーケットTesco。
アイルランドの首都ダブリンのLidl(リドル)では、レジに行列ができるほどの賑いでした。ALDIと同様の店舗運営をとるLidlですが、お客さんの出入りが途絶えることはありません。一方で、ふと立ち寄ったTescoの店内は閑散としていて寂しい様子。ヨーロッパにおける総合小売業の現場では、明暗が分かれつつあります。
イギリスにおけるスーパーマーケット業界のシェア争いを報じるニュース、Tescoはシェアを落としています、
Tesco loses market share as Aldi and Lidl continue UK assault | City A.M.
http://www.cityam.com/1409129242/tesco-loses-market-share-aldi-and-lidl-continue-uk-assault
◆店舗スタイル
ヨーロッパにおけるスーパーマーケットの展開は、巨大型のハイパーマーケット、通常型のスーパーマーケット、都市型のミニスーパー、低価格のディスカウントストアと4つの形態を考えると分かりやすいです。フランス系のAuchan(アシャン)のようにハイパーマーケット、ドイツ系のALDIのようにディスカウントストアと一つの形態にこだわる企業もある一方で、フランス系のCarrefour(カルフール)のようにハイパーマーケットからミニスーパーまで多極的な店舗運営をとる企業もあります。
フランス系のハイパーマーケットAuchan。
こちらもフランス系、E.Leclercの大型店舗。
Carrefourは世界有数のスーパーマーケットチェーン。
そうしたヨーロッパの中で、徹底的なコスト削減により、低価格路線を突き走るディスカウントストアが、総合小売業の中でシェアを拡大しつつあります。その代表的な企業がドイツ系のLidlとALDIで、4年前と変わらず今年の旅でも圧倒的な勢いを感じました。ドイツ系に限らず、ディスカウントストア型の企業は各国で見かけます。
こちらもドイツ系でPENNY Market。
イギリス系のIceland。
フランス系でLeader Price。
イタリア系でEurospin。
スペイン系でDia。こちらはブラジルにも店舗がありました。
◆あらゆるコストを削減
では、ディスカウントストアは何が違うのか。これは特にLidlとALDIで際立っているのですが、何点か具体例を挙げてみます。
ディスカウントストアでは経費削減のために棚は少なく、商品が入った箱の一部を切り取り、取り出せる形にして配置されています。飲料水やトイレットペーパーといった大型商品は、パレットに積み重ねられた状態での陳列でした。倉庫から商品が載ったパレットを、ハンドリフトを使って店内に移します。スーパーマーケットに比べると品揃えは豊富ではありません。取り扱う商品が絞ってあるのも、効率を重視する為でしょう。ただ、野菜や果物、魚や肉といった生鮮食品も取り扱っており、必要な物はたいてい揃います。
イタリアでみかけた標準的なLidlの店舗。
「Retailer of the Year 2013」と賞を受けたことをアピールするイタリアの店舗。
イギリスにも進出していたLidl。
オーストリアでオープンを控えていたALDIの新店舗。
EUではないスイスにも進出していたALDI。
物価の高いスイスでしたが、ノルウェーほどの苦労はありませんでした。その違いはALDIとLidlの有無だと思っています。
そしてLidlやALDIに置かれているほとんどの商品は、プライベートブランドです。もし大手スーパーが同じような陳列を試みると、同じパッケージの商品ばかりで買物がつまらなくなるでしょう。その点、LidlやALDIの商品は飲料、スナック、日用品とカテゴリごとにブランド化されているので、消費者も選択しているかのように錯覚します。金銭的な面からプライベートブランドを選ぶのですが、貧しさを感じさせない工夫になっていました。
カテゴリごとにブランド化されたLidlのプライベートブランド。
チラシを眺めてみても、様々なブランドの商品を扱っているように映ります。
イタリアのLidlで自国産をアピールした食品。
Lidlには「Crivit Sports」というアウトドアブランドもあって、サイクル用品も手に入ります。
圧倒的なレジの早さも忘れてはいけません。商品を載せるベルトコンベアは長く、買い物カゴでしたら5人分は優に置くことができます。商品を予め並べておくことで、会計の際に取り出す手間を短縮。そして商品のバーコードにも工夫があり、右から左に流すだけで値段を読み取っていました。わざわざバーコードを探すことなんてしません。ショッピングカートを満載にしてたお客さんが前に並んでいたとしても、少し待つだけで自分の順番に代わります。
バーコードが箱の側面と上面に。
大きく伸ばしてあるバーコードの印刷。
こうしたバーコードの使い方は、レジスピードの効率化に役立っていました。
◆実際の値段
イギリスのALDIで買い物をしたところ、
・ネクタリン 0.79ポンド(約140円)
・トマト 0.59ポンド(約105円)
・えびマヨ味のサンドイッチ 1.29ポンド(約230円)
・スニッカーズ 0.33ポンド(約60円)
・ヨーグルト 0.31ポンド(約55円)
・8Pチーズ 0.59ポンド(約105円)
・トルティーヤ 0.85ポンド(約150円)
という感じでした。
スイスのALDIにあるエナジードリンクは0.59フラン(約70円)と格安。
前回は見かけなかったのですが、今回訪れた何軒かのLidlでは店内でパンを焼いてたりしました。2つのパンで0.30ポンド(約55円)。工場で大量生産された商品とは違って、ふっくらしたパンの食感がたまりません。
LidlやALDIといったドイツ系のディスカウントストアが、ドイツ以外に進出することがあっても、他国のディスカウントストアがドイツに進出することは希です。唯一、デンマーク系のNETTOくらいでしょうか。ヨーロッパにおけるドイツ経済の好調さは、ディスカウントストアでも垣間見ることができました。
ただ、弱点がないわけではありません。やはり本質は「安かろう悪かろう」で、スイスのALDIで手に入れたフルーツの缶詰は刈入れまで効率的なのか、野菜のような味がしました。面白みが足りないのもデメリットに感じます。実際にフランスではAuchanやCarrefourといった地元資本が価格競争で対峙していて、価格が近いなら買い物したいのは後者でした。既存のスーパーマーケットもセルフレジの導入など、手をこまねいてるばかりではありません。
ドイツ系ディスカウントストアの攻勢も含めて、今後の展開から目が離せません。ヨーロッパの流通戦争は熾烈さを極めていました。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)