37年目の鈴鹿8耐。ケビン・シュワンツの「伝説の走り」を見よ!
今年で37回目を迎える真夏の祭典――、鈴鹿8時間耐久ロードレースが今週末(7月24日〜27日)に三重県・鈴鹿サーキットで開催される。
『8耐』の通称で親しまれているこのレースは、若者たちの間でオートバイが大人気だった1980年代のバイクブーム全盛時代には、15万人を超える観客動員数を誇っていた。だが、二輪車市場の縮小やモータースポーツ人気の低迷に加え、夏フェスなどの競合イベントが台頭したこともあり、若者の興味は次第にさまざまな方向へ拡散・多様化していった。これらの複合的な要因が絡みあい、今の8耐は、一定数の固定ファンを除けば、かつてのような賑わいを取り戻すことが難しい状況が続いている。
鈴鹿8耐は、日曜の午前11時半、蝉(せみ)の鳴き声が静寂を際立たせるなか、ル・マン式スタート(※)でレースが始まる。そして夜の7時半、暗闇を貫くヘッドライトの残像が次々とゴールラインを通過してゆく耐久レースならではのドラマチックな展開は、今も昔も変わらない。しかし、その魅力を若い世代にアピールし、新たな観客の心を掴んでファン層を拡大することに苦労してきたのも事実だ。
※ル・マン式スタート=エンジンを切ったマシンをコース端に予選順に並べ、スタートの合図で反対側の道路脇に待機していたライダーが駆け寄り、エンジンをスタートさせて走って行く方式。
だが、その8耐が、このレースを最も熱心に支えてきた「かつてのバイク少年たち」の琴線(きんせん)に触れる出来事を前面に押し出したことで、この数年は新たな魅力を見い出しつつある。
その象徴が、昨年の8耐で実現した、ケビン・シュワンツ(アメリカ)の参戦だ。
1964年生まれのシュワンツは、1980年代後半から1990年代前半の二輪レース界で活躍した、スズキの看板選手だ。グランプリではヤマハのウェイン・レイニー(アメリカ)と数々の劇的なレースを繰り広げ、世界中のファンを魅了した。1993年には世界チャンピオンの座に就くが、翌年に引退。最大のライバルだったレイニーが1993年のレース中に下半身に麻痺を抱える事故に遭い、現役を退(しりぞ)かざるをえなかったことも、シュワンツの闘争心低下の大きな理由となった。シュワンツが使用していた『ゼッケン34番』は、今でもMotoGPの永久欠番になっている。
それ以降、公的なレース活動を一切してこなかったシュワンツだが、2013年の8耐でチームカガヤマ(スズキ)から19年ぶりに現役復帰を果たした。世界中の二輪レースファンが注目する中、灼熱の鈴鹿サーキットに登場したシュワンツは、レイニーのヘルメットを被ってレースに臨んだ。そして、かつてのようなキレのいい走りで、コース上で20代の日本人若手選手たちを相手にバトルを繰り広げたのだ。
2013年7月27日(日)午後7時30分、213周を走行したチームカガヤマは、3位でチェッカーを受けた。チームリーダーの加賀山就臣は、表彰台の上で大粒の涙を溢れさせた。その姿は、かつてのシュワンツとレイニーの激闘を知る日本のオールドファンだけではなく、この日のレースで初めてシュワンツの走る姿を見た若いファンたちも感動させるに充分な光景だった。
優勝を飾ったのは、MuSASHi RTハルク・プロ。ライダーは23歳(当時)の高橋巧と30歳のレオン・ハスラム(イギリス)、そしてこのときが8耐初参戦だった20歳のオランダ人マイケル・ファン・デル・マークのトリオ。ベテラン勢の健闘と、若い世代の活躍という、好対照をなす世代がともに登壇した昨年の表彰台は、今の8耐の在り方をはからずもよく反映したリザルトだったといえるだろう。
今年の8耐も、このディフェンディングチャンピオンチームは昨年と同じライダーの顔ぶれでレースに臨む。現在、高橋は全日本のJSB1000クラスでランキング首位に立ち、ファン・デル・マークも世界スーパースポーツ選手権で8戦中4勝を挙げて首位独走状態にあるだけに、今年も彼らは優勝の最有力候補だ。
また、シュワンツも昨年に引き続き、今年の8耐に参戦する。今年はヨシムラスズキ・シェルアドバンスのレジェンドチームとして、辻本聡、青木宣篤とトリオを結成した。辻本とシュワンツは20代のころから交流があり、1986年の8耐ではペアを組んで3位表彰台を獲得している。昨年、3位表彰台を獲得したレースの終了後に、「可能ならば来年も参戦したいけれど、そのためには前もって十分なトレーニングを積んでからにしたいね」と語っていたが、その言葉どおり、シュワンツは故郷のテキサスでトレーニングを重ね、7月上旬に鈴鹿で行なわれた事前テストにも参加。その際には、昨年の自己ベストを更新するラップタイムを記録している。
この2チーム以外にも、ホンダ勢の一翼を担うF.C.C.TSRホンダは、経験豊かな秋吉耕佑と、世界スーパーバイク選手権でランキング3位につけるジョナサン・レイ(イギリス)を擁するチームで、優勝争いに絡んでくることは間違いない。また、今年のチームカガヤマには、7月14日に行なわれたMotoGP第9戦ドイツ大会のMoto2クラスで初優勝を飾ったドミニク・エガーター(スイス)が合流する。こちらのパフォーマンスも要注目だ。
2014年鈴鹿8時間耐久ロードレースのスケジュールは、25日(金)に公式予選、26日(土)は予選上位10チームがグリッド順を決定するトップテントライアル。そして27日(日)にル・マン式のスタートで苛酷な戦いがスタートする。
8時間におよぶ長いレースの中では、毎年、予想もしない出来事がいくつも発生する。作り事ではないからこそ人の心をゆさぶるドラマは、27日の午前11時30分に戦いの火蓋が切って落とされる――。
西村章●構成・文 text by Nishimura Akira