オフィシャル誌編集長のミラン便り(14)

「幸運の女神は目が悪いが、不幸の女神はよくものが見える」

 イタリアにはこんなことわざがあるが、本田圭佑の場合、まさにこの言葉が当てはまる。先週の月曜日の対ジェノア戦で、本田は待ちに待ったセリエA第一号のゴールを挙げた。またその数日前にはイタリアに来て初めて地元メディアからのインタビューを受けたことも、みなさんにこのコラムでお伝えした。本田のリーグ初ゴールのおかげで、ミランは今シーズン初めての3連勝も成し遂げた。とにかくここまではすべてが良い事ずくめだった。

 ジェノア戦の翌日、ミラネッロの練習場に姿を見せた本田の表情はいつになく晴れやかだった。それもそのはず、本田はついに進むべき正しい道を見つけることができたのだ。彼だけではない。チームも、そしてサポーターも、1月から待ち望んでいた本田の本来の姿を見られたことに喜びを感じていた。しかし......そんな本田は目ざとい不幸の女神にどうやら見つかってしまったようだ。

 金曜日の練習中、本田に予期せぬ事態が起こった。不自然な形で左足を一歩踏み出してしまった時、本田は足首に違和感を覚えた。すぐさまメディカルスタッフが駆けつける。診断は早かった。左足首の捻挫だ。幸いにもそれほど深刻なものではなかったが、日曜日のカターニャ戦は出場を見合わせたほうが良いということになった。

 今シーズンのミランに最後に残されていた目標、ヨーロッパリーグ出場権の5位に向けて、ミランはもう1試合も負けてはいられない状況にある。しかし第33節の試合、ミランは最下位のカターニャ相手にかなり苦戦を強いられた。結果的にはモントリーボのゴールのおかげで勝利し、連勝記録を4に伸ばしたが、あまり手放しで喜ぶことのできない内容であった。

 試合中から、そして試合後にも、ミランのこの体たらくは本田がいなかったからだと指摘する声があちこちから聞かれた。本田はこの試合をピッチの横で観戦しており、試合後は仲間と一緒に勝利を喜んではいたが、彼自身はゲームへのもっと別な参加の仕方を思い描いていただろう。これまで新しいチームに慣れるのに苦労し、ブーイングまで受けてきた本田だが、今回のホームでの試合は、やっとサポーターからの拍手と賞賛を受ける良いチャンスであった。しかしその夢は先送りされてしまった。

 幸い次のリボルノ戦(現地4月19日)もミランはホームで戦う。ケガが悪化するなどよほどのことがない限り、本田はこの次の試合には出場できるはずだ。サン・シーロのロッカールームからピッチへと続く長いトンネルを出たとき、闘志と勝利への欲望にあふれた瞳を我々はきっと見ることができるだろう。

 さて、泣いても笑ってもリーグ戦はあと5試合(最終節は5月18日)。その後には4年に一度の大イベントW杯が待ち受けている。

 本田の他にもミランからはあと9人の選手が、サッカー選手すべての夢であるW杯に出場する。イタリア代表としてはアバーテ、デ・シリオ、モントリーボ、バロテッリの4人。ガーナ代表としてエッシェンとムンタリ、オランダ代表のデ・ヨング(2010年南アフリカ大会の決勝で敗れた彼はリベンジに燃えている)、コロンビア代表のサパタ、そして開催国ブラジル代表のロビーニョだ。

 ミランのユニホームを脱ぎ、各国代表の色をまとったチームメイトたちが、今度はW杯の檜舞台で対戦するのを見るのも楽しみだ。子供の頃から思い描いていたミランの選手になるという夢が叶った今、本田の次の夢は日本代表の一員としてのW杯優勝ではないだろうか。え、優勝を狙うのはちょっと難しいんじゃないかって? 確かにそうかもしれないが、夢もあきらめずにいれば、時には実現するものなのだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko