【F1】強さは本物。ウイリアムズ、連続表彰台の要因とは
森の中を駆け抜ける長いストレートは姿を消したが、それでもなお、ドイツGPが開催されるホッケンハイムリンクは高速サーキットの部類に含まれている。一見、コンパクトに曲がりくねったレイアウトのようだが、実は直線加速とブレーキング、そしてターンして再び加速を繰り返す「ストップ&ゴー」的な性格が随所に存在しているからだ。
それはつまり、パワフルなメルセデスAMGのパワーユニットを搭載するマシンが有利であることを意味している。それだけではなく、ダウンフォースを必要とする高速コーナーが少ないという点も、2戦前のオーストリアGPに似ている。
オーストリアのツェルトベクでフロントロウを独占し、今季初表彰台を獲得したウイリアムズ陣営が、その再現を狙ってこのホッケンハイムリンクに乗り込んできたのも当然のことだった。
そして、彼らの期待どおり、ウイリアムズは予選で2位、3位を得た。決勝では、スタート直後に3番手スタートのフェリペ・マッサがイン側にいたマクラーレンのマシンと接触して横転し、リタイアを余儀なくされたが、バルテリ・ボッタスは持ち前の安定感ある走りで2位を堅守した。
レース終盤に明らかになったウイリアムズの平均燃料消費量は、1周4.574kmあたり1.94リットル。これは同じパワーユニットを搭載するメルセデスAMGよりも少ない数値で、それだけウイリアムズのマシンの空気抵抗が小さく、ストレート速度が伸びることを意味している。
予選のクラッシュで20番グリッドからスタートしたメルセデスのルイス・ハミルトンが猛追を見せ、終盤になって2位のボッタスの背後にピタリと張り付いた。そのハミルトンがコーナーの多いセクター3で0.4秒差まで接近しても抜けないのは、セクター1からの直線区間で、ボッタスがスッと前に離れていくからだった。
「ルイスを抑えるのは本当に大変だった。無線で常に交信をしていて、エンジニアからあらゆる情報を教えてもらい、ポジションを守るためにどのエンジンモードを使えばいいのかといった指示もすごく重要だったし、僕自身も最大限にプッシュしたよ」(ボッタス)
フロントロウを独占したオーストリアGPでは、ウイリアムズはメルセデスAMGと無理に戦うことは考えず、彼らに優勝を明け渡して手堅く3位表彰台を確保することだけに集中した。続くイギリスGPでも淡々と自分たちのレースをした結果、2位表彰台が転がり込んできた。
しかし、ドイツGPはハミルトンとの激しいバトルになった。
最も柔らかい2スペックが持ち込まれたピレリタイヤは、中高速で右に曲がり込む最終コーナーで左のフロントタイヤが傷む。表面がささくれ、摩耗が激しく進むのだ。多くのドライバーがこの症状に苦しみ、ペースの低下やピットストップ計画の変更を余儀なくされていた。
レース終盤になって「バルテリ、君から見たタイヤの状況を教えてくれ」というレースエンジニアからの無線に対して、ボッタスは次のように答えている。
「ちょっと苦しいから、最後まで保たせることは簡単じゃないと思う。プッシュするのは難しいと思う」
エンジニアからは何度も「このタイヤを最後まで保たせろ」と指示が飛ぶ。タイヤをいたわりながら、それでも加速重視のエンジンモードとオーバーテイクボタンの効果的な使用で、ボッタスはハミルトンを抑えきって2位表彰台を手に入れたのだ。
ボッタスは3戦連続の表彰台獲得となり、ウイリアムズはフェラーリを抜いてコンストラクターズランキング3位に浮上した。
高速サーキットでウイリアムズが速いことは誰もが知るところであり、開幕戦やバーレーンで見せたようなタイヤの性能低下の大きさ、レース戦略の拙さは、確実にもう過去のものとなっている。マシンの改良が進んだこともあるが、以前からウイリアムズが苦手としていたタイヤの扱い方とレース運営という面が改善された点が大きい。
その背景には、4月からチームに加入したロブ・スメドリー(ビークルパフォーマンス責任者)の功績が大きいと言っていいだろう。
「あらゆる細部に目を光らせ、あらゆる箇所を改善し続けていくこと。それが勝てるクルマを作るための方法だ」
スメドリーは就任当初、そう語っていた。名門フェラーリで長年過してきた経験を生かし、チーム改革の指揮官となったのだ。
「僕がオーストラリアGPとマレーシアGPを外から見ていて思ったのは、『ああ、ウチはダウンフォースもドラッグ(空気抵抗)も足りていないな』ということだった。このマシンはダウンフォース不足であるがゆえに、リアタイヤのデグラデーション(性能低下)の問題を抱えていた。空気抵抗が少ないから最高速は伸びるけど、そのせいで被るダウンフォース不足の不利は容認できるレベルではなかった」
第3戦、4月のバーレーンGPからチームに合流し、第4戦の中国GPから実務にも参加し始めたスメドリーは、ここからチーム改革に乗り出した。
「バーレーンGPまでの連戦を終えてイギリスへ戻ってから、我々は自分たちがどこを改善すべきかをしっかりと見つめ直し、チームのみんなからも良いリアクションを得た。ウイリアムズのファクトリーにやって来て見れば、空力部門だってメカニカル部門だって、その設備は素晴らしいことが分かる。あとはすべてをうまく機能させ、正しい方向へ導くだけで良かったんだ」
コース特性が合わないスペインGP、モナコGPでは苦戦を強いられ、カナダGPでは速さを見せながらも戦略上の拙さもあって、ウイリアムズはチャンスを失った。しかし、その次のオーストリアGPからは急浮上を見せた。
それは、予想よりも早い進歩だとスメドリーは語る。
「このチームに加わったときから、ここにあるリソースとポテンシャルは分かっていたんだ。しかし、こんなに早く結果に結びつくとは思っていなかった。はっきり言って、想定していたよりも6カ月、いや9カ月くらいは早く物事が進んでいる」
次のハンガリーGPはまた曲がりくねったサーキットで、ウイリアムズにとっては厳しい戦いが予想される。だからこそ、チームが本当の意味でどれだけ成長したのかを示す試金石になる。ハンガロリンクでも速さを見せることができれば、ウイリアムズの強さはもう"本物"だ。
「次のハンガリーでは厳しい戦いになるだろう。しかしこのランキング3位のポジションを守って夏休みを迎えたい」
そう語るスメドリーに、その先の野望についても尋ねた。夏休みが終われば、長いストレートがあるウイリアムズにはおあつらえ向きのベルギーGP、イタリアGPが待っている。メルセデスAMG独走の今シーズン、果たしてウイリアムズの復活優勝はあるのか?
「ベルギーのスパもイタリアのモンツァも長い直線がある。我々が野心を抱かない理由はないだろう」
今、まさに、ウイリアムズが我々の目の前でさらなる進化を遂げようとしている。
米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki